「3拍子」がクセになる曲3選―マイ・フェイバリット・3拍子・シングス

 おそらく、よほど音楽が身近にあるひとでないかぎり、いちいち、いま耳にしている曲が何拍子であるのか、意識することはほとんどないでしょう。すくなくとも、かくいうわたしじしんも、ふだんは曲の拍子を意識することはありません。

 ただ、それでも、聴いていてどこか「違和感」をおぼえると、ついつい拍子を数えてしまう癖があります。そうして(とうてい解析不可能な変拍子はさておいて)、その曲が「3拍子」であることにハタと気づくと、無上のよころびをおぼえてしまうのです。いうなれば「3拍子フェティシズム」とでも称したらよいでしょうか…。

 ということで、今回は、クセになる「3拍子」をテーマに、曲を選んでみることにしました(なお、3拍子というのは、1小節に4分音符が3つあるものをいいます。童謡でいえば「ふるさと」なんかがそうですね)。

 1曲目にご紹介するのは、aikoの「もっと」

 aikoといえば、だれもが知るJポップのトップランナー。「もっと」は、aikoが2016年に発表した35番目のシングルで、同年発売のアルバム『May Dream』に収録されています。
 しかし、じつは、aikoがシングルとして3拍子の曲を発表したのは、この「もっと」がはじめてなのです。

 一般的なaikoのイメージというのは、「恋の歌を歌いつづけるちいさな歌姫」といったところかもしれませんが、音楽的にみれば、かなりクセのつよい、高度な意匠を凝らした楽曲づくりが有名でもあります。
 そのaikoにしてからが、3拍子の曲を世に問うまでこれだけの時間がかかった。逆にいえば、それだけ日本のミュージックシーンは、4拍子にたいする保守的なまでの信仰があるのかもしれません。

 2曲目は、こちら。ジョン・コルトレーンの「マイ・フェイバリット・シングス」

「ジョン・コルトレーンの」と書きましたが、もとはミュージカル「サウンド・オブ・ミュージック」の楽曲ですから、コルトレーンの演奏によって有名になった、と書くのが正確です。日本では、JR東海の「そうだ京都、行こう」の曲で知られていますね。

 コルトレーンはその生涯に、おそらく10本以上、この「マイ・フェイバリット・シングス」を録音していますが、上にあげたのは、そのなかでももっとも完成度が高いともいわれている演奏です(1963年のニューポート・ジャズフェスティバル)。

 じつは、このときのライブのドラムは、レギュラーメンバーであるエルヴィン・ジョーンズではなく、ロイ・ヘインズが叩いています。そのことが奇跡的な化学反応を生み、いつも以上に攻撃的でパッショネートなコルトレーンのインプロヴィゼーション(即興演奏)を引きだすことに成功しました。

 わたしがはじめてこの曲を聴いたのは、横浜の野毛にある「ちぐさ」というジャズ喫茶で、一時閉店していたそのお店が再開をした直後のことでした。わたしはめくるめくコルトレーンの音の波に圧倒され、ここに「音楽」そのものをみたおもいがしました。

 そして3曲目は、アレサ・フランクリンの「ナチュラル・ウーマン」

 発表は1967年。翌年発売のアルバム『レディ・ソウル』に収録されています。作詞作曲は、キャロル・キングとジェリー・ゴフィンで、キャロルは1971年発売のかの名盤『タペストリー』において、セルフカバーをしています。
 キャロルのそれとくらべるとよくわかりますが、アレサのほうがよりゴスペルふうの調子が加わっており、いっそう曲が劇的になっています。
 
 それにしても、アレサの歌声のなんという情感、そして哀感でしょうか。どんな曲であろうとも、その力強い歌声によって、一巻のドラマをつくりあげてしまうおそるべきパワーをもっています。
 アレサが亡くなってまだ3年と経っていませんが、もう二度と、これだけのシンガーに世界はめぐり合えないのではないか…そう感じさせずにはいられません。

 3選といわず、10選、20選とやりたいところですが…またの機会にゆずりましょう。

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