見出し画像

官僚の仕事術について

皆さんどういうイメージでしょうか?

2本目の投稿です。
初投稿で「元官僚」という自己紹介をしたので、関連して「官僚の仕事術」というタイトルで書いてみたいと思います。
辞めたとは言え、別に役所を褒める気も貶す気もありませんが、意外とこういうことを掘り下げた記事ってないのでは?そして現場にいた人間でないとわからない部分ってあるのでは?
ということで書いてみることにしました。

官僚がどのように仕事をしているのか、世間のイメージでいうと、

  • 長時間労働(残業80~100時間/月)

  • 前例主義

  • 融通が利かない

  • 年功序列

  • 政治家への忖度

…といったところでしょうか。
まあ、大体合っているのですが…(笑)
この記事では、特に「前例主義」とかそれに伴う「融通が利かない」といったイメージにフォーカスして、私が実際に働いていた経験から思うことを書いてみたいと思います。
※言わずもがな独断と偏見ですのでご了承ください ←こういうところまだ役人時代のクセが抜けない…orz

「前例主義」は実は徹底的に「効率」を追求した結果…?

まず「前例主義」というキーワードについてです。
おそらく「前例主義」×「役人・役所」のイメージで真っ先に浮かぶことは、自治体の窓口に何かを申請に行ったり、事業主として監督官庁に何かの
許認可を取得しに行ったり…という場面ではないでしょうか。
そのような実体験の中で、「前例にないことは却下」みたいな対応をされたことがある方は、まさに「役所や役人は前例主義で新しいことに向き合おうとしない」といったイメージをお持ちかと思います。

これはこれで「まあ結論としてそうなることはあるよな~…」というのが率直な感想ですが、「その心は?」という部分を少し掘り下げて書いてみたいと思います。

官僚は「前例」を徹底的に使い倒す。

まず官僚は前述のような申請対応や許認可といった場面でなくとも、内部の仕事の中でも徹底的に「前例」を使い倒します。

例えば組織として何かを決定する際に官庁内で決裁を回すための「起案文書」というものがありますが、こういったものは徹底的に「前例」を使います。
とある官僚が何か「起案しなきゃ」となった場合、真っ先にやることは部署内の人間や前任者、あるいは別の部署にいる同僚まで使って自分のケースと可能な限り似たケース(=前例)を徹底的に探します。
そうして見つけてきた前例をベースに、固有名詞や経緯、理由といった当該ケースに固有の部分だけ編集し、添付文書もフォントすらいじらずに全く同じフォーマットで作成して、自らの起案文書作成業務を完了します。

起案のようなある程度公式な文書でなく、上司や幹部などの組織内の人間に説明するための資料ですら同様です。
「今度●●局長に▲▲の件をレク※するために資料を作らなければならない」という仕事が発生したら、真っ先にすることは他の部署で●●局長にレクした実績があるところに問い合わせ、その際のレク資料を共有してもらう(できれば自分と可能な限り似たケース)ことです。
※レク=官僚用語で自分より立場が上の人に何かを説明すること。レクチャーの略?
共有してもらった資料をもとに、フォーマットはもちろん資料の構成や文章の長さ、必要なデータや参考情報などを自分のケース用に当てはめて作っていきます。

なぜ「前例を使い倒す」ことが効率的なのか

さて問題は、前の見出しのように徹底的に「前例を使い倒す」ことがなぜ「効率的」と言えるのかという点ですよね。

理由の一つは、官僚の仕事は基本的にミスが許されず、且つ詰めなければならない論点が多すぎることです。
例えば前の見出しで例示した「起案文書」のケースでは、決裁を踏まえて決定した事項について、文書で外部に通知や指導、許認可など、政府としての公式見解や国民の権利義務に影響する内容が含まれることが多く、その文章の単語一つを間違えただけでもニュアンスや解釈が微妙に変わってしまうものもあります。

こうした観点で、ゼロからできたものをチェックしていくのは多大な労力がかかります。
もちろん前例の無い案件や新たな制度に関わるものなどは毎度かなりの労力をかけて論点を詰めていくことになります。
…と、ここまでお読みいただくとなぜ「徹底的に前例を使い倒す」ことが「効率的」と言えるのか、お察しいただけるでしょうか。

要するに、論点の抜け漏れが許されず、文章の間違いも許されない世界において、過去にそうした論点を詰め切ったフォーマットや文書を流用する
ということは、ミスの許されない中で、毎月過労死ラインを超える量の仕事をこなしている官僚が編み出した業務効率化の一つの方法なのです。

役人の仕事以外にも応用可能…?

ここまで役人目線で書いてしまったので、「役所独特の環境の中で生き残る術なのね…」という印象にも受け取られるかもしれませんが、抽象化して考えれば意外と応用できるメソッドではないでしょうか?
もちろん前例に囚われて柔軟性がなくなっては宜しくないですが、役人・役所以外の方にも活用いただけるエッセンスがあると思っています。

例えば何か社内で新規事業を立ち上げ、その実装に向けて社内外含めたステークホルダー全体の業務フローを設計し、「実装後のミス、トラブル対応に備えた対応方針やルール、体制整備を検討しなければならない」というケースを想像してみてください。

まずどのようなミストラブルが想定され、それらに対してどのように対処していくか、対処する際のマニュアルや連絡ルートや手段はどうするか…と、
細かく考えていくと様々な論点や必要なドキュメント等が浮かび上がってくると思います。

ではこれらが過不足無く洗い出せているか、
自信を持って断言できますか?
あるいはどのように過不足が無いかチェックしますか?
新規事業という新たな挑戦であるが故に、これから何が起こるかは未知数です。

ここで登場するのが「前例を使い倒す」という着眼点です。
「新規事業に関することを検討しているのに前例も何もあるか!」
というツッコミが入りそうですが、
例えばある段階まで抽象化したうえで、実は似たような構造だったり、ステークホルダーの分布だったり、何かしら似たようなポイントがある既存事業が存在しないでしょうか

そしてそれらの事業ではどのような性質のミストラブルが発生しがちで、それらに対してどういった対応がなされているか、また対応に関してどのようなマニュアルが整備されているか…など、前例から洗い出せるはずです。

既存事業である程度長期間回っているようなものであれば、事業が回ってきた歴史の中揉まれて生き残ってきたものたちであるはずなので、質もある程度担保されているはずです。

それらを参考にしたうえで、当該新規事業との差分を洗い出していく…という検討の仕方の方が、抜け漏れも少なく、且つゼロベースから洗い出していくより効率的ではありませんか?

…といった具合に、
今回の投稿では、普段役所や役人のネガティブな体質として語られがちな「前例主義」について解剖したうえで、ちょっとポジティブっぽい切り口も出してみました。

「前例に囚われる」ことは間違いですが「前例を使い倒す」という視点は意外と皆様の日々のお仕事にも役立つのではないかと思います。

では、今回もご覧いただきありがとうございました。


この記事が参加している募集

仕事について話そう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?