カスタマーレビューには、その本が「どのように読まれたか」ということが端的に反映されます。
2017年2月11日
(土曜日は昔のブログ記事を振り返って書いています)
「認知科学」誌から書評を依頼された。それで東京に行っている間にその2冊の本を全部読んだ。考えてみれば、本全体に目を通すということはあまりない。ほとんどの本は流し読みであり、本当に読んだといえるところは自分の興味のあるところだけである。通常はそれで不都合はない。しかし、書評を書くとなると、始めから終わりまで読むのがマナーである。取り上げるところはそのごく一部であるとしても。
書評を書くのはこれが初めてだ。外国のジャーナルにはたいていブックレビューのコーナーがあり、しかもかなりのページ数を占めている。重要な問題提起をしている本についてはレビューアーと著者が論争を始めることもある。日本のジャーナルではレビューのコーナーを持っている方が少数派である。「認知科学」誌は本のレビューコーナーと論文のレビューコーナーを持っているという点で、外国のジャーナルに近い。
専門書はなかなか売れないので、出版社も出版を渋るという悪循環が起こる。専門書を売るためにも、学会誌はカバーする領域の専門書を、書評という形で積極的に紹介するという仕事を請け負うべきだ。
書評というのはいざ書くとなると難しいことがわかった。私のWebページでも「読んでみた」と題して本の感想を書いているが、それほど気楽には書けない。考えてみると書評の書き方を自分が習っていないことに気づいた。学校の国語教育はこうしたところでも的を外していると思った。感想文ではなく書評を書く訓練が、将来学生がどの専門分野に進むにしても必要なのではないか。
書評の書き方を習っていないので自分で整理してみることにする。書評には次の要素が含まれていることが必要だろう。
1. その本の背景・ニーズとねらい
2. その本の主張の要約、特徴的なトピック例
3. その本の主張の妥当性、信頼性
4. その本の価値、不足部分、考えられる展開(リクエスト)
1.と2.については評者は客観的にその本の内容をまとめ、紹介しなくてはいけない。ここでは我を出すよりも、書評を読む人へのサービスを考える。
3.と4.については、評者の主観と価値判断が入ってくる。書評に取り上げる時点で、その本は広く読まれるべきであるという判断がなされているわけだから、ここでは評者の独自の判断を展開することが許される。
(以上、1998年10月12日のブログより)
2月1日に『幸せな劣等感』を小学館新書から出して10日間がたっただけなのですが、アマゾンのカスタマーレビューにはすでに4本のレビューが入りました。そのどれもが素敵なレビューなのでちょっと感動しているところです。
書評とカスタマーレビューとは書く人の違いはありますが、個人が読んだ本について紹介するという点では共通しています。しかもネット時代の現代においては、影響力という点ではカスタマーレビューの方が大きいとも言えます。アマゾンという「売り場」ではその商品を買うことを決断するために、大部分の人がカスタマーレビューを参照していると思われるからです。
カスタマーレビューには、その本が「どのように読まれたか」ということが端的に反映されます。カスタマーレビューを読んだだけで8割がた本の内容がわかる本もたまにあります。その場合は本体を買って読まなくても済むのでとても有用です。
カスタマーレビューは公開されていますので、これをデータとして使った研究も成立するでしょう。たとえば『嫌われる勇気』には1,000本以上のカスタマーレビューが投稿されていますので、これをテキスト分析すれば、この本がどのように読まれたかということを分析することができます。
このようにカスタマーレビューをデータとした「本の読まれ方」の研究が成立するのではないかと思います。どなたかこうした研究を進めていただければと思います。あるいは私の研究グループの誰かが手をつけるかもしれませんね。
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