『アソーカ』フランチャイズが患う病
『Asoka(シーズン1 / 全8話)』(2023)★・・・。
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フランチャイズ作品には、2種類ある。
すなわち、ファンが抱く愛情の「預け入れ型」と「引き落し型」だ。前者は、単体の作品で楽しませることを通して、フランチャイズ全体への愛情をさらに深める効果がある。一方、後者は文字通り、溜め込まれた愛着を引き出して「消費」を促すにとどまる。どちらもお金の面で成功することは可能だが、「より多くの(新規の)ファンを増やしていけるか」「フランチャイズの拡張に貢献できるか」という点に大きな差が出る。
「アソーカ」は後者だ。
キッズ向けのアニメーション・タイトルやゲームシリーズなど、「スター・ウォーズ」展開の隅々までを追ってきた敬虔なファンには喜ばしい新章なようだ。ただすでに数が多くなってきたドラマ作品など、実写シリーズの派生作品の大半を見てきた者でも、「クローン・ウォーズ」「反乱者たち」あるいは「バッド・バッチ」を知らない者は蚊帳の外。
ドラマの中核は作中で組み立てられるわけでなく、それら対象作品の知識を前提にして展開していく。そのため、主人公アソーカ・タノやサビーヌ・レン、ヘラ・シンドューラ、エズラ・ブリッジャー、敵の大ボスと目されるスローン大提督といった主要キャラクターを知らないばかりか、彼らにまつわる会話についていくことが難しい。
作中、鳴り物入りで紹介されるキャラクターの数々が言うほどの活躍や存在感を示さないときが、こうした続きものに置いていかれた印象を持つきっかけになる。フランチャイズとしての設計が形骸化しがちなポイントはそこだ。
頭でキャラクターに馴染めないと、さまざまな詰めの甘さにも気が散るようになる。まったく新しい銀河へと向かう新鮮さはある。が、たどり着いた先はまたも、1惑星1文化の定型が待ち受けているのみ。異星人には奇声を発する蛮族か、人間に必要以上に配慮する召使い的な民族か、乗り物兼用の従順なペットしかいないのだから、銀河を跨いでも驚きがない。物語上も、どのキャラクターにも成長がほぼ見られず、フランチャイズの点と点を繋ぐ手続きを見るだけにとどまる。
アソーカ自身も、サプライズとしてゲスト登場する「お師匠」に脳内で訓練されるが…学びの内容は自ら「重要でない」と言わしめた剣術か、作中で見ることのなかった事前イベント(=クローン戦争)に淡く言及するのみ。両キャラクターの関係について具体的な事例が見られないだけに、入り込む余地が少ない。
帝国側も、スローン大提督の脅威が幾度となく唱えられるが、当人とその勢力は登場と同時に押され気味になる。「想定の範囲内」と宣いながら後退していく様子は予定調和とも言える設計で、目ぼしい動きに欠ける。
フランチャイズ内のすべてに意味を見出そうとする努力はある種、過剰なこだわりだ。辻褄合わせの橋渡しは「引き落し」にとどまり、シリーズ愛を倍化していく「預け入れ」までは促せない。確信犯と受け取れる節もある。言ってみれば「物語」ではなく、あらゆる派生作品を年表に記録することに執着する、歴史家の論文を読んでいるようでもある。『マンダロリアン』の後半シーズンや『ボバ・フェット』『オビ=ワンケノービ』などにも似た症状が出ていた。トニー・ギルロイが手がけた『キャシアン・アンドー』のアプローチは流石の新しさだったが、いぶし銀のタイトルに続編シリーズの予定はないと言われている。
もちろん、良さもある。ロザリオ・ドーソンの抑えたパフォーマンスは退屈だが新しい一面だ。撮影後に急逝したレイ・スティーブンソンも良い。美術、衣装も映えるし、音楽も立っている。
しかし「マーベル」作品同様、「スター・ウォーズ」は総じて、フランチャイズ特有の病に冒されているようだ。『スカイウォーカーの夜明け』以降、視聴者の長年の愛情を浪費しているケースが多い。口座から残高がなくなる前に、どう「預け入れ型」に転じられるかが今後の肝になるだろう。
(鑑賞日:2023年8月23日〜10月5日@Disney+)