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『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』働くを考える


『ようこそ、ヒュナム洞書店』
ファン・ボルム 著 牧野美加 訳 集英社

図書館で見かけ、(最近SNSをあまり見ないのもあって)どんなストーリーなのか全然把握しないままに読み始めました。表紙がこの前再読したばかりの『不便なコンビニ』みたいな感じで親近感を覚えたのかもしれません。

訳者は牧野美加さん。
私ごとですが、以前、牧野さんの訳された『仕事の喜びと哀しみ』で韓国文学にもこんなに楽しく読める作品があるんだ!と知り、その感想で応募した韓国文学翻訳院のブックレビューコンテスト大賞をいただきました。そういうわけで勝手に牧野さんにも思い入れがあります。

偶然手に取ったこの本は、わたしが「いま」読むべき本でした。

書店とコーヒー。
この組み合わせってすごく贅沢。

街の小さなヒュナム洞書店の店長、ヨンジュは閉店まで本を読んで紹介文を書き、バリスタのミンジュンは焙煎所に通って豆の知識を深めていく。

書店でのイベントを企画してだんだんとヒュナム洞書店に人が集まり憩いの場となる。

こんな風にいうとただのサクセスストーリーみたいに思うかもしれませんが、もっと深いです。

韓国のヒーリングエッセイが次々日本でも翻訳されましたが、これはヒーリング小説なのかも。

最初のうちは、登場人物のあくせくしていない働きぶりに羨ましさを覚えました。好きなことをとことん追及して仕事にする、まさに誰もが憧れる働き方じゃないかって。

でもみんな、最初からそんなふうだったわけではないんですね。

大人になったら働くのが当たり前だと
疑うことなく生きてきて
「きちんとした」仕事でなければ
親からは心配されて
正社員になりたくて
頑張らなきゃって自分の心をすり減らして

この先にあるはずの幸せのために
頑張って
夢のために苦しんだ時期がある。 

この仕事で食べていけるのだろうか?

そんな気持ちにも
SNSでの宣伝やイベントの企画に
試行錯誤するヨンジュの行動にも
いまのわたしにすごく共感できる部分が
ありました。

ー夢を叶えたからって無条件に
幸せになれるほど人生は単純じゃないー
本文p130

生きていくにはどうしたってお金が必要だから
わたしたちの生活は「働くこと」と切り離せないし
意図せずとも時間的にも感情的にも
人生の大きな部分を占めてしまう。

わたしも長い間
自分が自分ではない状態で
苦しみながら働いた経験があります。

勇気を出して抜け出したその先には
また新たな悩みが待っていました。

それでも
いまやっている仕事は好きです。
翻訳も講師もまだよちよち歩きですが
精一杯やらせていただいています。

働くということの難しさを
日々感じている私にとって
ぼんやりとだけど
希望を与えてくれる1冊でした。

まだ見えない幸せではなく
いまここにある小さな幸せを大切にして

未確定の未来ではなくて
確実にある今日という日を大切にしようと。

いまの働き方に疑問を持っている方
仕事を辞めるつもりの方
夢がある方
コーヒーと本が好きな方
ぜひ、ヒュナム洞書店に立ち寄ってみてください。

等身大の悩み、本とコーヒーの癒しが
迎えてくれます。

それからこの本を読んで、
あぁやっぱり本がもっと読みたい
本を読む時間ほど贅沢なものはない
本は、書店は、なくなってはいけない

とも思いました。

韓国に行ったら、どこかにヒュナム洞書店があるんじゃないかな……そんな気がします。

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