伊藤幸平

読んだ本、持っている本について

伊藤幸平

読んだ本、持っている本について

最近の記事

46. 舟越桂 森へ行く日 THE DAY I GO TO THE FOREST 求龍堂

舟越桂さんが亡くなって色々と思い出していた。舟越さんの名前を知ったのは、ふとしたきっかけで手にした「作家からの贈りもの」という展示の、図録というよりそれ自体が作品のような小さな冊子群で、そこでは舟越さんをはじめ、香月泰男や猪熊弦一郎、若林奮の名前も知った。 その後「おもちゃのいいわけ」の存在も知って手に入れたが、2020年の松濤美術館での展示では、それらの子供のための作品も展示されていて感激しながら観ていた。この展示では、それまでに2012年の愛知県のメナード美術館での展示を

    • 45. ジェイムズ・ジョイス ユリシーズ 河出書房新社 世界文学全集

      この半年ほどは、息子の塾の送り迎えで、御茶ノ水駅にある塾に連れて行き、一時間半ほど過ごしたあと迎えに行くということをやっている。まとまって本を読むことのできる時間をあまり取れなくなってきたのでいい機会だと思い、何冊か本を持って行っては近くのコーヒーショップで読んだりしている。 それでもやはり場所柄、本屋を覗きたくなるが、神保町まで下りると時間がなくなるので、足は自然と丸善お茶の水店に向かう。自分の好みとしてはあまり多様な本が置いていないところもあるが、文庫と新書の新刊は一通り

      • 44. チャールス・ラム シェイクスピア物語 新潮文庫

        2023年の年明けから、それなりに買ったり借りたりして本は読んではいたが、何となくはまるものがなく過ごしていた。例えば年末に購めたハワード・ノーマン「静寂のノヴァスコシア」が年末年始の気分に読むぴったりの本だったので、同じシリーズのウィリアム・キトリッジ「砂漠へ」を買ったり、ハワード・ノーマンの「ノーザン・ライツ」「バード・アーティスト」を借りて読んだりしたが、どれも楽しめず広げることができなかった。 また、何がきっかけだったか忘れてしまったけれど、鶴見俊輔「北米体験再考」を

        • 43. 吉村順三を囲んで TOTO出版

          一年の締めくくりとして、自分にとっての古本の金額としては高額な6,000円を出して、「吉村順三を囲んで」を日本の古本屋で購めた。中村好文、宮脇檀、藤森照信、六角鬼丈が吉村順三と語り、吉村順三について語るこの本は、図書館で借りて読んではいるが、持っていたい本としていつか値段が落ち着くのを待っていたけれど、たまに出る4,000円台のものは状態の悪そうなものが多いため、意を決して買うことにした。同じくいつか買おうと思っている中村好文さんが吉村順三に質問する形式の「住宅作法」は下がる

        46. 舟越桂 森へ行く日 THE DAY I GO TO THE FOREST 求龍堂

          42. アートフォーオール 1

          変わらないでいるためには変わり続けなければいけない。そんな禅問答のようなことを、最近考えている。 それは前回、変わっていくことと変わらないこと、そして変わらない人への憧れについて触れたが、ちょうど岡本仁さんの展示「編集とそれにまつわる何やかや」を見に行き、それに合わせて発行された「ART FOR ALL 20」を購めると同時に、「続々果てしのない本の話」を買っていなかったと思い手に取り、岡本仁さんのことや本のなかで触れていたことについて考えを巡らせていたからだった。 本の雑

          42. アートフォーオール 1

          41. BRUTUS 2003 6/1号、2004 7/1号 マガジンハウス

          人は初めて会ったときの印象を大きく更新することはないという。だから中学高校大学の友人はいつまでも学生で、新入社員で入ってきた後輩はいつまでも新入社員で、生まれてきた子どもはいつまでも赤ん坊のままだ。また逆に、誰かにとっての自分の印象もそうなのだろう。 本にまつわる印象もその通りで、後に違った立場になったとしても、出会ったときの印象と変わらないでいることがある。それで懐かしく出してきたのがこの二冊のBRUTUSで、貼ったままになっているDORAMAの値段シールでさえ、懐かしい。

          41. BRUTUS 2003 6/1号、2004 7/1号 マガジンハウス

          40. 藤本和子 ペルーからきた私の娘 晶文社

          最近、ちくま文庫から藤本和子「イリノイ遠景近景」が出たので買って読んでいる。この本の存在は知ってはいたが手に取って来ず、もしくは単純に出会えておらず、これがちくま文庫に入るのかと感慨深いものがあった。 藤本和子さんの著書として持っているのは、この「ペルーからきた私の娘」と「リチャード・ブローティガン」で、前者は晶文社の犀の本のため、新書判の上製本が好きということもあるが、後半がブローティガンに関する文章になっていて、結局はどちらもブローティガン関連本として持っていることになる

          40. 藤本和子 ペルーからきた私の娘 晶文社

          39. 丸谷才一 大岡信 井上ひさし 高橋治 とくとく歌仙 文藝春秋

          昨年の夏ごろ初めて読んだ奥の細道に、一年たった今もまだ囚われている。それでも、なかには一生をかけて奥の細道について考え続けている人もいるのだから、一年くらいまだ短いものなのかも知れない。 昨年読み始めたちょうどその頃に出たのが小澤實「芭蕉の風景」で、ウェッジから出たその本は、A5判のたっぷりとした大きさに、少しソフトな表紙の上製本で、ノドまで届くほど折り返しを伸ばしたカバーは、浅生ハルミンのイラストが効いた余白を多くとったものだが、タイトルは黒で箔押しされていて、豪華ながらも

          39. 丸谷才一 大岡信 井上ひさし 高橋治 とくとく歌仙 文藝春秋

          38. 川本三郎 ちょっとそこまで 講談社文庫

          ここ一ヶ月ほど、本を読んだり買ったりすることから遠ざかっていた。この一年ほど関心の中心であった吉田健一が、神奈川近代文学館での吉田健一展でひと段落したからかも知れない。吉田健一に関心を持った後で展示のことを知ったので、なんてタイミングが良いんだろうと思ったが、それは初めての大規模な回顧展だとわかって、本当に幸福なことだったのだと思った。 展示をみた後も、書誌が載っている新潮社の吉田健一集成の別巻を借りたり、講談社文芸文庫の著書目録を眺めたりして、著作の流れや変化をあらためて確

          38. 川本三郎 ちょっとそこまで 講談社文庫

          南十字星と北十字星

          その本を手にしたのは、中学二年の夏だった。母親のお兄さんが営むペンションでその夏の間を過ごし、そのときに何度か行くことになった地域の天文台の図書室で、その本を借りて読んだのだった。 ペンションを手伝うという名目で夏休みの間そこで過ごすことになり、都会育ちの自分にとっては、朝起きて仕事を手伝い、午後になってあたりを歩いて、夕方からまた夕食の準備や片付けを手伝って就寝するという毎日は、それだけで十分に刺激的だった。けれど、それだけでは退屈だろうと思った伯父さんが、僕と同い年の息

          南十字星と北十字星

          37. ALASKA National Geographic Society

          たまに思い出してはインターネットやSNSで近況をチェックしている人が何人かいて、その一人が松家仁之さんだ。松家さんは自身の作品を文芸誌で発表するため、その見逃しがないようにしていて、文学界に掲載された「眠る杓文字」や、すばるに発表した「泡」に気が付けたときはとてもうれしかった。 最近また松家さんの名前で検索したところ、文春文庫から出た大竹英洋「そして、ぼくは旅へ出た。」の解説文を書いたと知り、さっそく手に取った。検索した際に見た表紙の写真には見覚えがあり、以前に出た「THE

          37. ALASKA National Geographic Society

          36. 小沢健二 春空虹之書(circa 2018) ドアノック•ミュージック

          モダニズム文学とは何かをよく知らない。丸谷才一さんが吉田健一について語るとき、話はいつもモダニズムのことになるが、そこに描かれているモダニズム文学という言葉に対しては、ぼんやりとしたイメージしか浮かんでこない。作家や作品をそれぞれモダニズム文学であるかそうでないかは答えられそうな気がするが、じゃあその定義は何なのかははっきりとは言えない。それでも丸谷さんがその言葉に触れるたびに喚起させようとするものや、もしくは自身の作品であらわそうとしていたこと、または吉田健一の多くの著

          36. 小沢健二 春空虹之書(circa 2018) ドアノック•ミュージック

          35. 考える人 2007年春号 特集短篇小説を読もう 新潮社

          最寄りの図書館は、歩いて通っている職場と自宅のちょうど中間くらいで、テニスコートが併設された公園の一角にある。図書館に寄る時間はたいてい仕事終わりの時刻のため、薄暗くなった公園の周辺で窓から洩れる明かりは、日ごろ接する光のなかでもとくに心あたたまる種類のものだと感じる。 2021年は、自分にとって図書館元年だった。古本好きとしては本は買わなければ始まらない、手元に置いておきたくないような本は読むに当たらない、といったようなことを考えていたが、古本屋に寄る時間が取れなくなっ

          35. 考える人 2007年春号 特集短篇小説を読もう 新潮社

          34. 子どもと昔話 2005年秋25号 小澤昔ばなし研究所

          奥の細道を読んで、和歌に惹かれて読み始めたのだったが、同じく関心を持ったのが、それほどまでに芭蕉を魅了した、源義経やその時代についてだった。後鳥羽院が承久の乱を起こしたのは記憶の彼方にあったが、いつどんな流れであったのかは全く知らないも同然で、和歌=平安時代と思い込んでいた自分にとっては、義経より後鳥羽院が後だということは何となく飲み込めず、それで和歌を取り巻く時代の流れを把握したいと思い、少しずつ関連する本を読み始めた。 まったく予備知識のないことについて何から読み始め

          34. 子どもと昔話 2005年秋25号 小澤昔ばなし研究所

          角川文庫/片岡義男作品集

          ここ半年ほどは、自分のなかの古本熱が一巡し、読むものが変わってきたため、買う本や残しておきたい本もそれに合わせて変わり、本棚を整理することが多くなった。本棚は文庫と単行本合わせて六百冊くらい入るが、前後で二重になっており、整理する度に手前の本を出して点検するためか、いつも新鮮な気持ちで棚の本に接し、持っている本とあらためて向き合うような気分になる。 それで今回、片岡義男さんの文庫本を触っていたところ、これまであまり気にして来なかった細かい点まで気になって調べることができた

          角川文庫/片岡義男作品集

          33. THE NEW YORKER FEB. 8. 2010

          冬になると気分はクリスマスシーズンで、その度にクリスマスの物語である「ライ麦畑でつかまえて」を読みたくなる。正確には村上春樹訳で読むので「キャッチャー・イン・ザ・ライ」なのだが、心の中ではライ麦畑という名前で出てくる。 前に、息子から一番好きな本は何かと聞かれて、すっと頭に浮かんできたのはこの本だった。一番好きな本はライ麦畑でつかまえてです、というのは何となく恥ずかしい気がするが、これほど何度も読み、深く考えた本は他には無い。 それは何故かというと、「ノルウェイの森」が初

          33. THE NEW YORKER FEB. 8. 2010