アメリカのオンライン授業⑩ 習いごと編:フィドル
これまで、米大学のオンライン授業について、教える側の体験をお話ししてきました。今回は、オンラインでの習いごとについて、教わる側の体験を書いていきたいと思います。
フィドルへの挑戦
わたしは、今年1月から、フィドルを習い始めました。フィドルは、バイオリンと同じ楽器を使いますが、クラシックではなく、フォークミュージックなどを弾くために使います。シカゴには全米最大のフォークミュージックの学校があり、わたしよりも年配の方々が、生涯学習として、さまざまな楽器やダンスなどを習い、大きなコミュニティをつくりあげています。
わたしは、もともとそこでギターを習っていたのですが、今年から、これまでずっと憧れてきたフィドルに挑戦し始めました。グループレッスンを受け、みんなで少しずつ不協和音を奏でていたなか、こちらも突然、オンラインにレッスンが移行されました。
それまでは、大学の仕事終わりに、バイオリンを抱え、バスと電車を乗り継いて、片道1時間半かけてレッスンに行き、終わったら、また1時間半かけて帰るということを週1回おこなっていました。そこまでしてでも行きたいと思えるような、素敵なコミュニティでした。
コロナの影、そしてオンライン・レッスンへ
コロナの影響がなんとなく感じられはじめた頃、レッスンを受けるために、ラッシュアワーのバスや電車に乗るのが、心配になり始めました。当時はマスクをすると色眼鏡で見られたため、アジア系のわたしは、差別されないためにも、マスクをできずに過ごしていました。
イリノイ州で非常事態宣言が出される頃になると、レッスンでも、直接触らないようにと裾を使ってドアを開ける人が現れたり、消毒液が廊下に配置されたり、少しずつ状況が変化していきました。まだマスクをしている人は誰もいませんでしたが。
そして、非常事態宣言後、フィドルのレッスンも、オンラインへの移行されるというお知らせが入ってきました。オンラインでのレッスンを受けたくない人は、残りの授業料を返金してもらうか、寄付するという選択肢が与えられました。せっかくなので、わたしは継続することにしました。
1週間の移行期間を経て、Google Hangoutで授業が、いよいよ再開されました。
オンライン・レッスンの形式
フィドルのグループ・レッスンは、普段は、全体で一緒に弾きながら練習することが多かったので、オンラインでは、どんなレッスンになるのか、想像ができませんでした。とくに、フィドルは、先生が弾く様子を見ながら、耳コピで弾くスタイルなので、オンラインでそれができるのか、ちゃんと上達できるのか、教わる側の不安や心配を一通り経験しました。
そして、当日、Google Hangoutには、もともと12人くらいいた生徒さんのうち、5人が集まりました。やはり、オンラインは年齢層の高い方にはハードルが高かったのか、残ったのは、20代から40代の生徒さんばかりです。
わたしは、ご近所さんの迷惑にならないよう、自宅のベッドルームから参加しました。
形式としては、全体で弾くときには、生徒さんはみんなマイクを消音し、先生の音に合わせて演奏し、レッスンの要所要所で、先生がそれぞれの生徒さんの技術を確認するという方法でレッスンは進められました。先生が事前に手書きの楽譜と演奏の録音をメールで送ってくれ、だいたい1週間に1曲のペースで習っています。対面の時よりは少し遅いペースかもしれません。
オンライン・レッスンの感想(よくなった点)
これまでオンライン・レッスンに4回ほど参加した感想を書いていきます。
まずは、オンラインでよくなった点について、3つ、挙げたいと思います。
(1)通わなくていい!
これまでは、1時間20分のレッスンのために、週一回、往復3時間かけて、通勤ラッシュと夜遅くに、バスと電車を乗り継いで通っていました。その間に好きな本を読むという楽しみはあったものの、通わなくてよくなったことでストレスもだいぶ減りました。というより、通うことがこんなにもストレスになっていたのかと、気づくいい機会になりました。
(2)先生の個別指導が受けられる!
オンラインに移行したことで、グループレッスン中に、先生が個別に練習を見てくれる機会が組み込まれるようになりました。これまでは、大勢で同時に弾いて、自分の音もよく聞こえず、先生の音も聞こえず、まだ音程がとれない初心者のわたしは、ただただ不協和音に圧倒されていました。
先生の指導も、全体に対して、または極端にずれている生徒さんに対してが多かったので、自分は何ができて何ができていないのかがイマイチよくわかりませんでした。
それが、オンラインでは、自分の音、先生の音、そして、それぞれの生徒さんの音を聴くことができ、先生からは、自分の技術や癖を踏まえた上での指導を受けられるようになりました。一回のレッスンで、たった数分の個別指導が何回かあるだけでも、できていないことが理解できたり、うまくいかなかったことができるようになったり、コツがつかみやすくなったり、いいこと尽くめです。また、先生の、他の生徒さんへの指導も聞けるので、それを自分のこととして、練習に反映させることもできるようになりました。
(3)コロナ禍の数少ない楽しみのひとつ!
コロナ禍で外出が制限され、やることがないなかで、週一回のフィドルのレッスンは、数少ない楽しみのひとつとなっています。漠然と時間が過ぎていくなかで、とくに助かっているのが、フィドルをとおして、何かを身につけているという感覚を得られることです。レッスン仲間の上達が分かるのも、楽しみです。
また、曜日感覚がなくなってきて、家の中では部屋着、外に出るにも格好を気にしなくなってしまってきているなか、グループレッスンの仲間と音楽を楽しむ時間は、唯一、よそ行きの気分になれる時間でもあります。とはいえ、人様に見られても恥ずかしくない普段着になる程度のちがいですが。
オンライン・レッスンの感想(残念な点)
わたし自身は、レッスンという点では、実はオンラインをけっこう気に入っています。でも、もちろん、オンラインになって残念な点も、多々あります。
(1)みんなで一緒に演奏できない
フォークミュージックの醍醐味は、なんといってもジャム・セッション(jam session)と呼ばれる、即興の演奏会です。わたしはまだ、セッションに参加できるほどの技術を持ち合わせていませんが、どんなに技術がなくても、不協和音を重ねても、みんなで一緒に音楽を楽しむ、という空間にいられることが、レッスンに行く最大の楽しみでした。それが以前のようにできなくなったということは、本当に残念です。ただ、今では、セッションもオンラインに移っています。機会がありましたら、それについても書いていきたいと思います。
(2)先生やレッスン仲間との他愛もない会話ができない
これまでは、レッスン仲間とレッスン前に世間話をしたり、先生がそれぞれの曲を紹介するときに、その歴史をお話ししてくれたり、毎回のレッスンで、少しずつ、音楽のコミュニティがつくられていく感覚がありました。オンラインでは、個別の指導がある分、時間が限られてしまうため、先生のお話の時間も少なく、また、レッスンが終わったあとに片付けをしながら、みんなでお話をするという機会もなくなってしまいました。
(3)画面だと、技術がうまく伝わらない
わたしがオンライン・レッスンで、まず苦労したのが、カメラや音声の設定でした。一番最初のレッスンでは、イヤホンを使わなかったため、先生の音が聞こえず、2回目はイヤホンを使ったら、コードが邪魔になり、片方だけ耳に入れて使ったら、付属のマイクが垂れ下がって自分の声が届かなかったり。。。デスクも椅子もないベッドルームで、自分の指板や上半身がしっかり見えるような設定を見つけるのにも、苦労しました。
また、レッスンのときに、先生がカメラに近くなりがちなため、先生の指や腕の動きなど、細かいニュアンスが分かりにくいのが難点になっています。技術が見えにくい分、先生も、事前に楽譜と録音を送ってくれたり、工夫をしてくれています。ただ、その楽譜もPDFでコンピュータの画面上に出して弾くので、先生と楽譜の両方を画面上に出したり、なんだかんだ、細かいことがハードルに感じられています。
さらに、先生が個別指導をしてくれる際には、マイク消音を解除するのですが、そのときに、コンピュータのマウスを動かす必要があります。弓の持ち方や構え方に苦労している初心者にとって、消音解除をするために、一度弓を置いて、もう一度構え直さないといけないというのも、実はけっこう大変なのです。
教える側も教わる側もさまざまな苦労はありますが、全体として見たときに、オンライン・レッスンは、とても充実したものになっています。ちなみに、オンラインに変わっても、基本、レッスン料は変わらないようです。
楽器のレッスンもオンライン移行した今、世界のどこにいてもレッスンを受けられる体制があります。みなさんもぜひ、これを機会に、これまで気になっていた楽器などのレッスンを受けてみてはいかがでしょうか。コロナ禍のなかでも、きっと楽しい時間を見つけられると思います。
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