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43. 吉村順三を囲んで TOTO出版

一年の締めくくりとして、自分にとっての古本の金額としては高額な6,000円を出して、「吉村順三を囲んで」を日本の古本屋で購めた。中村好文、宮脇檀、藤森照信、六角鬼丈が吉村順三と語り、吉村順三について語るこの本は、図書館で借りて読んではいるが、持っていたい本としていつか値段が落ち着くのを待っていたけれど、たまに出る4,000円台のものは状態の悪そうなものが多いため、意を決して買うことにした。同じくいつか買おうと思っている中村好文さんが吉村順三に質問する形式の「住宅作法」は下がるどころか上がる一方なので、一万円を下回るものがあれば手に取りたいと思う。ちなみに、今年買った古本のなかでは一番高価なものとなった。

年末になると読みたくなる本がいくつかあり、そのなかに加藤典洋「小さな天体 全サバティカル日記」がある。この本のことを思い出し、加藤典洋の別荘がのっている「普通の住宅、普通の別荘」を手に取りたくなり、ちょうど最近掲載された中村好文さんの愛読書を紹介する日経新聞の記事を読み、久しぶりに中村好文さんに触れたため、良い機会だと思い、買うに至った。
中村好文、吉村順三と来れば松家仁之さんで、日経の記事でも挙げられていた「沈むフランシス」を読み返したところ、それほど好みではなかったこの作品の良さが、急にわかったような気がした。初読の際は男女二人の心の動きや行動がよくわからなく、和彦の部屋の様子や暮らしぶりの描き方には好感を持ったが、松家作品のなかでは横に置いておくものになっていた。今回読み直してみると、二人の成り行きや、御法川さんの言葉がわかったような気がして、また、桂子の思い出の振り返り方に「光の犬」への繋がりを感じた。それで何度目かぶりに「光の犬」を手に取った。
「光の犬」は自分には壮大すぎる気がして、もっと始や歩の物語に寄せたらよかったのにと思うところもあるが、出てくるエピソードなど、松家さんの総まとめというべき作品となっている。それは考える人の編集をするなかで得たであろうもので、お産や呼吸をめぐる話や、教会や聖書への触れ方にあらわれていて、刊行時に池袋のジュンク堂で催された加藤典洋とのトークショーでも、書きたいことは全て書いたと話していた。その会場には中村好文さんも来ていて、その三人の姿に感動していた。
その後しばらくは作品を発表していなかったけれど、文学界に発表された短編「眠る杓文字」は柄の大きな作品で、ここからまた始まるような気がしてわくわくしたものだった。新潮で連載が始まることを知って、その「眠る杓文字」を下書きにしたものかなと思っていたが、なんと「火山のふもとで」の前日譚となる吉村順三の皇居設計をめぐる話とわかりとても驚いた。それでも「眠る杓文字」も戦後建築にまつわる話だったので、何となく地続きになっているような気もする。

思えば、中村好文さんと松家さんの繋がりは何で知ったのだろうか。中村好文さんを暮しの手帖で知り、著作を読んでいくうちに「普段着の住宅術」で松家さんの自宅を設計したことを知ったのか、芸術新潮や考える人での特集や連載において繋がりを知ったのか、どちらが先だったのかを思い出せない。ただそのなかで中村好文さんが吉村順三の事務所で働いていたことや、松家さんが吉村順三の「火と水と木の詩」を編集したこと、「火山のふもとで」の村井俊輔は吉村順三をモデルにしたことを知るようになったので、中村好文さんと松家さんと吉村順三は、自分のなかでは三位一体となっている。「火山のふもとで」での村井俊輔の言葉が、そのまま「火と水と木の詩」や「住宅作法」に出てくるのを目にしたときには思わず微笑んでしまった。
そういう意味で、「吉村順三を囲んで」と「住宅作法」は、中村好文さん好きとしても、松家仁之さん好きとしても持っていたい本で、年末年始という家で過ごす時間のなかで、この本が一緒にあるというのはとても良い気分に思える。

#本  #古本 #吉村順三 #中村好文 #松家仁之

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