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デザイン科OBインタビュー 正田冴佳先輩 後編

都立工芸高校デザイン科の進路学習の一環として行なうインタビュー企画、今回はグラフィックデザイナーとして幅広く活動されている正田先輩にお話を伺いました。
インタビュアー: OBインタビュー担当生徒3名

正田先輩のwebサイト
https://saekashoda.com/Page_ABOUT


前編ではグラフィックデザイナーになるまでの経緯や、オススメの美術館や書体について、中編では進路選択についてのお話や、工芸高校在学当時の思い出などについて伺いました。続く後編では、具体的なお仕事のお話やデザイナーとしてのこだわりなどについてお話いただきます。

前編はこちら

中編はこちら


―工芸高校や大学の課題に関して意識していたことは何かありますか。


高校生のときは特に無いかもしれないです…。
ただ楽しくて、その時やりたかったことや、良いと思っていたことを、ただ出す、みたいな感じでした。自分が「これは良いものだ!」と思えるものを作りたくて、本当にただそれだけでしたね…。

大学入ってからはもう少ししっかりしてきて、作品を見る人のことを意識できるようになりました。コンセプトを立てて、きちんと人に伝わるものを作ろうと意識し出したのは大学に入ってからですね。

―仕事をしていて苦しかったことはありますか。


毎回苦しんでますね。毎回デザインに向いてないかもって、お腹が痛くなってます。(笑)
でも作業がのってくると楽しくて、案件が終わった後は楽しい事しか覚えてないので、結局早く次の仕事したいなってなってます。

―休憩時の気分転換にどんな事をしますか。

忙しくてそのまま仕事部屋のデスクで食事することが多いんですけど、自分の中のルールで、食べてる間は仕事をしなくて良いってことにしているので、食べてる最中だけはパソコンで映画を流したり、旅行系のYouTubeを見て旅してる気持ちになったりして気分転換してますね。

あとは、多少時間に余裕がある時は、食べ物とレジャーシートを持って公園に行ってピクニックしたり、近所を散歩したりしています。

―1番楽しかった仕事があれば教えてください。


前の会社に居た時にデザインした「Virge」というトラベルマガジンがあって、予算も少なかったんですけど、その代わりすごく自由にやらせてもらえる案件だったんです。

それまではWebデザインだとか、オンスクリーン系のデザインの仕事がメインだったので、印刷物系のデザインの仕事は、「Virge」が初めてで、本当に分からないこと、初めてのことだらけだったんですが、それが逆にとても楽しくて。

ページデザインはもちろん、ロゴデザイン、専用フォントの設計、書籍内のイラスト、パッケージデザイン、シリアルナンバー付け、パッケージの真空処理などなど、とにかく全てやらせてもらって、本当に楽しいお仕事でした。

「Virge」がきっかけになって、グラフィックのお仕事も増えて、フリーランスになってからはグラフィックやパッケージのお仕事の方がWebより多いくらいです。

―大変だったお仕事は何ですか。


フリーになって1番最初に頂いたお仕事で、会社のロゴとWeb制作の案件でした。
ロゴ提案するときって、一般的には5~10案くらいデザイン案を持っていくデザイナーさんが多いらしいんですが、その時の私はまさかの1案だけ、しかもすごいパンクで、全然文字が読めないような、会社のロゴとして有り得ないものを持っていってしまって…。

デザイン提案後、室内がシーンと静まり返っていて、気まずい空気の中なんとかミーティングが進み、次回別案を作って出直しますと言ってその日は終わったんですが…。会社を出て、最寄りの六本木駅まで歩く間、一人で大号泣しながら帰りました…。その後、なんとかそのお仕事は終えることが出来たのですが、今思い出しても申し訳なさと不甲斐なさで震えます。

―今の仕事について教えていただきたいです。


Webの仕事も受けてはいるのですが、今はグラフィックのお仕事が増えています。
特にコスメやスキンケアなど、ビューティ系ブランドのアートディレクション・デザインのお仕事が増えてきています。

あとは企業やブランドのロゴデザインのお話や、専用ピクトグラムの設計のお話も多く頂いています。

アートディレクター兼デザイナーのような立場で案件に入ることが多いので、アートディレクターとして全体の世界観を決めて、デザイナーとして自分の手も動かしつつ、プロダクトデザイナーさんやカメラマンさんに方向性を伝えて、一緒に作り上げていく、みたいなことをやっています。

―会社員として働くときとフリーランスで働くときのメリットとデメリットを教えてください。


フリーランスだと働く量も、寝起きする時間も全て自分で決められるし、平日も休日も休みたければ休めるし働きたければ働けるので、 私には今のところ圧倒的にフリーランスが合っていますね。フリーランス仲間の友達と「天気良いから今からピクニック行こうよ」みたいなことも、平日の昼間から出来ます。

案件のスケジュール以外には何にも誰にも縛られることなく、好きなだけ働けて、好きなだけ休めるので、それがメリットかなと思います。

ただ、自由な分全ての責任が自分にあるので、クライアントとお金やスケジュールのことでトラブルが起きても全て自分で対処しないといけないですし、働いたら働いた分だけお金は入ってくるけれど、仕事が無かったら0ですし。何にも守られていない不安定な状態なので、そこはデメリットなんだろうなと思います。

―先ほどアクチデンツ・グロテスクの話がありましたが、和文フォントだと何か好きなものはありますか?

Fontworksの筑紫書体シリーズが好きです。 特に筑紫Q明朝の伸びやかでヒラヒラと踊っているような優美なフォルムが好きです。使ってみたいのですが、なかなかハマる案件がなく、いつか使ってみたいフォントのひとつです。書体デザイナーの藤田重信さんのTwitterもいつも拝見しています。

あと、Nipponiaのクナドというフォントを最近お仕事で使ったんですが、こちらもとても好きな書体になりました。同じ仮名でもいくつかバリエーションがあったり、数字のバリエーションが豊富だったりするので、使い方次第で色々な表情を見せてくれそうなフォントです。クラシカルなのに今っぽい、独特な雰囲気がとても好きです。(Nipponia主宰の山田和寛氏も工芸高校デザイン科出身)

―将来のことについてどんなことを考えますか。


ほんの少しですが、「いつかは会社にすることもあるのだろうか、誰かを雇ったりする日も来るのだろうか…」などと、薄ぼんやりと考えることがあります。
今まではそんなこと全く考えたことが無かったので、実行に移すかはさておき、考えるようになっただけでも大きな変化だなと思います。まだ全くそんな段階ではないのですけど。

―貴重なお話を聞かせていただきました。本日はありがとうございました。



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