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【即興小説】溶けた氷に会いたくなった

ミーンミンミンミーン…。

…。暑い。暑すぎる…。

少し自転車を漕いだだけなのに、胸元がじわじわ汗ばんできた。

時間をかけて巻いた髪も、もうほとんどが崩れてしまった。萎え萎えだよ、バカヤロー。

あーあ。せっかくの記念日なのに。

て、いうか、そもそもなぜ私は自転車を漕いでいるんだ?!

この真夏の炎天下に!!!

「あいつが、突然迎えに来れないとか言うからだろ〜!!!!!」

思わず叫んだ。

別に人もいない田舎道。好きに愚痴らせてよ。

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信号待ち。

やっと少し栄えてくる駅前でさえ、東京に比べちゃ閑散としている。

あぁ、早く東京に帰りたい。

私は26にもなってこんなド田舎で何をしてるんだか。

中村つみき26歳、今年こそさすがに結婚して、東京に住むぞ〜〜〜

って、誕生日の時大口叩いたのになぁ…。

「あんた、どこ行くの?」
「え?」

妄想にふけっていた私に突然、バイクの男が声をかけた。

…何だ急に。こんなド田舎でナンパか?

「ねぇ、あんただよ。どこ行くか聞いてんの。」
「え、新宿だけど」
「ふうん」

…いや、いやいやいやいや。
「ふぅん。」
じゃ、ないのよ。なんなの一体?!誰?何者?

「乗ってけよ。」
「は…?」

ボンッ

いきなりヘルメットを投げつけられる。
いやいや待ってよ、どういう状況よこれ。

「あのさ、乗るわけなくない?見ず知らずの…」
「時間ねえんじゃねえの?」
「は?何、なんで知って…」
「さっき叫んでた。いろいろ。」
「え、えぇ?!なんで聞いてんの気持ち悪!?」
「あんたの声がでけんだろ、で、どーすんだよ」

…え、えぇ〜。何この展開どうしたらいいの?
でも実際、急いでるのは事実だし。
でも彼氏と会うのに男に連れられてどーすんの私?!

ブブッ

スマホにゆうたからメッセージが届いた。
「つみき、まだ?」

…はぁぁあ?お前が迎えにこれないからだろ!!

「おい、姉ちゃん、どーすんだよ」
「乗る。もういいや、乗せて。」
「ふ、承知〜」

もうゆうたなんて知るか!
逆に早めに着いて私から怒ってやる!!!!

ブロロロ…

真夏の炎天下に駅前に自転車を投げ捨てて、
見知らぬバイクに飛び乗った。

さっきまで熱風に感じた風も、バイクのスピードで涼しく感じる。

「気持ちい〜〜〜!!!さいっこう!」

この日飛び乗ったバイクが、私の人生のハンドルを大きく狂わすことを、この時は知る由もなかった。

つづく

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