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74 似た者同士?

 校舎裏の一画では戦いの傷が癒えた5人の生徒が集まってしばらく沈黙していた。
  
「んで、これからどうすんのさ?」

 口火を切ったのは長く結わえていた髪をバッサリとネルのように短く切ったリンだった。

「……リオルグ先生が準備していたことが、こんなにも恐ろしい事だったとは誰も知らなかった。どうするべきか誰も分かるはずがない」
 
 ダリスはそう答える。このメンバー達の中でまとめ役のような彼からの発言にそれぞれどう反応したものかわずかに思い悩む。

「神剣を見つける事、そして、それが神を蘇らせるという事しかアタシらは知らない。これって騙されていたとも取れるんじゃないか?」
 
 リンの言葉にお互いに目を見合わせる。

「それぞれの願いが叶う。そんな甘い言葉に俺達は踊らされていたって事かもだな」
 ベルクは舌打ちをして不機嫌さを隠そうともしていない。

「ボクはそもそもは、最初は神剣を探すのに知恵を貸せと言われただけだからね。考えてみれば不可解な事ばかりだ。僕らが戦っている間にプーラートン先生を襲う準備を整えていたという事だろう」

 リアーナはそういって考え込むような仕草で目線を落とした。その隣ではトールが静かに口を開く。
 
「けッ、俺はもう降りるぜェ、あの噛ませ犬みてェな生き方はもう勘弁だ。それに、あのロン毛野郎に借りをかえさなきャ収まりがつかねェ。おめェらとつるむ理由もこれでもうないだろォ?」

 それはこの場の誰もが考えていた事だった。今回の事態では自分たちが死ぬことも脳裏をよぎっていたし、何よりリオルグが全員を見捨てるような物言いをしていた事もあり生まれた不信感は消える事はない。

 だが、問題はこのまま勝手に解散が許されるのかということだった。

「おい、トール。本当にこのまま抜けられると思うのか? 寧ろ一人になる方が危険だろうが」

 ベルクがトールへと声を掛けた。

「…どういうことだァ?」

 トールは首を傾げる。ダリスはため息を一つ吐いた。

「俺達に指示を出していたのはリオルグ先生だったが、それ以上の存在がいる事を知らない者はここにはいないだろう?」

 と告げた。その言葉で何を言わんとしているかトールも理解したのだろう。再び沈黙がこの場を包み込む。
 
 ダリスは考え込むリアーナへと視線を向ける。

「リアーナ。俺達は神剣を引き続き探し続けるべきだと思うか? もしくは俺達が今、知る情報を学園に知らせるべきだと思うか?」

「難しい質問だ。まず神剣に関してはそもそも何のために在りもしない物を探していたのかもボク達は知らないだろう? 元々そういう約束をしていた上で指示を出していたリオルグ先生もいない。つまり僕たちのそれぞれの望みが叶う事、約束が果たされる事はもうないと考えていいだろう。ま、それでもボクは自身の知的探求心を満たす為に個人的には神剣を探し続けてみるつもりだけど、全員で無理に探すことはないと思う」

 リアーナは周囲を一度確認して口を開く。

 「そして二つ目、学園に知らせるべきかどうかについてだけど、これだけはやめておいた方が良いと思う」

 リアーナはそう言いながら周囲に気を配る。誰かに聞かれていないか警戒しているのだろう。

「なぜやめておいた方が良いのかは最早語るまでもないだろう」

 ベルクは頭を掻きながらリアーナに問う。

「だけどよ、多分だけど俺達は別に重要な情報を持ってはいないぜ? せいぜいリオルグ先生以外にも仲間が居るらしいって事くらいだろ?」

「ああ、だがその情報自体が重要であるとも考えられる。これまで姿をとにかく隠してボク達に行動するようにリオルグ先生からは言われていたし、明るみに出るとまずい存在が関わっていると推測は出来る」

「まァ神サマだのなんだの復活?の為に動いてるような感じだッたしな」

「アタシは正直トールと同じかね~。なんかどうでもよくなっちまったよ。というより、普通にバケモンみたいに強いやつらがうようよいる場所だ。この間の模擬戦闘で火がついちまってさ。本気で自分がどこまで行けるのか、上を目指してみたくなった所さ。ま、自分の願いに未練がないと言えばウソにはなるけどな」
 
 リンがそう言ってケラケラと笑った。

「……元々、義理立てするのも俺達の約束を果たしてくれるって事ありきだったもんな。このまま目的を果たしても叶わない事が分かってたら意味ないし」
 ベルクが呟き、同意するようにダリスも頷いた。

「俺達はただの駒に過ぎなかった。一方的にただ利用されていただけなのは明白、ここらが潮時なのは確かだ。知る情報を漏らさずに過ごせば問題ないと俺は思う」
 
 リアーナがハッとした顔で言う。
 
「概ね方針は決まったかな。神剣探しは監督者の不在で継続は不可。知る情報は秘匿する。が、ミンシャにはなんて連絡するんだい? 今回の模擬戦の前から大分連絡してないけど」

「まぁいいんじゃない? やめるのに決まりがあった訳でもないだろ?」

 リンが笑いながら答え、ベルクが手をポンと打った。
 
「そうだな。各自、ミンシャの接触があった奴から説明をする。これでいいんじゃない?」

 しぶしぶトールも同意する。

「ちィ、しャあねェな。わかッたよ」

 ダリスがまとめるように注意を促す。
「だが、それぞれ油断するな。完全に身の安全が保障されるまではな」

 その時5人の背後で足音が聞こえ、全員が一斉に振り向いた。
 視界が姿を捉えたと思った次の瞬間に視覚は白く飛び、意識は刈り取られ5人は静かに地に倒れ伏した。

「皆さん、こんにちは。初めましてトリオンちゃんですよ~って、ふふ、誰も聞いていませんけど~、自己紹介だよぉ~、じ・こ・しょ・う・か・いしてるんですけど誰も聞いてないのなんで?? なんで?? どうしてよ??  あ、そっか、そうでした。私が今やったんでした~キャハ」

 倒れた5人を転がして仰向けにする。

「殺しは命令されてないからしないんだけど、君たちは少しばかり情報を握っているから、トリオン達に関する記憶を消させてもらうね。ふふふ、実は情報係はミンシャだけではなかったのです!! とはいえこの事は実はミンシャも知らない事なんだけどね~! キャハ」

 一人ずつ横に並べて寝かせながら独り言をぶつぶつと続ける。

「こうして君たちは一般生徒に逆戻り、残念だ。君たちは自分たちの願いも忘却するんだよ~。リオルグと一蓮托生だったのに死なずに済むなんてとっても運がいいんだから~。そのまま今後は普通に生きていきなよね。ま、この学園で生き残り続けられたらの話だけど、キャハハハ」

 そういって一人ずつ額に指をあてて何かを口にした後、少女は煙のように大気へと霧散して笑い声と共に消えていった。



 ざわざわと賑やかな場所へと足を運ぶ三人の人影。

 「す、すっごい列」

 リリアがぽかんと口を開けている。
 商業・娯楽区画の大通りから裏通りにある店へと向かっていたウェルジア、リリア、ショコリーはその長蛇の列に驚いていた。

「ね、ねぇウェルジア君、どうなってるの?? この先がさっき言ってた店なんじゃないの?」
「そうだが、俺がこの状況に関して知るわけがないだろう」
「……皆、考える事は同じって事よ」
「「???」」

ウェルジアとリリアは?を頭に浮かべている。

「あんた達、なんか似た者同士な感じよね。考えてるようで考えてない感じとか」

「こいつと同じにするな」
「わ、ウェルジアくんひっどーい」

 リリアはペシリペシリとウェルジアの背中を叩くが当の本人はうんざりした顔をするだけでびくともしない。

「つまり、これは剣を買おうとしている生徒たちの列って事よ」

 それを聞いてリリアはハッとなる。
「わ、私とおんなじってことだ!!」
「そう言うこと」
「今回の騒乱で剣が怪物達に効果があったからということか?」

 ショコリーはリボンを大きく揺らしながら頷いた。
「ほんと、単純よね」
「ご、ごめんなさい単純で」

 なぜかリリアが謝った。

「それが普通の感覚。無理もない。誰だって抵抗も出来ずに死にたくはないでしょう?」

 ショコリーはリリアの頭をちょいちょいと撫でた。なぜかリリアはニヤニヤしている。この関係はなんなのだろうとウェルジアは不可解なモノを見るような視線で眺めた。

 落ち着いたリリアは再度長蛇の列をみた後、二人に目配せした。

「これ、並ぶ?」
「しかあるまい」
「はぁ、売り切れなきゃいいんだけど」

 しばらく列に並んで見ていると店の奥から大通りへと来る生徒達はほとんどが剣を持っていなかった。
 たまに剣を持った生徒が大通りへと来ていたが、何か起きているのだろうか?

「この奥にあるのってウェルジア君の行きつけの店なんだっけ?」

 リリアが問う。

 ウェルジアが珍しく笑みを浮かべているような声色で
「ああ、ラグナレグニという剣だけを扱う武器屋だ。世話になっている」
と答えた。

 これまでのウェルジアとの会話の声で一番はきはきしているなとリリアは思った。
(ウェルジア君こんな声でも喋れるんだ!?)
 となぜか妙にテンションが上がっていた。

 「剣だけって珍しいわよね。大通りにあるスミスの武器屋が良いって事は噂で聞いてはいたけど」
 ショコリーも裏通りの奥にある店は知らなかったようだった。

 会話をしている間に次の生徒が裏路地の奥から大通りの列へと出てきた。が、どうにも周囲がざわついている。

 周りの生徒達はその生徒の姿を見るや否や、嫌悪感をまるで隠さないような視線を向けていた。誰もがその生徒に近づこうともせず逆に離れる始末だった。
 3人もその視線に導かれるようにして見るとそこには紫の髪色の少女が剣を片手にてくてくと歩いてきていた。

「ヒッ、紫色の髪!?」
 真っ先に反応したのはリリアだった。

「……」
 興味深げに眺めるショコリーは目を細める。

「あ」
 紫色の髪の少女はわずかに視線を止めたが、そっと俯くとそのまま通り過ぎようとした。

「プルーナ、お前も来ていたのか」
 そんな彼女にウェルジアは声を掛けた。

「……あ、えと、その、うん」
 プルーナは声を掛けられるとは思っていなかったように狼狽えている。

「……人の多い所では私に話しかけない方が良い」
「どうしてだ?」
「それは、その」
プルーナはウェルジアの返答に少し困っているようだった。

「う、あ、う」
 リリアは先ほどから混乱している。

「あ……そのリボン、、、綺麗、、、ね」
 ショコリーと目が合ったプルーナはぽつりとそう言った。
 次の瞬間だった。
 ショコリーが俊敏にプルーナの正面に躍り出て両手を取り握り締める。

「あなた!! 見る目がある!! お目が高いわ」
「えっ」

 周囲がざわめく。紫色の髪の少女はきょとんとした顔で目を真ん丸に開いている。多分びっくりしているのだろう。

 ショコリーはコホンと一つ咳払いをしてポツリと微かに呟いた。
「……それに、やっぱり貴女。魔女核持ちのようね」
「ういっちこあ?」

 プルーナは大きく首を傾けた。

「おい」
 ウェルジアがショコリーに声を掛けた。周囲の多くの視線が彼にはどうにも耐えられないようだった。

「あんた達、知り合いなのよね」
「ああ」
 ウェルジアがそう答えるとショコリーはニヤリと笑うとリリアの手とプルーナの手を繋がせた。

「ひえぇええええ、、、、え??」

 リリアは手を繋いだ瞬間は驚いていたが、すぐになぜか不思議な表情を浮かべた。

「どうかしたのか?」

 ウェルジアは妙な豹変に思わずそう聞いていた。
「あ、ううん。えと」

 リリアはバツが悪そうな表情を浮かべた後

「その、プルーナさん。さっき怖がっちゃってごめんなさい」
 とそう言って彼女のぎゅっと手を握った。

 プルーナは一瞬驚いたような顔をして微かに微笑んだ。

「怖がるのが普通、あなたは変じゃない。変なのはこの二人」

 プルーナはそう言って、リリアと手を繋いでいない方の手にもった剣を持ったままウェルジアとショコリーをそっと指差した。
 それを見たリリアはハッと何かを思い出したような顔をしてキッとウェルジアをショコリーを見た。

「あー、ほら、ウェルジア君とショコリーさん二人ともなんだって~、二人だって似た者同士じゃない!!」

 そう言って、通りに来た際にショコリーにからかわれた意趣返しともいうようにウェルジアとショコリーをプルーナのように指差してニタニタするリリアに向かって上からと下からの二つのチョップがリリアにクリティカルしていた。

「ぐぇ……ほら、やっぱ、り……」

 ウェルジアとショコリーは二人とも軽くペシリとしたつもりだったが、リリア相手には加減が悪かった。
 白目を剥いたリリアは手を繋いでいたプルーナに支えられぐったりしたのだった。

続く

作 新野創
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