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『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』は劇場娯楽・過渡期の象徴

ルール:「答え合わせ」は「作品」と「個人」を切り離してます。話すのは前者についてのみ。後者への批判は目的になし、です。

『Avengers: Infinity War』★★★・・。(4ツ星満点中、3ツ星。)

[物語]

地球に、スーパーヒーローたちが束にならなければ太刀打ちできない絶対悪が迫っているー。未知なる人類の危機に、英雄たちが集う。

[答え合わせ]

「インフィニティ・ウォー」は、演出面と技術面の双方で群を抜く完成度を見せつける。誰の目から見ても、本作の整然としたディレクションとクラフトは、明らかな快挙として受け入れられていい。

すべてのキャラクターを等間隔に配分し、活躍させる脚本と演出。これだけのキャラクターたちをプロット上で適切に処理することは、至難の業だからだ。

特筆すべきは、アクション・シークエンスの「見やすさ」。なにより、音響効果と劇伴のミックスのバランスが突出して良い。最上級にダイナミックなアクションに、状況のわかりにくさや騒がしさが伴わない。これだけ込み入った座組みが「疲れ」と無縁なことは、本作の製作班の類まれな仕事ぶりを証明する。物語面だけでなく、舞台裏の技術面でも、「インフィニティ・ウォー」は他の追随を許さない。

ゆえに、視覚・聴覚的に、とびきり魅力的な映画だと言えることは確かだ。

一方。

このマーベル・シネマティック・ユニバース最大のオールスター・イベントには、議論できる命題が4つほどある。これらのうち、いくつを享受できるかによって、この映画一本に限った個々人の楽しみ方のレベルが変わる。

物語の種明かしを避けるため、具体性を欠くことには容赦されたし。4つのポイントは、下記の通り。

映画とドラマの狭間で

「インフィニティ・ウォー」は、「ゲーム・オブ・スローンズ」にとっての「ブラックウォーターの戦い」であり、「黒の城の死闘」であり、「落とし子の戦い」だ。十数名にもおよぶヒーローたちの物語は、個々のフランチャイズを通して個別に語られてきた。すでに一周回りきったキャラクター・アークもあれば、セットアップのオリジン・ストーリーと幾度かのカメオ出演で最低限の魅力を抽出しただけのものもある。

それら18本分の物語を前提とした「ケーキのトッピング」。それが本作の立ち位置だ。

ポイントは、これは「続編」でも「最新話」でもなく、言ってみれば「ハイライト」としての特性を持っていること。つまり、一般的な映画の続編というほどには独立した物語ではなく、テレビドラマの最新話と呼ぶほどには前話との連続性もない。それでいて「劇場へ見に行ける単発映画」としても成立させたいばかりに、物語は「cut to the meat(一番美味しいところを切り出す)」な描き方に全霊をかける。

結果、本質的にアクション映画である「インフィニティ・ウォー」は、アクションによりきった作りをしている。この映画のためのドラマ部分のセットアップが、アクションに割く時間を確保するために、限界まで切り詰められているのだ。まずはその比重を受けつけることが出来るかどうかだろう。

スケールの相対性

「インフィニティ・ウォー」を監督したルッソ兄弟の出世作、「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」と「シビル・ウォー」は、当時最上級の賛辞を受けた『アベンジャーズ』第一作のスケール感をほぼ完全に凌駕していた。2作目の『アベンジャーズ』が肩透かしだったことも影響して、個別のヒーロー映画がオールスター・ブランドよりも目立つ現象が起きた。マクロなフランチャイズ的視点で、規模感のインフレ現象が起きている。

作品単位のミクロな「相対性」もある。個別の看板映画では8割以上のスクリーンタイムを独占できる個々のヒーローの役割も、オールスター映画では当然、相対的に減退する。

野球のオールスター・ゲームと同じことだ。お気に入りの選手も、大抵は1−2打席、あるいは数回分の守備についてから交代する。そんな「リーグの祭典」に行くくらいなら、プレイオフやシーズン戦を見た方が身がある、と言うファンの気持ちもわかる。

マクロなスケール感には天井が見え始めている一方で、目玉のヒーローたちは活躍のスペースを少しずつ切り詰められる現象。オールスター映画は、一本分の映画に、主役級のキャラクターを文字通りねじ込むのが摂理。そのさじ是非をどう判断するかだ。

「アンチ勧善懲悪」の向かう先

ヒーロー映画に限らず、アクションで押す娯楽作品に立ちはだかる最大の宿題は、いかに勧善懲悪のステレオタイプを抜け出すかにある。「インフィニティ・ウォー」は、これまで幾度となく指摘されてきた「ヒール」のキャラクター的な厚みに比重を傾けることで、この障壁をクリアしようとした作品だ。

しかし皮肉でもある。これだけのS級スターたちが総登場していながら、「インフィニティ・ウォー」はフルCGIでできた敵役、ジョシュ・ブローリンに最大の華を持たせる。興味深いのは、18作品もの積み重ねがあったにも関わらず、史上最大のヴィランであるサノスのセットアップにはことごとく時間を割かずにきたマーベルに「計画性があったかどうか」だ。

本来、一作200億近くも割いて作るシリーズ作品をフランチャイズとしてまとめ上げることの難しさを思えば、文句など言うところではない。しかし仮にサノスのバックストーリーを多少なりとも小出しにできていたら? 本作でのヒーローたちのドラマと掛け合いに、ひと捻りもふた捻りも加えることもできただろうか。

ヒーロー・ドラマの限界

最後は、言ってみれば「ドラゴンボール現象」とも表現すべき限界に目を向けよう。超常人間たちに与えられる究極の「物語的危機」とはなにか? 「インフィニティ・ウォー」は、この問いを壮大なスケールで投げかける。副題未定の『アベンジャーズ4』へと続くことが確約された本作は、幕引きの直前に最大の「衝撃」を投入してくる。

これが、物語的に果たしてどこまで有効的なのかは、次回作である完結編の展開にもよってくる話だ。が、日本人が90年代以前から冗談のネタに使ってきた「お約束」の要素に、「インフィニティ・ウォー」もまた踏み込もうとしている。これにどの程度反応するかだ。


それぞれの問いへの答えが、ひとりひとりの印象を左右することになる。

「どうだったか」と聞かれたら、私はめいっぱい楽しんだことを前提に、「むしろシーズン戦を見たい」と言うし、「ヒーローは少ない方がいい」と答える。もちろん、これは個人の嗜好だ。

観客ひとりひとりが好き勝手を言っても動じない程度に、本作は基礎工事が盤石な超大作に仕上がっている。


[クレジット]

監督:アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ
プロデュース:ケヴィン・ファイギ
脚本:クリストファー・マーカス、スティーブン・マクフィーリー
原作:スタン・リー&ジャック・カービー「The Avengers」
撮影:トレント・オパロック
編集:ジェフリー・フォード、マシュー・シュミット
音楽:アラン・シルヴェストリ
出演:ロバート・ダウニー・Jr、クリス・ヘムズワース、マーク・ラファロ、クリス・エヴァンス、スカーレット・ヨハンソン、ベネディクト・カンバーバッチ、ドン・チードル、トム・ホランド、チャドウィック・ボーズマン、ポール・ベタニー、エリザベス・オルセン、アンソニー・マッキー、セバスチャン・スタン、ダナイ・グリラ、ダナイ・グリラ、レティーシャ・ライト、デイヴ・バウティスタ、ゾーイ・サルダナ、ジョシュ・ブローリン、クリス・プラット
製作:マーベル・スタジオ
配給(米):ウォルト・ディズニー・スタジオ・モーション・ピクチャーズ
配給(日):ウォルト・ディズニー・ジャパン
配給(他):N/A
尺:149分
北米公開:2018年4月27日
日本公開:2018年4月27日
鑑賞日:2018年4月29日09:00〜
劇場:AMC Theaters Burbank 16

公式ウェブサイト:


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