Third memory 03(Yachiyo)
「ここはね、昔、たくさんの子供がいたのよ。だから、遠慮なく使って」
「えーっと……」
「そんなに緊張しないで、あたしはシスターと言うの。初めまして小さなお嬢さん」
「シスター、さん?」
シスターは、どこかアカネさんと似た雰囲気を持っていて、すごく優しい面持ちで声をかけてくれた。
「シスター! 早く食おうぜ!!」
「はいはい、ゴメンね。サロス、じゃあ、いただきましょうか」
「サロス、行儀悪いよ。まだ、いただきますをしてないんだから箸は置きなさい」
アカネさんがサロスの右手を軽く叩く。
「だってよぉ!!!」
「あのっ!!!」
自分でも驚くくらいに大きな声が出てびっくりしたけど、でもそんなことは気にならなかった。
「そのっ! ありがとう……ございます」
「あー、早くヤチヨも一緒に食おうぜ。シスターが作ったエビフライちょー美味いんだぜ」
「えっ!?」
「遠慮しないでね、たっくさん食べていいんだからね。ヤチヨちゃん」
「おかわりもたくさんありますからね。ヤチヨさん」
どうしてこの人たちは見ず知らずのあたしのためにこんなに優しくしてくれるのだろう?
こんなに、たくさんの優しい気持ちをもらったのは初めてだったかも知れない。
「うっ、うーっ」
思わず涙が溢れ出す。これは、さっきまでの涙とは違う。うれし涙って言うのかな?
でも、サロスはすごく慌てていて、アカネさんはあたしを抱きしめて大丈夫大丈夫と言いながらいつまでも頭を撫でてくれて、シスターはそんなみんなを見て、ニコニコ笑っていた。
「いっただっきまーす」
「いただきます」
「い、いただきます」
両手を合わせて呟いた。
目の前に広がるのはお皿にキレイに盛り付けられ僅かに湯気の上るおこめ、スープ、サラダ。そしてエビフライ、思わず喉が鳴る。
お箸を握り締め、心惹かれた正面のエビフライを拙い動きで掴み、専用のソースにつけて口の前に運ぶと、その香りをゆっくりと鼻から吸いこむ。
口をめいっぱい開けて頬張る。
サクサクッ、小気味よい音を立てた後に口に広がる先ほど鼻からも訪れた香り。
思わず目を瞑って、ゆっくりと何度も噛んだあと、惜しむように飲み込んだ。
「ほわぁーぁあ、、美味しい!!」
「へへっ、だろっ!」
「ほら、あたしのもあげる」
「あっ! ずりぃ!!」
久々の一人じゃないご飯はすごく美味しくて、あたしは自分でも信じられないくらいに夢中で食べていた。
その様子に、サロスとアカネさんは驚いていたし、シスターはそれを見て優しくほほ笑んでいた。
エビフライなんて、もういつから食べてなかったかなぁ……。それ以上に温かいご飯なんてどれくらいぶりだっただろう……。
夕食が終わって、サロスからもらったアイスを舐めながら歩いていると。アカネさんが誰かと話しているのを見て思わず隠れる。
……悪いことなんかしてないんだけど、なんだか反射的に。
「そう、ありがとう。悪いわね、こんな遅くに呼び出して」
「そう思うんなら、こんな時間に連絡してくるのは――」
「ありがとね。ナール」
「……彼女の父親には俺から伝えておく。まぁ、連絡が取れれば、、だが……」
男の人は、ため息をつきながらもどこかアカネさんに対しては優しい笑みを浮かべていた。
連絡、、パパに連絡……か……。
「よろしくね。ナール」
「おやすみ。アカネ」
「おやすみなさい。」
これからどうなるんだろう? お家に、、また、あの真っ暗な空間に戻っちゃうのかな……?
パパ、、今度はいつ帰ってくるのかな? 今日は楽しかったな、、久々に笑った気がする……。
……一人ぼっちになっちゃうのは……イヤだな……。
「ヤチヨちゃん」
アカネさんが、あたしに気づいて声をかける。
これ以上、わがままなんて言えない……困らせるわけにはいかない。こんな良い人たちにこれ以上迷惑はかけられない……よね。
「帰る、準備しますね」
「えっ!?」
「あたしのお家の場所、わかるんですよね? じゃあ、送って行ってもらえれば帰ります。お洋服、今度返しにきます! だから——」
そんな精一杯の強がりの言葉を遮るように、何も言わずアカネさんはあたしを抱きしめた。
「アカネさん?」
「帰らなくていいから」
「えっ!?」
予想外な言葉に、あたしは驚きの声を上げた。
「あの、でも―――」
「あたしも、シスターも、サロスだって迷惑だなんて思わない。だから、ヤチヨちゃんがいたいなら……ヤチヨちゃんのパパがここに迎えにくるまではいていいんだからね」
アカネさんはそう言って、強く強くあたしを抱きしめる。うれしくてうれしくて嬉し涙を流すことすら忘れていた。
その日から、あたしとサロスとアカネさんとシスターの4人での生活が始まったのだった。
続く
作:小泉太良
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