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64 瞬白(しゅんぱく)の剣閃

「ぬうううううううんん」

 抉れる地面と共に怪物たちが大きく遠くへと弾き飛ばされていく。
 マキシマムの拳が怪物たちを薙ぎ払う音が爆発音のように鳴り響く。土煙が舞い上がり周りの草花をも巻き込んでゆく。

 美しい花々に気を配る余裕もないほどに逼迫した状況に手を打つべくマキシマムは声を張り上げる。

「お前達、怖じ気づくな!! ここにはワシがおる!! 全員一人になるんじゃない! 複数人で集まれ! 一体ずつ確実に対処しろ!!」

 そうしている間も次から次へと怪物達は何処からともなく現れ、生徒達に襲い掛かってくる。

 ドッヌのような個体の方が数は多いが生徒達でもなんとか押しのける事が出来ていた。だが、その中に数匹の大型の個体が混ざり込んでおり、ウルフェンのようなその個体の力に多くの生徒が弾き飛ばされていく。

 その大型の個体でも一体一体はマキシマムにとって大した強さではない、が実戦経験の乏しい彼らではこの突然の出来事に混乱し本来の力を発揮できるはずもなく、徐々に追い込まれていく。

 長年戦場で拳を振るってきたマキシマムですら目の前で起きた事態に動揺が隠せずにいるというのに生徒達に冷静にいろというのが困難であることは明白だった。

 見たこともない大きな獣たちが自分達を次々とひっきりなしに襲いかかってくるという緊張感。ここまで息もつけないような状況での戦闘など生徒達に経験があるはずもない。
 学園で学んでいる事や行う事はほとんどが対人戦を基準に積み上げた形式的なノウハウとある種のルールの上で戦う事がほとんどで、このような怪物を相手にする訓練などは存在しない。

 何かいい方法を、とマキシマムが考えようにも次から次へと迫る怪物がその思考を妨害するように襲ってくる。

「ちぃ、何度ぶん殴っても死にもしせん」

 先ほどからの劣勢は単に数が多いからではない。
 マキシマムが殴り飛ばしていった先から怪物の数が減っていたのならば、もう少し今の状況はどうにかなったかもしれない。
 が、彼がどれほどの力で殴ろうとも怪物は死なず、倒れても再び起き上がって再度襲い掛かってくる。

「まずいな、、、」

 グルルルルルッ、一瞬の油断をついて襲い掛かる怪物の動きに呼吸の間を狙われたマキシマムは虚を突かれ周囲から襲い来る攻撃に身構えた。

「しまっ!?」

 マキシマムは歯を食いしばる。一撃くらい噛みつかれようが自身の肉体ならば問題ないと判断し、肉を切らせる覚悟で全身に力を込めた。

「先生ッッ!!」

 その時、茂みから横っ飛びに現れたティルスの剣閃が怪物を頭蓋から縦に真っすぐ切断する。その剣閃はまるでかつての剣姫プーラートンの斬撃を彷彿とさせるような美しい直線を描きマキシマムの目に映り込んでいく。

「ティルス!? それにお前達!? どうして戻ってきた!!」

 戻ってきたティルスへと大声を上げるが彼女は一言、静かにマキシマムへと状況を端的に伝える。

「この先に透明な壁のようなものがあってそれ以上は先に進めません!」

 またしても想定していない事態にマキシマムの眉間に皺が寄る。

「なんだと!? 透明な壁? いつの間にそのようなものが」

 周囲の怪物の動きを警戒しながらも淡々と説明は続く。

「おそらく私達は今この区域に閉じ込められています。どの程度の範囲にその壁が存在するのかも不明です!」

 そうして二言、三言をかわす間に、先ほどティルスが切った怪物は、そのまま起き上がらずサァッと霞のように消えていった。

「な……怪物が消えた? ティルス、お前、いま一体何をした!?」

 確かに先ほどまでに何度も起き上がってきていたはずの怪物の姿はそこにはない。

「はい?」

「化け物に一体何をしたんだ? こいつらをどうやって倒した?」

 ティルスは怪訝な表情をして答えた。

「ただ切っただけですけれど」

「……切っただけ?」

 マキシマムが先ほどの戦闘を思い返すと自らの拳、そして生徒達の槍、斧、メイスなどの鈍器、弓などあらゆる武器で倒しても両断しても起き上がってきていた化け物に今のティルスの一閃で倒せたのには何かあるのではないかと考える。

 が皆目見当がつかない。

「ティルスが活路になるか」

 倒し方は分からない。確証がないマキシマムは大声で今も尚、近くで戦う生徒達へと叫んだ。

「まだ戦えるものは全員ティルスのサポートに回れ! よいな!」

 生徒達は困惑した様子でマキシマムの言葉がすぐには呑み込めない。

「ち、この状況では説明も出来ん」

 周囲では変わらず激しい戦闘が起こり、少しずつ負傷者も増えているようだった。

 このままでは全滅する。この場は怪物を倒せるティルスを中心に戦局を組み立てるしかない。

「マキシマム先生?」

「先ほどまでは全く倒せなんだ化け物がお前の攻撃では消えおった。今は、、、お前が頼りだ」

「倒せなかった?」

 会話をしている間にもどんどん周囲の怪物の密度は高まっていく。中には更に大きな個体も現れ大型のウルフェンをも大きく凌駕するサイズが視界に入る。

「ああ、ワシの拳でいくら叩き潰しても何度も起き上がってきて困っておったのだ」

「マキシマム先生の拳で倒せない?」

「ああ、だが今お前の剣で起き上がることなく消えた。理由は分からんが倒せるなら、この状況もまだどうとでもなる」

「なるほど、わかりました。私があの中を駆けまわりながら数を減らしていきます」

「……理解が早くて助かる。危険だが、頼めるか」

「ふふ、適材適所というやつですね。お任せください」

 ティルスはそういうと颯爽と駆け出し、他の生徒達に見えるように剣で怪物を切り裂き、掲げ挙げた剣に注目させるように声を出した。

「少数ずつ順番に私の元へ怪物を誘導しなさい!!」

 その声に生徒達は戦意を僅かに取り戻し戦いを続ける。

「これで、どうにかなるか?」

 だが状況はそう甘くはなかった。すぐに次の問題が浮上する。圧倒的に一人一人の戦力の差が大きい。少なくとも一般の生徒ではまともに怪物に太刀打ちすらできない。

「だ、ダメです!! 強すぎて誘導できません。ウワァ!?」

 ティルスが通過した後の場所で生徒達が叫ぶ。視線をやるとウルフェンタイプの大型の個体が複数の生徒を前足のひと薙ぎで弾き飛ばしていた。運悪く爪に掠った生徒から鮮血がほとばしる。

「なにっ!?」

 マキシマムは即座にその場へと助けに入り怪物を遠くに蹴散らして時間を稼ぐ。

「やはり数が多すぎるか」

 そう檄を飛ばしながらもマキシマムの脳裏に焦りが生じる。

「会長~~~~~!!!! いくわよぉ~~~!!!!」

 鎚を手にしたサブリナが混戦する場所へと駆け出して勢いのまま横薙ぎのフルスイングで巨大な怪物をティルスの元へと叩き飛ばした。

「はあああああああああっ!!!!!」

 頭上高くへと弾き飛ばされた怪物を見据えて、構えるティルスは下からその巨体を切り上げて両断した。

 美しいその剣閃が陽光を照り返す。刀身が光を反射し、その斬撃は周りの生徒達の視界に白んで見えた。




続く


作 新野創
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