祭りよりもゲーム
今年は夏祭りに行かないのかと、両親に聞かれた。
行かないと答えたら、折角の青春がもったいないとか意味の分からないことを言われた。
それから延々と自分たちが俺と同じ年齢の頃は~と、聞いてもいない思い出話を聞かされる。
意味のない時間で、これこそ俺の青春を奪っているもったいないことだと感じた。
でも表情にも、口にも出さない。
こういう思い出話を遮ったり、否定したり、そういうことはしない方が穏便に済むことを俺は知っている。
大人ってやつは、めんどくさい。
話を聞いているふりをして、早く解放されるのを待つ。
正直、それなら夏祭りに行ってくるよと俺が言えば直ぐに終わる。
でも行く気もないのにそんなことは言えない。
夏祭りなんて人が沢山いすぎてなかなか前に進めない上に、よく知りもしない他人と肩以外にも体がぶつかる。
密着。
熱気。
匂い。
騒音。
明かり。
どれも思い浮かべるだけでうんざりしてしまう。
夏祭りに行くくらいなら、涼しい図書館に入り浸っている方がいい。
それか、あいつの家で仲間と集まってゲーム。
俺の夏はそんな感じでいい。
わざわざ限定イベントのような夏祭りなど出て来なくても問題ないのだ。
たとえ両親が周りや自分たちの年齢の頃と同じように、限定イベントに行く息子を望んでいたとしても。
俺は行かない。
参加する意味はない。
少なくとも、俺とあいつには。
わかったわ、もう勝手にしなさい、という言葉が聞こえたのでハッとして顔を上げる。
気がつけば両親の話は終わっていたらしく、既に二人とも席から立ち上がって俺に背を向けているところだった。
俺は何も言わずに席を立って、リビングの壁時計に目を向ける。
午後一時十五分過ぎ。
時間を確認した俺は玄関へと急ぐ。
今日は、午後二時からあいつの家に仲間が集まってボードゲームで遊ぶ予定なのだ。
黒いスニーカーに足を突っ込んで、紐を結び直して家を出る。
眩しくて暑い日差しと、湿気を含んだ空気が俺を迎え入れる。
動きたくなくなるくらいの暑い中、俺はあいつの家へと急いで向かった。
道中、女の人たちとすれ違う時に、今度の夏祭り浴衣で行くんだーと楽しそうな会話が聞こえてくる。
もう一人の女性が何か言葉を返したと思ったが、セミの鳴き声でかき消されてしまった。
セミも俺と同じできっと夏祭りに興味がないのだうろと、なぜだかそう思えて笑ってしまった。
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