
DX読書日記#12 『DX人材の育て方』 岸和良他
はじめに
今回は「DX人材の育て方」(2022年)という本を読んでみました。
著者は、住友生命の理事でデジタルオフィサーの岸知良氏と、同社でDXの推進を担当されている皆さんです。
住友生命で実践しているDX人材の育成について、具体的に、また、大変分かりやすく説明されています。
本書の概要
本書では、最初に、DXの基本的な概念と、よくある誤解について簡潔に説明しています。
DX定義のポイント
①データを使うこと
②デジタルを使うこと
③ビジネスを変革すること
④それができる組織
⑤それができる人材を維持できるように教育すること
DXの5段階
レベル1 デジタイゼーション
既存のビジネスモデルの中で、電子化などによって業務の一部を効率化する
レベル2 デジタライゼーション
既存のビジネスモデルの中で、業務の全体を一貫して電子化して効率化する
レベル3 狭義のDX①
既存のビジネスモデルの中で、今までにない価値を既存市場に提供する
レベル4 狭義のDX②
ビジネスモデルの変換まで行い、今までにない価値を既存市場だけでなく、新規市場に提供する
レベル5 究極的なDX
破壊的ビジネスモデルによって他業界を席巻する
DXの誤解パターン
成功事例型
勝ち組企業のビジネスモデルを模倣することがDXと考える
技術概念型
技術や概念を導入することがDXと考える
手法型
デジタルマーケティングなどの手法を導入することがDXと考える
ここで、DXで目指すのは新しい価値の提供とそのための人材育成と分かりやすく整理し、このあと、DX人材を定義した上で、それを社内研修の施策にまで、しっかり落とし込んでいます。
デジタイゼーションやデジタライゼーションについては、同社では既に十分実施できているということのようですね。
DX人材の定義については、IPAのDX人材モデルも参照し、
DX人材の種類ごと、その役割と必要な能力、DXプロジェクトの各フェーズでの実施タスクについて整理しています。
IPAのDX人材の種類
①プロデューサー
②ビジネスデザイナー
③アーキテクト
④データサイエンティスト/AIエンジニア
⑤UXデザイナー
⑥エンジニア/プログラマー
DX人材に必要とされる能力
①ビジネス発想力、ビジネスを作り出す力
②プロジェクトマネジメント力
③社内調整力、社内政治力
④システムデザイン力(設計力)
⑤データ分析力、データビジネス発想力
⑥UI/UXデザイン力と改善力
⑦DXに向くシステム開発環境を使ってシステム開発を行う力
DXの各フェーズ
①ビジネス構想とシステム方針検討
②情報収集とオープンイノベーション
③システム企画
④要件定義
⑤システム設計
⑥システム開発
⑦総合テストとサービスイン
⑧保守
DX人材候補者の選定について、
「中途採用」と「外部専門人材の活用」は費用対効果の面で得策ではなく、「新卒採用」は離職リスクの高さを指摘し、多くの企業で「内部人材のシフト」を検討する必要があるとしています。
DX人材候補者
①中途採用
②新卒採用
③外部専門人材の活用
④内部人材のシフト
「内部人材のシフト」におけるDX人材の選定方法としては「公募」が有効とのことです。
公募の長所と短所
長所
・DXという新しい仕事に意欲的に取り組む人材を集められる
・DXに必要な能力を持つ人材を集められる など
短所
・現状の仕事が嫌で異動したい人が混入する可能性がある
・DXに関する仕事の表面的な見栄えの良さなどにあこがれる人が混入する可能性がある など
公募で確認したい主な事項
・現所属の勤務状況
・新しい仕事で何を得たいか
・何を達成したいか
・どのような意欲があるか
公募制度で導入すべきルール
・原所属で過度な応募禁止をしない
・応募した人を引き止めない
・人事交渉をして応募をなかったことにしない など
公募における選抜の基準については、各社がDXで何を目指すかによって異なるとのことですが、DX人材の種類ごと、必要な能力と資質、行動特性を整理しています。
各DX人材に必要とされる資質、行動特性
①イノベーティブ資質
②責任感が強い、実行力を持つ行動特性
③コミュニケーション性向の高い資質、行動特性
次に、DX人材の種類ごと、育成手法について整理しています。
最初に、以下の人材を上流DX4人材として、
上流DX4人材
プロデゥーサー
ビジネスアナリスト
アーキテクト(業務)
UXデザイナー
上流DX4人材の育成
①自己学習
・情報処理技術者試験、DX検定、DXビジネス検定などを活用
・ワークショップ型研修と組み合わせる
②座学型研修
・集合研修は極力少なくする、同じ時間に受講者を集めるのが難しい
・集合研修をするならワークショップ型や実践型のほうが学習効果が高い
③ワークショップ型研修
・ワークショップ型研修を中心に実施
・実務に近い形での学びが可能
④実践型演習
・希望者や業務上DXに携わっている人材が対象
・ワークショップ型との違いは、頻度が多く、実際的な課題としていること
⑤OJT
・DXの仕事は多くのDX人材候補者には新しいことばかり
・そのため自己学習や座学型研修ではなかなか身につかない、OJTが効果的
・最初に教えるべきことはマインドセット変革
・スピード重視や他人の知恵を参考にするなど、新しい仕事のやり方を身につけることが必要
次に、データ分析人材については、3つの領域に人材を分け、
データサイエンス人材
データビジネス人材
データエンジニアリング人材
データサイエンス人材
・資質/要件 理系のバックボーン、プログラミング経験
・主要な育成手法 外部の専門スクール、OJT
データビジネス人材
・資質/要件 担当ビジネスのドメイン知識
・主要な育成手法 社内勉強会、OJT
社内勉強会のコンテンツ例(勉強会アジェンダ)
①当社がデータ分析に取り組む背景(外部環境・内部環境)
②機械学習のイメージ、機械学習の応用例
③データ分析プロジェクトの全体像
④企画フェーズの進め方
データエンジニアリング人材
・資質/要件 データベース、システムインフラ、SQL、
アプリケーションシステムの知識
・主要な育成手法 外部の専門スクール、ベンダー提供の教育プログラム
システム開発人材については、既存システム人材のリスキリングによる配置転換が現実的としています。
・DX型の仕事面では従来型の受託開発では時間軸が合わないことも多く、企業内に内製化の体制を整えることが重要
・一方で、日本全体でIT人材は不足、特にDX人材に分類される人材は希少
・中途採用で外部からの登用を中心にDX人材を揃えることは厳しい
・既存システム人材のリスキリングによる配置転換が現実的
システム開発人材の育成
①自己学習
・eラーニングで全体感をつかむ
・書籍で知識体制をつかむ
②座学型研修
・社外の教育事業者の研修コンテンツ
・既存システムとの差異を理解することが習得への近道
③実践型演習
・実務を見据えてチーム演習を中心に実施
・チーム演習はピアラーニング形式、ハッカソンでデジタル技術とビジネス発想を掛け合わせる
④OJT
・DXの仕事は多くのDX人材候補者には新しいことばかり
・自己学習や座学型研修ではなかなか身につかない、OJTが効果的
・実装やテストでは、モブプログラミングやペアプログラミングなどの手法を取り入れ上級者が伴走
以上は、同社におけるDX人材の育成の概念やポイントの整理になりますが、同社で実施している研修についても実に詳細に紹介されています。
マインドセット研修
目的・概要
・DX人材には新しい用語を覚えたり、それを使って新しいビジネスを考え出したりする発想力が不可欠
・DX人材候補者向けに1日で体験できる内製のワークショップ中心の研修
・住友生命グループのエンジニア人材、ビジネス人材、社外の人材が受講
・当初は、既存システム人材のDX人材へのシフトを目的に開始
カリキュラム
講義(1) 研修の趣旨・目的
グループワーク(1) DXとは何か
講義(2) DXとは何か
講義(3) ビジネスモデルの変革
グループワーク(2) ビジネスモデルの変革
講義(4) ビジネスモデル変革の事例紹介
講義(5) DXの基礎用語
グループワーク(3) DXの基礎用語
講義(6) 新しいビジネスモデルを作ってみよう
グループワーク(4) 新しいビジネスモデルを作ってみよう
ビジネス発想力研修
目的・概要
・DXに関するビジネスやシステム開発の企画・推進には、ビジネスの知識やビジネスを発想したり、作り出したりする力が必要
・これを養成するためには多くのビジネスの仕掛けの知識を収集し、それが使われている事例を調べ、自社にどのように活かせるのか考える訓練が必要
・継続的実践型演習により、「時事課題と社会課題解決力」の養成に注力
・住友グループの上流工程のエンジニア人材(DX企画・推進人材の候補者)が受講
実践型演習の解決テーマ例
・Uber Eatsを使って高齢者を検討にする
・保険とエンタメ業界の協業でお客さまサービスを提供する
・保険と旅行の協業できるお客さまサービスを提供する
・コロナ禍のネットスーパーの価値を高めるビジネス
・コロナ禍の飲食店ビジネスの売上アップ
・地方の豪雪地帯のビジネス活性化
・プロ野球の売上を向上させるビジネス
・空き家を活かすビジネスモデル など
テーマの提示から発表までのラフな流れ
①スケジュールと役割分担決め(対面・Zoom)
②役割分担をもとに各自で調査(各自作業)
③調査結果などの共有(非対面・Slack)
④各自アイデア出し(非対面・Slack)
⑤チーム案調整(対面・Zoom)
⑥各自で資料作成[ページごとに分担](非対面・Googleスライド)
⑦プレゼン資料の作成[資料統合](対面・Zoom)
⑧プレゼン準備(非対面・Slack)
最後に、DX人材育成計画の考え方について説明しています。
「企業の社員全体の底上げ」については、
現在の所属部署での業務を継続しながらとなるため、本人の強い意欲が必要で、自己啓発的な学習の性格が強くなることから、リスキリングではなく、リカレント学習での対応を勧めています。
リカレント学習 自主的な学び直し
リスキリング 企業が業務目的に対して組織的に育成
また、最近、リカレント学習の必要性が高まっている背景として、世の中が目まぐるしく変化し、どのような職種の人であっても、これまでの知識やスキルでは対応できなくなっていることを挙げています。
リカレント学習が必要になっている背景
・ビジネス環境が作り手志向 →消費者志向に変化
・商品・サービスは単体機能価値 →総合体験価値に変化
・商品・サービスつくりは企業内完結 →消費者参加型に変化
・商品・サービスつくりは企業単独 →複数企業のシェアードバリューに変化
・マーケティング活動はマス →SNS・インフルエンサー・コンテンツに変化
・対象顧客は見えないお客さま →見えるファンに変化
・サプライチェーンは長く・遠く →短く・近くに変化(デジタル化)
リカレント学習の4要素
①マインドセット変革 きっかけ作り
②再学習対象 何を学ぶか
③再学習方法 どう学ぶか
④評価方法 どう評価するか
再学習分野としてふさわしいもの
・これから必要になる新しい分野(社会課題、持続性)
・社会での注目分野(デジタル、データ、ビジネス)
・会社の経営で必要となる分野(経営の方向性実現)
・学ぶ人が持つスキルと近い分野
・学ぶ人が好きな分野
・学ぶ人が将来の目標を達成するのに役立つ分野
「DXに関する企画・推進人材の育成」については、
DX人材の育成計画の進め方
①経営戦略を決める
②デジタル戦略を決める
③組織と人材の役割を決める
④人材能力を定義し、足りない能力を明らかにする
⑤学習カリキュラムを考えて実施し、評価する
とのことです。
おわりに
本書を読んで、DX人材育成が、DXを推進する上で、中心的な取り組みなのだと改めて実感することができました!
DX人材育成担当の方だけでなく、DX推進担当の方々にも参考になる一冊と思います!
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