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44. チャールス・ラム シェイクスピア物語 新潮文庫

2023年の年明けから、それなりに買ったり借りたりして本は読んではいたが、何となくはまるものがなく過ごしていた。例えば年末に購めたハワード・ノーマン「静寂のノヴァスコシア」が年末年始の気分に読むぴったりの本だったので、同じシリーズのウィリアム・キトリッジ「砂漠へ」を買ったり、ハワード・ノーマンの「ノーザン・ライツ」「バード・アーティスト」を借りて読んだりしたが、どれも楽しめず広げることができなかった。
また、何がきっかけだったか忘れてしまったけれど、鶴見俊輔「北米体験再考」を面白く読み、一度は持っていた「鶴見俊輔伝」を借りて読み直したり、「日米交換船」を読んだりして鶴見俊輔の一面を知ろうとしたがこれも長続きしなかった。

そんななかで心待ちにしていたのが月刊みすずの読書アンケート特集号で、これを手に取れば何らか読みたくなる本が出てくるだろうと思っていた。この読書アンケートは、今は松家仁之、草光俊雄、過去には加藤典洋、坪内祐三と自分の読書を導いてくれる人の寄稿はもちろんだが、それまで知らなかった人のアンケートでもふいに心を惹かれる本と出会えることがある。今回はアイルランド文学者栩木伸明があらためて気になり、「ダブリンからダブリンへ」や中公新書の「アイルランド紀行」を楽しんで読み、新書の方は手に入れて本棚に並んでいる。
ただその後に決定的だったのが、アイルランド、イギリスめいたなかで読んだ岩波書店の図書二月号にのっていた、南條竹則「聖チャールズ」という読み物で、チャールズ・ラムと「エリア随筆」が自分のなかで初めて結びついた。そこにはまた不思議と繋がりがあり、「静寂のノヴァスコシア」を買った同じ日に、この新潮文庫の「シェイクスピア物語」を買っていたのだった。
自分のなかでチャールズ・ラムは、ジェイムズ・ジョイス「ユリシーズ」との繋がりのなかで「オデッセイスの冒険」の作者として認識していて、また、シェイクスピアの戯曲を物語にしたと来れば吉田健一なので、そういった理解の助けになればと、その日の古本買いの景気づけとして購めた。実際にその日は稀にみる古本日和の日となり、この本に感謝することになった。

そういった経緯があり「エリア随筆」が気になって、まずはみすず書房の大人の本棚シリーズの「エリア随筆抄」を借りて読んでみたところ、なかなか頭に入ってこない文章で、それでも庄野潤三の解説がとても良く、ラムを巡る紀行文である講談社文芸文庫の「陽気なオフィス・クラウン・ロウ」を先に読み始めた。ただやはり持っておこうと、南條竹則編訳の岩波文庫版「エリア随筆抄」を読んだところ、みすず書房の山内義雄訳より読みやすく、「陽気なオフィス・クラウン・ロウ」と交互に読み進めると、庄野潤三と一緒にラムのロンドンを巡っているような気がして、より味わい深く感じることができた。また「陽気な〜」で多く触れられている福原麟太郎の「チャールズ・ラム伝」も同じく文芸文庫になっているため、探して購めた。福原麟太郎と来れば吉田健一で、この「チャールズ・ラム伝」にも文章を寄せていて、吉田健一を出発点にしたラムへの関心はこうやって輪を描いたのだった。

自分の関心に従って本を読むということを二十年ほど続けているが、こうやって二百年前に書かれた作品とふいに出会うことができるから面白い。きっとまだ自分にぴったりの未知の本があるに違いないと思うと、これからの人生が楽しみに思えてくる。今は「エリア随筆」を読む愉しみを、国書刊行会からの四巻本を手に取るまで味わっていきたい。

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