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デザイン科OBインタビュー 正田冴佳先輩前編

都立工芸高校デザイン科の進路学習の一環として行なうインタビュー企画、グラフィックデザイナーとして幅広く活動されている正田先輩にお話を伺いました。
インタビュアー: OBインタビュー担当生徒3名

正田先輩のwebサイト
https://saekashoda.com/Page_ABOUT


―はじめに正田先輩の自己紹介をお願いします。


初めまして、正田冴佳です。結婚したので今の本名は阿部冴佳なのですが、仕事上は正田のままにしています。

工芸高校のデザイン科を卒業して、その後日大藝術学部のコミュニケーションデザイン学科に入学しました。大学卒業後、新卒で株式会社KAYACというWebの制作の会社にWebデザイナーとして入社しました。

その会社を1年ほどで退社した後、昔から雑誌などで見て尊敬していた、アートディレクターの坂本政則さんと、テクニカルディレクターの村山健さんのやっていた株式会社DELTROという会社にデザイナーとして入社しました。

私を含めて5人しかいない会社だったのですが、人数が少ない分、色々な経験をさせていただいて、そこで約6年働き、肩書きがデザイナーからアートディレクターに変わったあたりで、会社自体が「それぞれ独立してやっていこう」と解散になり、2019年の5月にフリーランスのデザイナーとして独立しました。今年でフリーになって3年目になります。今はグラフィックのデザインのお仕事も増え、Webとグラフィックのデザイナーとして頑張っているところです。


―どうして Web デザインやグラフィック系の職業に就いたのか教えていただきたいです。


工芸生の皆さんもそうかなと思うんですが、小さい頃から絵を描くのがとても好きで、家に画集や美術系の本が多かったこともあり、将来は画家になりたいと思っていました。

絵が好きだし、デザインも好きな気がするなぁと、今思えばぼんやりとしたイメージだけを持って、まずは工芸高校に入学しました。その後美術系の大学に入学して、デザインだったり、その他の様々なものづくりについて学んでいくうちに、絵だけではなく、ものづくり全般が好きなんだということに徐々に気づいていきました。

大学の3~4年生では、仲の良い友達が多かったことや、ゼミの先生が面白い方だったこともあり、CM制作やポスターデザイン、キャンペーン企画など、広告について研究するゼミに入っていました。そのため大学卒業後は Webの広告制作会社に入社したのですが、広告まわりのお仕事は、自分には少し元気で華やかすぎて、1年ほどで辞めてしまいました。

その後、数ヶ月何もせずぼんやり日々を送っていたのですが、ある日日藝に、昔から尊敬していたDELTROの坂本さんが講義をしにくると噂を聞き、思い切って聴講に行きました。そこで坂本さんのお話を聞いて、「神は細部に宿る」というのはこういうものづくりのことを言うのだな…と、私はこういう職人気質なデザイナーになりたいんだと気づかされました。

その後、DELTROで坂本さんの弟子としてデザインを一から叩き込まれた後、フリーになり、今はWebだけでなくグラフィックやパッケージ、プロダクトや空間のデザイン・ディレクションなどの仕事もいただけるようになりました。

まだまだ学ぶべきことだらけですが、粛々と丁寧にデザインをする人でありたいと思いながらなんとか頑張り続けて、今に至るという感じです。


―正田先輩のおすすめの場所はどこですか。


東京都庭園美術館という美術館が目黒にあるんですけど、展示内容も好きですし建物のデザインも好きです。あと実家が上野の近くだったというのもあって小さい頃から東京国立博物館が好きですね。あとは工芸生の皆さんも馴染み深いかと思うんですが、御茶ノ水や神保町辺りは高校の頃、学校帰りにいつも行っていて、レモン画翠とかToolsとか竹尾とか。古本屋さんにもよく行っていて今も好きな場所です。

それと東横線の学芸大学駅にBOOK AND SONSというデザイン系の書籍を取り扱っている本屋さんがあるんですけど、そこは以前デザインした本を置いてくれているのと、今の家が近いのでよく行っています。


―普段の情報収集はどこで行っていますか?


SNSやPinterest等も一応見ますが、最近はSNS疲れしているので以前ほどは見ていないですね。

なので気になる展示には出来るだけ行くようにするとか、装丁が素敵な本や、パッケージが凝っているプロダクトなどは自分の手元に置いていつでも見られるよう、どんどん買うようにしています。

あとは映画をよく観ます。オープニングやエンドロールで流れているフォントは何を使っているのかとか、約物の使い方や文字間、行間、文字のサイズ感、モーションの付け方とか、全体のカラコレや構図、演出などなど、映画は学びになることだらけなので、よく観ます。

あと身の回りにある身近なものをよく観察するようにしています。木の枝は何故こんな風に分かれるんだろうとか、友達の書く文字は何故ここにこんな癖が付くんだろうとか、道路標識の文字のサイズ感とか、何故この場所にはこんな汚れが付くんだろうとかとか。

観察をして、何故こうなるのかを自分なりに考えたり、調べたりすると、新しい学びや発見がたくさんあって、それによって物を作るときの説得力が増すというか、アイデアのきっかけになったりもするので。周りのものをよく見て、世界の解像度を上げていく作業をしています。


―正田先輩の作品をホームページなどで拝見しました。その中で文字の使い方が印象的だなと思ったのですが、何か意識されていることはありますか。


文字が好きなんです。フォントとか、ちょっと自分で作ったりもしてるんですけど…。タイポグラフィーが活きているグラフィックが好きなので自分もそういうグラフィックを作れるようになりたいなと思ってます。Helmut SchmidさんやEmil Ruderさんの作品が好きで、デザインの模写をしたりもしました。

装飾的で複雑なデザインがそんなに好きではないので、「傍目には何もしてないように見えるのに、隙がなくて目に気持ちの良いデザイン」みたいなものを作りたいと常々思ってデザインしています。


―お気に入りのフォントはありますか?


Akzidenz Groteskというフォントが特に好きです。Helveticaという書体のもとになったとも言われていて、古くからあるフォントなんですが、数字の2の曲線部が内側にすごい食い込んでいるのとか、レギュラーとミディアムで形状が全然違うのとか、小文字と大文字のサイズや太さにすごい差があるのとか。悪く言えば造りが荒いんですね。でもその無骨さや未完成さが味わい深くてとても好きで。

昔「Virge」という本のデザインをしたんですが、その時に作ったSoilというフォントは、Akzidenz Groteskをベースにしながら、自分なりに再解釈して作りました。


中編では、進路選択についてのお話や、当時の工芸高校の様子についてお話いただきます。


中編に続く


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