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青春ミルクティー


窓を開けて仕事をしていると学校の帰りなのだろうか、学生たちの笑い声や話し声が聞こえてきた。

ああもうそんな時間なのかと、椅子に座ったまま腕を上げて背伸びをしてみせる。

そして首を左右にゆっくりと動かして、ちょっとだけ休憩しようと立ち上がる。

窓の方に近寄り下の道を確認すると、やはり学生たちが歩いているのが見えた。

学生の体格や雰囲気からして恐らく高校生なのだろう。

何人かのグループがぽつぽつと途切れ途切れで歩いている。

どのグループも横に広がって歩いているのを見て、ああやっぱり学生だなあなんて思ってしまい、なぜだか自然に笑みが浮かぶ。

大人になってから気がついたけれど、あの横に広がって歩くという行為は相当に邪魔なのだ。

先に進みたくても追い抜けないし追い抜こうとした瞬間、反対側から自転車や歩行者が来る。

必ずといっていいほど、あのタイミングで反対側の通行人が来るのは不思議だよね……

しかし邪魔ではあるけれど、あれが学生なんだよなあと改めて思う。

それに自分も学生時代は横に広がって歩いていたな、とのんびりと思い出す。

道行く学生の一人が青い紙パックを持っていることに気がついて、ついジッと目で追ってしまう。

その学生は歩きながら時折、その紙パックを口に近づけているように見えた。

なつかしいなあ……

不意に口からそんな言葉が出てきて自分でも少しだけ驚いた。

窓に背を向けて天井を見上げる。

思えば、あの青い紙パックは自分にとって青春のひとつだったのかもしれない。

朝、通学途中でコンビニに寄って五百ミリの紙パックの飲み物を買う。

たまに一リットルを買ってくる学友もいたけれど、自分は五百ミリで十分だった。

というより五百ミリでも飲みきれない日もあって、そういう日は先程の学生のように下校中に友人と話しながらちびちびと飲んでいたものだ。


春夏秋冬、いつも買って飲んでいた。

自分は青いパックのミルクティーが多かったけれど、友人は日によって黄色いパックのレモンティーやピンクのパックのピーチティー等バリエーションが多かった。

自分は覚えている限り、青いパック以外を選んだ記憶はない。

たぶん選んだことはあるのだろうけれど、昔のことなので記憶からは抜け落ちてしまっているのだろう。

しかし、なぜ青いパックばかりだったのだろうかと首をかしげる。

そこまでミルクティーが好きだった覚えはないし、大人になった今でもミルクティーよりは無糖のストレートティーの方が好きだ。

目を閉じてもう少し深く記憶をたどる。


あ……


青いパックのミルクティーを飲むようになったきっかけを思い出す。

あれは、あの子が好きだった飲み物だ。

あの子は毎日同じものを飲み続けていて、自分もそれを真似したのだ。

そうすれば共通の話題ができて、一日に必ず一言二言、言葉を交わすから。


なんだか妙なことを思い出してしまったなと、額に手を当ててキッチンへと移動する。

キッチンの戸棚に置かれている、紅茶の缶が目に入る。

瞬時に、冷蔵庫には牛乳が入っていることを思い出す。

青いパックの味とは全く違う物になるのだろうけれど、ミルクティーを作ろうと決めて手を動かし始めた。

手を動かしながら砂糖は少なめにしないと、なんてことを考えていた。





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