まるでプロミスのような山田和樹の「宝玉と勺杖」
サントリーホールで日本フィル定期を聴いた。
モーツァルト:アイネ・クライネ・ナハトムジーク ト長調 K.525
J.S.バッハ(齋藤秀雄編曲):シャコンヌ
ウォルトン:戴冠式行進曲「宝玉と勺杖」
ウォルトン:交響曲第2番
指揮:山田和樹
バーミンガム市交響楽団の首席指揮者を務め、世界的に評価の高い山田和樹。
佐渡裕の次にベルリン・フィルを振る日本人は彼だろうと勝手に思っている(大野和士や沖澤のどか振ってないよね?😅)
山田和樹を聴くのは2回目。前回も日フィルで、エルガーの交響曲第1番やR・シュトラウスの「4つの最後の歌」などだった。
世界的な売れっ子になって日フィルの正指揮者のポストは辞してしまったが、以後も定期的に客演している。
今日は感動の落差の大きいコンサートだった。△、×、◎、○の順(評価ではなく個人的な感動具合)。
まず、モーツァルト。生で聴くのが非常にレアなアイネクライネである。
定期演奏会で取り上げられるのはめったにないのではないか。
というのも超名曲すぎて、いささか通俗的だからである。
しかし、山田和樹が振り始めるとふわっとエレガントな香気がホールに広がった。
単純な曲だけに指揮者の真価が出やすいと言える。
第2楽章で早くも飴の音が響いて唖然とさせられたが(2時間飴を舐めずにいられないならコンサートに来るべきではない。飴を舐める可能性があるなら袋から出しとけ!😡)、この楽章で山田は弦のプルトの片方しか演奏させないスタイルを取った(交互にフレーズを演奏させる)。
そのおかげでシルキーともいえる柔らかさが生まれた。トゥッティでやっていたら朝比奈のモーツァルトみたいな分厚さになっていただろう(それも悪くないが)。
第4楽章がいただけない。指揮者がコメディアンみたいにノリノリで動きすぎる。
コンサートの主役は音楽であるはずなのに、指揮者の過剰な動きがそれを邪魔している。一人芝居を見ているようだった。
いわゆるやりたい放題の演奏で、隣の男性は勢いよく拍手していた。
こういうケレン味が好きな人もいて当然だが、私はあまり好みではなかった。
宇野功芳風に言うなら「モーツァルトより山田和樹を聴くべき演奏、否、見るべき演奏」という感じか。
どうせならバーンスタインがウィーン・フィルとの「V字」でやったように顔だけで指揮するとか、マタチッチみたいにひたすら手刀を繰り返すとか、とにかく指揮者の動きは小さいのに音楽のスケールは大きい方が聴衆は感動するのだ。指揮者がちょこまか動く必要はない。
次のバッハがひどかった。後半になるにつれ、指揮者の大きな唸りが響く。
こんなところまで師匠(コバケン)に似なくていい。
はっきり言って、音楽の妨げでしかないと思うのだが。まさか「唸りも音楽の一部」と思っているのだろうか。
モーツァルトのピアノ協奏曲のカデンツァでめちゃくちゃセンスの悪い自作を弾く人みたいで、元々の音楽を損なっている。やめてほしい。
指揮者は「心はホット、頭はクール」であってほしい。
指揮者が没頭しているようでは二流の表現者ではないのか。
後半の「宝玉と勺杖」が一番よかった。
チャールズ3世の即位式は見ていないので、初めて聴く曲。
イギリスの名物音楽祭プロミスを思わせるノリの良さで、ドライブ感が凄い。
前半は持っていなかった指揮棒の操り方がさすがにうまい。
イギリス音楽って、すぐにわかる独特の華やかさがある。エルガーの「威風堂々第1番」に似た活発な曲だった。
山田は演奏後、タンバリンの女性だけ立たせて特別な称賛を贈った。
トリのウォルトンは昔にCDで1回聴いたかな〜程度の曲。
途中集中力が途切れて気が散ってしまった。
というのも、鼻歌で歌えるようなわかりやすいメロディがなく、音の有機体が躍動するさまをひたすら見ているかのようだったからである。
「イギリス音楽の中でもエルガーやディーリアスは叙情的で、ウォルトンやブリテンは構造的」と聞いたことがある。
初めてニールセンを聴いたときのような馴染めなさがあった。
とはいえ、ニールセンの交響曲第3番「広がり」は今ではすっかりお気に入りである。
ウォルトンも何度も聴き込めば好きになれるかもしれない。
山田和樹は演奏の出来に大満足だったようで、満面の笑顔でオケに大きな拍手を贈っていた。
客席は半分ほどの入りだったが、お客さんの満足度も高く、熱い拍手が贈られた(ソロカーテンコールはなし)。
指揮者自身によるプレトークには間に合わなかったのでこのプログラムの狙いはわからない。
モダン楽器でバッハを聴けたのはレアだった(昔、ボッセ/東京交響楽団で管弦楽組曲全曲を聴いたことがある)。
今や日本人指揮者一番の売れっ子と言ってもいいと思うので、今日の前半みたいにやたらパフォーマンスに走ったり、唸って音楽を台無しにするのはやめた方がいいのではないか。
後半のオケ捌きはさすがバーミンガム市響のシェフと思える落ち着きと安定感があった。
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