(082) ポジティブ心理学の起源としてのアドラー心理学
2020年10月9日(金)
ポジティブ心理学が広がりを見せています。日本ポジティブ心理学協会のサイトによると、ポジティブ心理学は次のように説明されています。
ポジティブ心理学は、1998年当時、米国心理学会会長であったペンシルベニア大学心理学部教授のマーティン・E・P・セリグマン博士によって発議、創設されました。その後、セリグマン博士と共に発起人として関わった、米国を中心とする第一線の心理学者たちによって分野の方向性が形成され、研究が推進されてきました。
ポジティブ心理学とは、私たち一人ひとりの人生や、私たちの属する組織や社会のあり方が、本来あるべき正しい方向に向かう状態に注目し、そのような状態を構成する諸要素について科学的に検証・実証を試みる心理学の一領域である、と定義されます。
ポジティブ心理学とは、簡単にいうと、病気や障害など(ネガティブな側面)を診断し、どうやって治療するかというこれまでの心理学から、幸福や強みなど(ポジティブな側面)をどうやって伸ばしていくかということにも注目して研究していきましょうという宣言です。
また、このサイトでは、ポジティブ心理学の宣言ともいうべき、セリグマンとチクセントミハイの2000年 American Psychologist に掲載された共著論文「Positive psychology: An introduction.」が翻訳されています。一読の価値があります(無料です)。
元の英語論文はこちらです。要約まで読むことができます。本文は有料です。
この論文の結論で次のように書いています。
我々はポジティブ心理学が新しい考えではないことはよく認識している。ポジティブ心理学には多くの優れた先人たちがおり、我々はオリジナリティー(独創性)を主張するものではない。しかし、先人たちはどういうわけか、自分たちの考えを根付かせるために研究を積み上げ、実証的なものにすることには失敗した。
この「ポジティブ心理学には多くの優れた先人たちがおり」というのは、誰を指すかといえば、人間性心理学の研究者が中心となるでしょう。著者の一人チクセントミハイは同じ論文の中で、次のように書いています。
アブラハム・マズロー、カール・ロジャーズ、その他の人間性心理学者が先駆けとなる「第三の道」が、確立されていた臨床的・行動主義的アプローチに新しい見方を付け加えると期待された。寛大な人間主義的ビジョンは広範囲の文化に大きな影響を与え、大きな期待が寄せられた。残念なことに、人間性心理学はあまり累積的に実証的基盤を確立することなく、無数の癒やし系の自己啓発運動を生んだ。
ここでいう「第三の道」とは、第三勢力としての人間性心理学です(第一勢力が精神分析学、第二勢力が行動主義心理学です)。マズローやロジャーズが切り開いた人間性心理学の志向性は良かったけど、実証科学としてはもうひとつ、という感じでちょっとディスってますね。彼は、続けてこのようにも書いています。
いずれにせよ、1960年代の人間主義の遺産は、大きな書店に行けばどこでも目立つ形で展示されている。学術的な基準をある程度満たそうとする本として、水晶ヒーリング、アロマセラピー、そしてインナーチャイルド(心の声)への到達と、書店の「心理学」コーナーには少なくとも10の書棚がある。
こうなると、かなりの皮肉です。
こう書かれれば、人間性心理学の研究者たちは反論したくなるでしょう。実際、翌年2001年には、次のようなコメント論文が同じ American Psychologist に載っています。
この要約には「セリグマンとチクセントミハイは人間性心理学についてもう少し勉強して欲しかった(The commenting authors wish that Seligman and Csikszentmihalyi had done a more scholarly job of investigating humanistic psychology.)」と書いてあります。やりますね。
さて、前置きが長くなりました。
セリグマンとチクセントミハイのポジティブ心理学論文には、ロジャーズやマズローは言及されていますが、アルフレッド・アドラーの名前は出てきません。
いやいや、アドラー心理学は実はポジティブ心理学の起源と言っていいのではないかという論文があります。これがその論文です(元はスペイン語で書かれた論文の英語版です)。
この論文を今回紹介しようと思ったのですが、すでに前置きが長くなりすぎましたので、次回に書くことにしましょう。
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