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『チャレンジャーズ(原題)』:テニスとベッドで重ね合う、心と身体のスリル

『Challengers』(2024)★★★・。
IMDb | Rotten Tomatoes | Metacritic
公開日:2024年4月26日(水)(北米)
公開日:未定(日本)

最初に言いたくなることとしては変だけど、メイクと衣装が地味にすごい。主役の3人が、年代ごとに高校生、大学生、そして子持ちの社会人にしっかり見分けられるのは職人技のマジックのようだった。

というのも、この映画の語り口の肝は時間遊びにあるから、キャラクターの年頃や言動が見る人の理解度になおさら直結する。

正直、厳密な時間軸には追いつけない。でも感覚でわかる。なにせ現在にはじまり、10数年前に戻り、その2年後に飛び、現在の1週間前へ行って、また10数年前の2年後の少しあとの出来事を追う…なんてことをする。スーパーでいつの時代なのか表示されても混乱は必至。でも、俳優陣の外見や会話や表情のひとつひとつで、年代をしっかり意識させてくれる。

さて。この映画、主演のトリオにのめり込む。

ゼンデイヤも、マイク・ファイストも、ジョシュ・オコナーも迫真。

ゼンデイヤは息を呑むほどにアスリートなセクシーさが爆発。彼女が演じるテニスの元神童、ターシに始終振り回される。対照的な性格のアート(ファイスト)とパトリック(オコナー)も、スポーツ・恋愛・友情で競うライバル同士。その関係を精神状態キワキワで演じていて、目が離せない。

今作のルカ・グァダニーノ監督は、勝つことと情愛とをひたすら天秤にかけ続ける。倫理的にグレーゾーンな人物に焦点を充て続け、選手として、コーチとして、そして恋人や夫婦として、勝ち負けの明暗が分かれる世界でどの価値観を優先するのか、いちいち試していく。

プロテニスの競技界を舞台に繰り広げられる、身体と精神のラリー。
勝てるから愛があるのか?
勝てなくても愛はあるのか?
勝てていてもそもそも愛はないのか。
それとも、負けるからこそ愛が生まれるのか。

テニスとは「relationshipだ」というひと言が序盤で語られるけれど、この映画はテニスも、ドラマも、濡れ場も、激しいラリーのような「関係性」を描いている。相手を牽制し、なじり、挑発し、けしかけて騙し、相手からポイントをもぎ取ろうとする。

なお、その時に流れる90年代テクノミュージックのようなサウンドトラックは、かけどころがいい。ドラマ部分ではセリフがかき消されるほどの大音量でミックスされていて、まるでアクション・シーンのような扱い。「オッペンハイマー」といい本作といい、「セリフをかき消すほどの音楽」は最近のトレンドなのかと思うほど。(「オッペンハイマー」については以下どうぞ)

考えてみれば自分のミスが相手のチャンスにつながる競技はたくさんあれど、相手の加点に直接つながる競技もそうそうない。その点、テニスは恋愛やライバル関係の駆け引きと、ことさらに似ているスポーツと言えるのかもしれない。

結末はくどい印象もあるけれど、なるほど、という締め方。

下心を丸出しにして見ていい映画なんだと思う。感情をむき出しにしてこそ、映画なわけだし。いっそカップルで一緒に見て、お互いに人を焚き付ける才能を開花させ合えばいいんじゃないか、などと思う。

それくらい、勝敗を賭けた勝負のドーパミンは快感なんだと、そういうことを言いたい映画だと理解した。

(鑑賞日:2024年4月30日@21:05〜@Regal Cinemas Irvine Spectrum)

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