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58 班戦闘開始

 同じように吹きすさぶ風が辺りを通り抜けていく。別の場所で集まっている生徒達もまた他の班と同じように作戦会議を行っていた。

「ヒューゥ、こりゃまた楽しいイベントになりそうだね。これも先生の計画のうちってことなのかい?」
 二カッと笑いながら結った髪の毛の束が風に揺れる。

「ボク達の組み合わせの事だろうか? 確かに何かしらの動きがあってこうなったんだろう。その目的に興味は尽きないが、国からの通達でこのような班での戦闘になっているということは、先生が一人で単独で行ったという事ではない気がするね。細部を知らされてはいないボクらが邪推したところでさして意味はないが、約束を果たしてくれればそれでいいとしておかないと余計な詮索は身を亡ぼすこともあるだろう」

 本を片手に文字に目を通しながらもつらづらと少女は視線を落としたままで会話をする。
 次いで猫背の少年がポリポリと頭を掻きながら口を開く。

「そりャそうだ。詮索したところで俺達にャ関係ねェだろ。ともかくよォ。今回の単騎模擬戦闘訓練(オースリー)で何か始めるッてんじャなきャ、ここまでオレ達で班を固めねェだろッて、仕込みがあるのは確実だろォよ」

「あはは、アタシゃ、つええ奴と戦えればいいし、ま、ほどほどに楽しくやろうぜ~、トールもリアーナもアタシと一緒に戦いを楽しもう! お、やっとアイツらも来たみたいだな、遅刻だっつの」

 トールとリアーナと呼ばれた二人は視線を向ける。二人の男子生徒が会話している場所へと近づいてきて、更にその輪に加わる。

「おせぇぞ、ダリス、ベルク。何やってんだ」

 結った髪が大きく揺れる。わずかに不機嫌そうな声で話しかける。

「悪いな。先生からの指示を仰いでいたものでな」

 羽織ったマントを翻しながら答える男は頭を軽く下げた。

「ああん、ならしゃあねぇか、で、ダリス。リオルグ先生はなんだって?」

「……ああ、なるべく目立って、時間を稼げ、と言っていた」

 預かった指示を伝達すると、この場に先に集まっていた三人は困惑した表情を浮かべる。

「なんかよォこれまでと違くねェか?」

 猫背の少年が疑問を口にする。それはこの場で話をしていた他の二人も頷く。

「ああ、つまり、もう俺達がやれることはなくて、ひっそりとする時間は終わったってことなんだろ。先生が準備していたことを始めるってことだと思うぜ。何をするかはしらねぇけど」

 ベルクという名の小柄な男子生徒はニヤリと口角を釣り上げた。それをみた長身の少女も結わえられた髪を揺らしてケタケタと笑う。 

「アッハハ。そういうことか、それなら分かりやすくていいじゃないの、最後は派手にやればそれでいいだけなんて! じゃ、これが終わったら、いよいよアタシ達それぞれとの約束を果たしてくれるってことだな」

「そういうこったろ。ま、という訳で俺も好きにやらせてもらうぜ、リン」

 ベルクはカラカラと笑いながら弓を器用に手元へと手繰り構える動作をした。ダリスはため息を吐きながら少し強い口調で口を開いた。

「ベルク、今回は絶対にミスが許されないと先生からは聞いている、勝手な事はするな。指示に従え」

 そう言われたベルクはムッと僅かに不機嫌そうな顔をして猫背の少年をビッと指さした。

「けっ、わかってるよ。けど、おれよりも勝手しそうな奴いるじゃん」

 猫背の少年もあからさまに嫌な顔をして睨む。

「なんで俺の事見てんだァ、おめェベルクよォ。指さすんじャねェぞコラ」

「別に~、ただトールお前さ。ちょっと雰囲気っつーかキャラ被るから嫌いなんだよね」

「そりャァよ、こッちの台詞なんだけどなァ」

 猫背のトールと小柄な切れ目のベルクが睨み合って一触即発の空気が滲みそうになる。

「さぁさぁ、ダリス!! さっさとその指示ってやつをおくれ!! 開始はまもなくだろ?」

 先ほどリンと呼ばれた女子生徒がその空気を両断するように元気な声を上げる。

「……いいか? 今回はまずは時間を稼ぐために戦いを長引かせる必要がある…………」

 ダリスはため息を吐きながら説明を始める。


 こうして、各班が戦いに向けて話し合うものの辺りからは怒号が飛び、喧嘩をする班も見受けられる。西部では協力することに馴染みがないためか円滑に話し合いが出来ている班はそう多くはないようだった。

 ただただ時間だけが過ぎ去っていく。

 そして正午過ぎ、単騎模擬戦闘訓練(オースリー)が遂に開始時刻を迎える。


 土をザリッジャリッと踏みしめている音が小気味よいリズムを刻みながら耳に入ってくる。

 「……各チーム揃ったようじゃな」

 プーラートンの管理監督の担当区域で戦闘を行うチームが集まってきており、周囲は既に騒めいている。

 視界が遮られることのないこの場所は、東西の学園の真ん中の地域を分割するように大きく隔てて存在しているシュバルト平原の西端境界付近である。
 このシュバルト平原を隔てて遥か遠く向こう、300kM(ケーム)ほど先には東部学園都市の領域にもなる、歩いて向かうのであれば真っすぐに向かっても十日以上はかかるであろう距離だ。

 そして、この区域は校舎棟区画からは最も遠くなっており、環境上、特別な遮蔽物もないような開けた場所だ。足場は土や石ころで荒れ地となり、整備などもされていない。

 生徒達の実力差がハッキリと出る場所ということがそれぞれの生徒達にも見て取れるだけの理解が出来ていた。

 その為、始まる前にも関わらず未だにギリギリまで確認したり口喧嘩をする生徒達。しかし、どのチームも連携して戦う事には慣れておらず、話し合いは難航しているのか、直前でもざわざわと会話が聞こえてくる。

「どんな相手でも俺が蹴散らしてやる」
「私に任せてくれればいいのよ」
「邪魔しないでくれればいいんだ」

 周囲からはそのような言葉が飛び交う。その中で、ウェルジア達の班は非常に落ち着いていた。既に必要な話は済ませてきている。そもそもほとんどヒボンしか喋ってはいなかったが、概ね反対意見は出ていない。

 元々、そこまでお喋りではないウェルジアとネル。戦いになると集中力が増すのかだんまりなドラゴ。
 ただただ、これからの戦いへの不安に押し潰されそうなリリアが大きな深呼吸をしている。
 
 どうやら指定の時間を鑑みるにウェルジア達が一番最初にこの場で戦う班のようだった。

 歩いて戦いの場となるエリアへと進み出る。広さは周囲100mM(メーム)程を簡易柵で仕切られた場所であった。
 対面側から相手の班も歩みを進める。監視者であるプーラートンの視界、眼前に両チームは対峙した。

「いいかい。アンタ達、あくまでも日々高めた力を見せるのが目的だ。やりすぎるんじゃないよ」

 プーラートンが今ここで声を掛けられる唯一の注意喚起だった。

「では、ダリス班対ヒボン班、準備は良いね?」

 ウェルジアはゆっくりと剣を抜き、ドラゴが拳を打ち鳴らした。ネルは低く構えを取り、ヒボンは直立したままニコニコしている。

 対戦相手である5人は不敵な笑みを浮かべながら自分の武器をそれぞれ手に取って構える。

 リリアはそれを見てガタガタと緊張と恐怖で震えていた。

「……心の準備が、その、まだぁ……」

 そんなリリアの蚊の鳴くような小さな声をかき消すようにプーラートンの声がこの場に響き渡る。

「単騎模擬戦闘(オースリー)改め、陣形戦闘模擬訓練!! 開始だよ!!!!!」

「ひやぁああああああああ!!!! はじまっちゃうううう!!!」

 リリアの悲鳴と共に遂に戦いの幕が上がる。


続く

作 新野創
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