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167 洞窟内探索

「ウェルジア君も洞窟の奥まで探索に行くんだよね」

 リリアは心配そうに準備を進めるウェルジアに近づいて声を掛けた。

「暗くて見えんが誰だお前は」
「リリアだよ、そろそろ声で分かってよ!」
「悪かった」

 暗がりで息をひそめる生徒達の中でリリアはそう言われプンスカした声を上げる。既に自分の事を知っているはずなのにウェルジアは毎回、このような対応をしてくる。
 最初はわざとだと思っていたが最近では本当に分からないのではないかとも思って心配をしている。その度に冗談めいた返事で返してはいるのだが遠征が終わったら一度検査をしてもらったらどうかと提案することすら考えていた。

「んもう、あんなにいっぱい応援してあげたのに、、、」

 ウェルジアは視線を逸らしつつ、思い出すように視線を泳がせると腑に落ちたように呟く。

「そうか、あれは、やはりお前の声、なのか」
「え、なぁに?」
「なんでもない」

 そんな二人の傍にヒボンとフェリシアがやってくる。 

「ウェルジア君すまない、僕がふがいないばかりに」
「ヒボンか、気にするな」
「ヒボン先輩はすぐわかるのにー! なんでよー!!」

 先ほどの事をまだ根に持っているリリアは再度ほっぺを膨らませる。

「ヒボン。そういえば灯りはどうするつもりなんだ?」

 ウェルジアはその言葉が聞こえてないようにヒボンと話を進める。

「フェリシアさんが言うには目を慣らしつつ進めば大丈夫だろうということだけど、流石に暗すぎるかなと僕も思っている。とはいえ洞窟の中で火を起こすのは危険だし」
「こればかりは仕方がない、夜目が効くって奴も何人か探索に来てもらって注意しつつ進むしかねぇ」

 三人のその会話を聞いていてリリアが何かを思い出した様に二人の間に割って入ってきた。

「あ、それなら……」
「「「???」」」

 二人が首を傾げる間にリリアが思い出した様にリュックの中をごそごそと漁って何かを取り出した。

「じゃじゃーん!! これ、ショコリーさんが遠征前にくれたんだけど、まさか役に立つことがあるなんて」

 リリアが円筒型の不思議な手持ちサイズの道具を取り出した。それが何なのか他の三人には分からない。

「えーと、確かここをこうして、と」

 途端に筒の先端から光が発生られ、三人の目がくらむ。

「なんだいこりゃ!? 目くらまし!?」
「……魔道具!? 明るくなった?? リリアさん、これは一体」

 腰に片手を添えて取り出した道具を掲げて自慢げにリリアは説明し始める。

「学園内では夜になると校舎とか建物の近くとかの道では明かりがつきますよね? あれを参考に作ったっていってました。ただ今のところショコリーさんと私しか点けられない状態なんで、私は探索に同行する事になりますけど、チラッ」

 彼女は言葉にしないまでもウェルジアにそれとなく目配せをする。どうやらリリアは守られたいお年頃のようで、ヒボンの背後にいたフェリシアはニマァとそれを察して悪い顔をして口をつぐんでいる。

「すごいね、ありがたい道具だ。戻ったらショコリーさんにもお礼を言わないとね」
 ヒボンが感心しながらその道具をまじまじと見つめている。原理が全く分からないが、今の状況ではありがたいと心底喜んでいるようだった。

「探索も楽になるね。よーし、あーしらでサクッと状況を好転させようぜ、くふふ」

 こうして閉塞感の漂い始めている状況を好転させるためウェルジア達は探索行動を開始するのであった。

 
 ヒボンは全体をまとめる為に入り口付近の広場に待機することになり、フェリシアを筆頭にウェルジア、リリア、そして体力があるなど他に動けるメンバー達で洞窟の奥へ進んでいく。

 奥に行くと不思議なほどに寒さは和らぎ、ほのかに温かさすら感じる。リリアの持つ灯りは広範囲を照らせたことで安全に前進する事が出来て順調に歩を進めている。だが、まだ何か目ぼしいものは見つからない。

 意外にも探索メンバーは多く集まっていた。危険なため希望者は少ないと思われていたがどうやらリリアが探索隊の一員になるということで追加で名乗りを上げた者達も居たらしい。

「人気者なんだねアンタ、もしかして意外と強かったり?」

「あ、それはないです」

 リリアはキリリとした表情でフェリシアを見つめ返すが身のこなし含めて確かにそこまでの何かは感じない。寧ろ隣にいるウェルジアの方がよほどビリビリと来るものがあるくらいだ。

「アンタ確か、東部との交流模擬戦にも出てたね。あーしはぶっ倒れてたから見てないけど話は聞いてる。英雄グラノの孫と引き分けたんだって?」

 引き分けという言葉にウェルジアはギョロリとすると、思い出した様に溜息を吐いた。

「あれは、俺の負けだ」
「ふぅん、つってもそこそこやるわけだろ? 今度一戦やろうぜ」

 フェリシアのあっさりとした誘いにウェルジアもより強い者との経験とシュレイドから学んだ事の実践をしてみたい気持ちも沸いていたことでこちらもあっさりとした返事を返す。

「ここから戻ったらな」
「お、約束だかんな」

 リリアを先頭に置きつつ、すぐ両脇にフェリシアとウェルジアが続く。
 後ろは探索班のメンバーが周囲を警戒しつつ歩いており今のところ狭さも感じず通路も広いためどんどん先へと進めている。

「この洞窟、入り口もですけど相当広いですよね。どこまであるんでしょう?」

 ここに来るまでに幾つか分岐する道はあったがその度に目印は置いてきている。貴重ではあるが食料である乾燥したパンをちぎり落としながらここまで進んできた。もし行き止まりになれば引き返して別の道へと探索路を拡げればいい。思いのほか深い洞窟のようでまだ一本目のルートも行き止まりが来る気配はない。

「ああ、そうなんだよな。普通にあーしが知ってるこの地域にある洞窟とかに比べると既にかなり広い部類だと思うよ」
「シッ、静かにしろ、何か聞こえる」

 ウェルジアが後続を含めた全員に向けてピタリと制止する。耳を澄ませているとフェリシアの表情が緩む。小一時間程度歩いた先に見つかったその場所に心底安堵する。

「ラッキー、いきなり発見、水源だ!」

 フェリシアの言葉に後方の生徒達からも歓声が上がる。全員がやはりここまで不安を抱えて過ごしていたのだろう。安堵の表情で手を取り合い喜び合っている。

 音のする方へと向かうと確かに壁から水が流れ出てきていて視覚でもその存在を確認できた。多少衛生面の心配はあるがこの際、毒さえ含まれていなければ問題はないだろう。

「ちょっとまってろ」

 そういうとフェリシアは壁から湧き出ている水を指で掬い取ってペロリと舐めた。

「よーしよし、大丈夫。問題ない、これなら飲める」

 そう言って後方へと親指を立てて安全をアピールする。

「分かるものなんですか?」
「ああ、このフェリオン領の辺りは地脈の関係で、飲める水と飲めない水がハッキリと分かるんだよ。と言っても地元民しか分からねぇ差だろうけど。飲めないやつは舌が微かにピリピリすんだよ」

 とはいえ今いる地域は正確には本来は人が住んでいるような地域ではない為、フェリシアとて完全な確証はない。
 しかし、勘とはいえそれくらいの経験則が培われている彼女の判断のアンテナによれば概ね問題がないようで安堵する。

「す、すごいですね」
「とりあえず水が確保できれば生存率は一気に上がる。一安心だ。あとは食料だが、おお、こりゃ運がいいなマジで」
「足元見てみろ」

 灯りを照らすと苔が張り付いた足元の岩場や壁には小さな足跡が付いている。

「これは?」
「リザーゲの足跡だ」
「え」

 リリアは心底素っ頓狂な声を上げた。普通は選択肢に入る事はない生物だ。目を真ん丸にしてフェリシアへと不安げな表情で硬直している。

「普通はこの地域ではあいつらは生きられない。たから寒い地域にいるリザーゲ達は寒さに耐えるために脂肪を蓄えてるようになるんだわ。どうやって太ってるのかは不明らしいけどな」
「た、食べるんですか? あれ、を?」
「背に腹は変えられないだろ、いるのさえ分かれば掴まえるのは簡単だしな」
「ひぇぇ」

 ケタケタとリリアの様子を見て笑うフェリシアへと再度声が掛けられる。

「おい、あれもリザーゲとやらの足跡なのか?」
「ん?」

 ウェルジアが何かを見つけて指さすとそこにあったのは別の足跡らしき窪みだった。フェリシアはその足跡を凝視すると突然ハッとした表情で途端に表情が激変して緊張感が高まるのが肌で感じられた。

 フェリシアが手でなぞるとその足跡は柔らかくまだ出来て間もない事を告げてくる。そして、そのサイズ感に思わず喉を鳴らして周囲を警戒している。

「……これ……マジか、あーくそッ、計画変更だ! いったん全員入り口までもどっ……」

 その瞬間だった。

「ぎゃあああああああああああああ」

集団の後方の生徒が何者かに襲われたように悲鳴を上げる。途端にパニックになる生徒達の声が、つんざくように戦闘のウェルジア達の耳へと届いたのだった。



つづく


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