「身体が柔らかい方が怪我をしにくい」は半分ホントで半分ウソ

今回はトレーナーの村松さんが「ストレッチの落とし穴」ということをツイートしていたので、自分の理解とストレッチに対する考え方を書いていきたい。

身体が柔らかい方が怪我をしにくい

多くの人はスポーツをする上でストレッチが大事であると認識していると思う。特に怪我を予防するという意味で。

これは正しい。具体的な例を挙げて紹介する。

例1)ハムストリングスが硬い人のスクワット
ハムストリングスが硬いと、スクワットでしゃがんでいくときに、骨盤を前傾してお尻を引きながら股関節を畳んで行く動作(ヒップヒンジ)が十分にできない。骨盤が後傾したままだと膝が過度に前に出てしまい、負担のかかる状態になり、膝の痛みにつながる。

例2)胸郭の硬い人のストリームライン
胸郭が硬いと、ストリームラインをとるときに胸椎の伸展が十分にできず、身体を真っ直ぐにできない。すると腰を反って身体を真っ直ぐにしようとしてしまい、腰椎に負担がかかる状態になり、腰痛につながる。

こういった、ある動作をするときに、柔軟性などに制限があって、本来動いてほしい筋肉や関節以外の部位を動員してしまうことを「代償」と言う。

柔軟性が不十分なために代償動作が起きてしまうと、代償動作が起きた部位に負荷がかかって怪我につながるという意味で、「身体が柔らかいほうが怪我をしにくい」というのは正しい。

身体が柔らかいせいで怪我をする?

一方で、身体が柔らかいせいで怪我をするケースもあることは認識しておきたい。

まず、「可動域」には2種類ある。具体的な例を挙げて説明する。

ハムストリングスのストレッチとして、床に仰向けに寝て片足にタオルを引っ掛けて上にあげるというものをやっている人もいると思う。このときの可動域のことを、外的な力(腕の力を使って足を引っ張る)を使っているので、「受動的可動域」という。

ぜひ次に行く前に、自分が何度くらい行くか試してみてほしい。

次に、タオルを外し、手などを使わずに自分の力で脚がどこまで上がるか試してみてほしい。このときの可動域のことを、外的な力を使っていないので、「能動的可動域」という。

さて、どのぐらい脚が上がっただろうか。たいていの人はある程度は受動的可動域と能動的可動域に差が出てくると思う。わたし自身はタオルで引っ張ると100°くらいで、何も使わないと90°くらい。

この差は、身体的には動くのだけど自分では制御できない領域ということになる。

さて、ストレッチ(ここではシンプルに静的ストレッチを指すことにしたい)をして得られるのはどちらか。それは受動的可動域である。重力や自分の身体を利用して伸ばしているから。つまり、自分が制御できない領域を新たに獲得していることになる。

具体例を挙げて、どう怪我につながるか紹介してみよう。

飛び込み台からスタートをする場合、ハムストリングスの柔軟性が問題となる人は少なくないだろう。構えただけで腿裏が伸ばされて痛いという人もいるだろう。ハムストリングスが硬いと、構えたときに骨盤が後傾してしまい、台を強い力で蹴ることができない。

そこでハムストリングスをストレッチして柔軟性を獲得したとする。「よし、これで力強く飛び込めるぞ」と意気込んでスタート台の上に立つと、

ハムストリングス:「え、ぼく、こんな伸びた状態から力発揮するの?やったことないよ!怖いよ!」

となる。それでも、「だいじょうぶ、だいじょうぶ、蹴るだけだから」と、なだめて無理やり飛ぶことにすると、

ハムストリングス:「わかったよ~、どうなっても知らないからね、えいや!(ピキッ)あっ!」

となって、下手すると肉離れで全治何週間なんてことになりかねない。

仮免許を取得して公道で運転する許可が出たからといって、いきなり一人で公道を自由に運転して大丈夫なわけがなく(都会であれば特に)、教官に同乗してもらって路上教習を受ける必要がある。同様に、ストレッチで新たに獲得した可動域を自分の力でコントロールする訓練をする必要がある。

上のスタートの例であれば、スクワットやデッドリフト系の種目で、自重など負荷の軽い状態で可動域ギリギリまでハムストリングスを伸ばした状態から収縮させるようなトレーニングが必要となる。

ここからは個人的な考え

わたしはストレッチを日常的に行っている。目的はおおきく2つ。

1.不足している柔軟性を改善する
2.トレーニングによって硬くなりやすい部位の可動域を保つ

1に関しては、例に上げたようにスタート時にハムストリングスの柔軟性が不足しているので、それを改善している最中である。もちろん、下半身のエクササイズをする中で、最大可動域を使ったものを併せて行っている。

2に関しては、ハードなトレーニングをしたまま放置をすると、どうしても柔軟性が失われてしまうので、特に股関節周りと胸郭のストレッチは欠かせない。

何事もそうではあるけれど、ストレッチは必要性があってやるべきものであって、何となく硬いと怪我をしやすいって聞いたからとやるべきではないと考える。

また、ストレッチをやる前にリリース※をやるべきだと考えている。ストレッチは筋肉を伸ばす行為であるが、筋肉より外側、皮下組織の滑走性が悪い状態では、伸ばしたい筋肉が伸ばせない。身体中サランラップで巻いた状態では自由に動けない状態をイメージしてもらえれば良いと思う。

むしろ、ハードなトレーニングによって身体が硬くなったと感じる場合、ストレッチをやらなくてもリリースをするだけで可動域を概ね回復できたりするので、それでもいつもより筋肉が伸びてないなと感じたときにストレッチをするのが良いかと考えている。

※筋膜リリースとよく言われるけど、実は筋膜が柔らかくなるわけではなくて、皮膚から筋肉にかけて脂肪や筋膜含む色々な組織の層があり、リリースはそれらの層の滑走性を回復することだとか言われたりしている。おそらくミクロな世界のことはまだ研究中なのだと思う。

わたしがリリースで使用しているグッズはこちらで紹介しているので、もしまだ見てない方はぜひ。

以上。

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