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学生服リユースショップさくらや研究【さくらやぼん編その5】

 「さくらや」での経験を講演会やセミナーで話すうちに、地域で何かしてみたいと思っている女性の背中を押してあげられる本を作ろうと決心した馬場加奈子社長。インタビュー取材が新聞記事になったり、書籍で取り上げられたりすることはありましたが、体系的な本を出版するとなると、全体を通じた監修が必要になります。馬場さんは、本の監修役を地域再生コンサルタントの大西正泰さんにお願いしました。

 大西さんは、もともと社会科の教員で、35歳のときに学校を辞めて起業し、徳島県で起業家育成によるまちづくりに携わってきました。馬場さんとの出会いは、2017年に開催された中小企業基盤整備機構四国本部が主催した起業家支援の会議。四国各地で起業家支援に取り組む人たちが招かれた中で、徳島県から参加したのが大西さんでした。

 会議での大西さんの話を聞いた馬場さんは、「さくらや」の創業に当たって悩んだことを大西さんが理解してくれていると感じたそうです。その印象があったので、出版を思い立った馬場さんは大西さんに監修してもらおうと決めたのでした。

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 大西さんの提案で、さくらやぼんのスタイルをワークブック形式としました。地域で「何かしら関わりたいけど、どうしていいのか分からない、モヤモヤしている」人に向けて、「さくらや」創業のプロセスを素材にしてワークブックで学べるようにしたのです。

 また、「さくらや」だけでなく、全国のまちづくりを知る人たちとの対談相手として、「喫茶ランドリー」の田中さんを紹介したのも大西さんでした。田中さんとの対談では、「1階はまちづくりの始まり」という考えのもとで、地域のつながりが自然発生的に生まれてくる空間デザインについて議論が行われました。

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 こうした対談や「さくらや」での馬場さんの経験も、単なるエピソードで終わるのではワークブックは完成しません。そこで、高知大学地域協働学部の須藤順准教授に協力してもらい、学術的な観点から「さくらや」を素材にしてコミュニティ・デザインの考え方を分析してもらうことになりました。

 須藤准教授もまた、馬場さんが中小企業基盤整備機構の四国会議で出会った人です。高知大学地域協働学部でコミュニティ振興論や社会起業論を教えています。中小機構の会議ではたまたま馬場さんの隣に座り、「事業計画とかマーケティングとかいきなり言われてもモチベーション下がるだけだよね」と須藤准教授が言ったのを聞いて、馬場さんは「我が意を得たり」と感じたそうです。

 馬場さんは、2019年度に須藤准教授のもとで1年間、研究生として、週に一回のペースで高知大学に通って学生と一緒にコミュニティ・デザインの勉強をしました。「自分が経験してきたことを体系的に勉強すれば、きちんと人に伝えられるから」という動機からでした。

 須藤准教授はゼミ生を連れて高知から高松までフィールドワークに訪れたこともありました。「さくらや」を研究するためです。この時は、馬場さんは「研究される側」として学生のインタビューを受けたり、店舗の案内をしました。学生たちはフィールドワークで学んだことをまとめて、「さくらや」の「ステークホルダーマップ」を作成しました。

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 さくらやぼんては、この「ステークホルダーマップ」と須藤准教授による解説や、学生が書いた「さくらやレポート」が盛り込まれています。須藤准教授はさくらやぼんのことを「やっとソーシャルビジネス、コミュニティデザインの実践的な英知がまとまった本が生まれた」と評価しています。

続く



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