No.11「集団行動がとれる」の光と影(園だより11月号・前半より)

昨年10月1日に行われた来年度の入園のための面談で気付いたことがあります。

面談を通して、入園に際し保護者の方が最も心配していることの一つが、「うちの子は集団行動が出来るだろうか?」、「他の子と上手くやっていけるだろうか?」であることを知りました。

実はこれは、現在の日本の教育が直面する最大の難問に関係しています。

ブログ等で再三申し上げてきましたように、現在から未来に向けて日本に求められているのは、「のびのびと自由な遊びを通して、一人ひとりの子どもが本来持つ多様な能力・資質(個性)を解放する」ことです。

「のぞみ」は伝統的にこれを行ってきたわけですが、従来の日本の教育は基本的に、「のぞみ」のような「個性を伸ばす」教育を犠牲にするかたちで、「集団行動がとれる」に重点を置いてきました。

その最たる理由は、太平洋戦争に至る文字通りの戦争と、戦後の経済戦争という二つの戦争に勝利するためでした。「文字通りの戦争」のほうは言わずと知れずでしょう。

ではなぜ、戦後の経済復興のために、「個」が犠牲にされ「全体」が優先されたのか?

それは一言で言えば、均質・高品質な製品を迅速に大量生産するために、それに適した能力を持つ人間を大量に必要としたからです。

このように常に教育のあり方は、各時代の世界経済や世界情勢のあり方に大きく左右されます。

そして、今後の世界を生き抜くために必要な能力(「生き抜く力」)とは、日本では長年「集団行動がとれる」能力育成の犠牲になってきた、個性をもとにした能力(創造力、主体的問題解決能力、実践力)です。

かと言って、「集団行動がとれる」能力が不必要になったわけではありません。

2019年10月6日、100名を越える犠牲者を出した大きな台風が東日本を襲った時のことです。私は、カナダのラジオ・ニュースを通してそのことを知りました。

私を驚かせたのは、そのニュース番組の内容です。

東京からその様子を伝える特派員は、状況説明もほどほどに、日本人が「ある点」において「世界一優れた国民」であることを長々と語り始めたのです。

その「ある点」とはまさに、「世界のどの国よりも上手く集団行動がとれる」ということです。

特派員曰く、カナダなら半年はかかるであろう復旧を、昼に台風が通過した後ほんの数時間足らずで済ませ、夜には街の機能はほぼ回復しているとのことでした。

また特派員は、これだけの大惨事にもかかわらず、全くパニックが起きていないことにも大変驚いていました。

復旧の早さとパニックの回避は、東日本大震災が起きた際も世界中から賞賛されたことです。

これからの「のぞみっこ」の人生は、これまで「100年に一度」と言われていた災害が日常的に襲ってくる人生です。

それを生き抜くには、「集団行動がとれる」能力は勿論のこと、「多様な能力・資質(個性)」が必要となります。

超少子高齢化により、日本人だけではライフ・ラインさえ維持出来なくなるなか、日本人以外と協働出来ること、AIやロボットとともに働けること、少ない人数でライフ・ラインその他を維持出来るシステムを発案する創造力などが必要となるからです。

「個性を伸ばす」と「集団行動がとれる」という、これまで対立関係にあった教育を両立させること。

これこそが、現在の日本の教育が直面する最大の難問です。

そしてそれを解く鍵を、「のぞみ」の先生たちの「声かけ」が示しているのです(ブログNo10.『「いき」な叱り方・褒め方』参照)。


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