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日本における会計ソフトの乱立状態を「クラウド会計対その他」の対立構造では説明ができないことを説明してみた

日本には中小企業向けの会計ソフトは、メジャーなものだけで20種類以上存在します。他国に比べて異常な状態です。なぜこんなことになっていて、クラウド会計登場によっても、簡単には構図が崩れない原因について考察してみます。

会計ソフトの分類を「クラウド会計」対「それ以外」という対立構造ではなく、「科目コード必須型(鎖国系)」対「科目コード不要型(グローバル系)」という構造で考えないと日本における会計ソフトの異常な乱立状態を説明することは出来ません。


私が考える会計ソフトの分類は大きく分けて下記の2種類です。

科目コード必須型(鎖国系)

TKC MJS JDL ICS EPSON 勘定奉行 PCA会計など

科目コード不要型(グローバル系)

弥生会計、会計王、ジョブカン会計、MFクラウド、freee、発展会計など

科目コード必須型は鎖国状態の国(鎖国系)、科目コード不要型はグローバルに行き来ができる国(グローバル系)に例えられます。

会計事務所向けのソフトベンダー系の会計ソフトは全て鎖国系

いわゆる会計事務所向けのソフトベンダー系の会計ソフトは全て鎖国系です。会計事務所の半分以上のシェアを占めていると考えられます。
鎖国系だけあって、使われている勘定科目コードの体系はベンダーによって全て異なります。オフコンの時代からそのままコード体系を引き継いでいます。

MJSでの会計入力が最速であるという話を、複数の会計事務所を渡り歩いた人から聞くことがあります。習熟するとテンキーだけで全ての入力ができ、指が科目コードを覚えてしまうということです。色々な事務所で異なる会計ソフトを使ってきた人の意見ですので説得力があるのですが、ここに大きな落とし穴があります。

鎖国系ソフトは経理財務業務の生産性を下げDXを妨げる?

私が知っているだけでも、中小企業向けの会計ソフトは、メジャーなものだけで20種類以上存在します。しかもその大半は鎖国系ソフトであるためデータ活用がそのソフト会社の製品群の中だけに制限され、経理や財務業務の生産性を著しく下げており、DXを妨げています。

戦後の一時期、日本にはバイクのメーカーが100社以上ありましたが、最終的にホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキに集約されました。基本的にバイクの乗り方には変わりがないため性能と信頼性の差によって徐々に弱いところが淘汰されていったのだと考えられます。

クラウド会計移行への抵抗勢力

会計ソフトの場合それぞれによって科目コードや操作が異なるため、長年MJSのソフトを使って抜群の入力速度を誇ってきた人が他の会計ソフトに積極的に乗り換えようとするはずがありません。所長がクラウド会計ソフトを推進しようとしても抵抗勢力になることが想像できます。

科目コードのないグローバル系ソフトでは、金融機関のAPIと連携したりOCRで生成したcsvデータを流し込むことにより、そもそもキーボードから入力しないことが当たり前になってきています。ほぼ瞬時にデータ入力が終わります。機械は疲れを知らないし、コストも人件費に比べると激安です。

また勘定科目コードを一致させる必要がないグローバル系会計ソフト間でのデータのやりとりは比較的簡単です。弥生科目のインポート形式が、グローバル系ソフトでの実質的な標準フォーマットになっています。

鎖国系のデータをグローバル系に取り込むことは比較的容易にできますが、
鎖国系にグローバル系のデータを取り込むことはかなり困難です。取り込む前に勘定科目コードや補助科目コードの設定を完璧にしないとエラーが出て取り込めません。そのための専用ツールを必要とします。

会計ソフトの乱立状態は続く?

今後、鎖国系ソフトが、勘定科目コードを無くしたり、共通の科目体系にすることは、考えにくいです。ちなみに一時期、標準会計やひまわり会計という、勘定科目コードを統一しようとする意欲的なソフトもありましたが普及しませんでした。小王国を築いて平和に棲み分けができているのに、敢えて勘定科目コードを統一して群雄割拠の戦国時代に持ち込もうとする動機が無いのでしょう。

私はここ数年税務ソフトはJDLを使っていますが、リース更新のときにAIOCRを使うために、初めて財務システムを導入してみて驚きました。
振替伝票はオプション、出納帳入力は税抜き経理ではできないと聞かされ唖然としました。勘定科目コードを覚えて一行ずつ仕訳入力をする必要があり複合仕訳は諸口勘定を使います。長年グローバル系会計ソフトで育ってきた私には海水浴に来てシーラカンスを見つけたような衝撃受けました。

こういうシステムが当たり前だと思っている人がfreeeに移行するのは、3世代くらい未来にワープするような感覚なのだろうなと思いました。

ですので、この会計ソフトの乱立状態はまだまだ続くと思います。

クラウド会計は、どこが天下をとるのか?

上記のように鎖国系ソフトが強すぎることが、MFやfreeeが会計事務所で普及しきれない大きな原因となっています。特にfreeeは複式簿記という概念から外れるために旧来型の会計事務所職員で拒否反応を示す人も多いと考えられます。

それでは、鎖国系ソフトがクラウド化することはどうでしょう?

鎖国系ソフトのJDLをベースにクラウド化したA-SAASが2010年頃に登場しましたが。データの流れの悪い鎖国系ソフトとクラウド会計ソフトの相性は極めて悪いです。

A-SAASの開発時点で開発者に強くそのことを指摘していたのですが、聞く耳を持ってもらえませんでした。JDL形式の入力速度が最速であり会計入力はベテランのキーパンチャーがするものという固定観念を崩せませんでした。税務ソフトはとても良かったのですが、古臭い会計ソフトが足を引っ張り結局、普及せず近年freeeに買収されました。

弥生会計をベースにしたジョブカン会計(旧ツカエル会計)はかなりいい線をいってるのですが、組んだ会社が悪かったです。ジョブカンの勤怠管理ソフトは優秀なのだそうですが、給与計算ソフトが大企業向けで中小企業には向かず、ERP的な使い方ができないところがMFやfreeeに対する弱みです。

そして弥生会計

本当は弥生会計がちゃんとしたクラウド会計ソフトを作ってくれたら一番良いのですが、弥生のオンラインソフトの立ち上げ時点で、担当者や技術者と意見交換をさせて頂いたのですが、会計の現場に対する理解が薄く、会計ソフトに対する情熱や愛を感じませんでした。現行の弥生会計オンラインが会計事務所の間で評判が良くないことはご案内のとおりだと思います。
現場を知らないサラリーマン的な人たちが、色々な人の意見を集約して作ったら誰にとっても良くない中途半端なものが出来上がってしまったという例です。
新しいクラウド会計ソフトを開発中との噂も聞きますが、優れたソフト開発に必要な天才性(徹底的な現場目線と未来のビジョン、マニアックさ、ある種の狂気)を感じることができないので、あまり期待は持てないかもしれません。
オンプレミス版の弥生会計はそういう天才が作った会計ソフトだと思っています。


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