贈りものはもうない
あの日は晴れていたと思う。
彼等が私に宣言をした日だ。
雲ひとつない晴天。
まるで彼等の宣言を祝福するかのようだった。
私としては祝福など出来たものではないが、彼等がそうするのを望んでいるのなら止めることなど出来はしない。
彼等の望むままに、私は彼等の宣言をただ座して聞いていた。
宣言は三分もしないうちに終わり、風が緩く吹いたのを覚えている。
そして彼等は直ぐに私のもとを離れ、知らない土地へと歩み去った。
私は彼等の為に道しるべとして星をひとつ贈った。
安住の地に辿り着くまで、彼等は夜になっても歩き続けるだろうから。
星を持っていれば迷わずに辿り着けるはずだ。
また、私は彼等に良き友になるであろう動物を贈った。
その動物は狩りも上手く、危険を察知するのも得意だったので、きっと彼等の道中の助けになるはずだ。
そして私は彼等の為に雨を降らせた。
飲み水がなくては彼等が干からびてしまうからだ。
その雨は時間をかけて大地を削り、やがて大きな湖になった。
しかしその湖は今日に至るまで、誰にも発見されてはいない。
私が歩み去った彼等に贈ったものはこの限りではない。
まだ数えきれないくらいのものを彼等に贈った。
しかし彼等は私を忘れ、私の贈ったものも全て手放した。
星は彼等のもとから消えて、彼等は道に迷うことになり良き友も彼等に牙をむく存在となってしまった。
雨は降らず、彼等も大地も干からびていく。
不浄が彼等に降り注ぐ。
彼等にはもう、安らぎは訪れない。
それは彼等の罪である。
私が贈ったものを手放したからではない。
あの良く晴れた日に宣言をしたからでもない。
私のもとを歩み去ったからでもない。
彼等の罪は彼等が故である。
私は彼等を知ることを止める。
彼等は彼等で辿り着いた先で、私と似たような存在になるだろう。
しかし彼等は奪うことは出来ても、与えることを出来はしない。
それが彼等である。
彼等は奪う存在であり、私は与える存在である。
私はもう、彼等に何も与えない。
だから彼等は彼等の内で奪い合うだろう。
私が彼等に今後一切干渉しないと、そう決めた日。
その日もあの日のように、とてもよく晴れていた。
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