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Third memory 08(Yachiyo)

「あーあ、いいなぁ」
「何がだい? ヤチヨ」
「どーせ、また母ちゃんとあの兄ちゃんのことだろ」
 
 サロスはそう言って興味なさそうに言って、助走をつけて川辺に近づき水面に向かって水を切るように石を投げる。
 
 そして、ピチャピチャと数回水面を跳ね、石はやがてチャポンという少し大きな音を立て、川の中へと落ちていく。

「よし、新記録! 見たかよ! 9回も跳ねたぜ!」
「わぁ~すごいなぁ~サロスは!」
「へへ、だろ~? なぁ、見たか? ヤーー」
 
     『――――――――――――――』
 
 サロスの声が聞こえた気がしたけど。その声は別の誰かの声? にかき消される。

「!!??」
「ヤチヨ?」
 
 フィリアの声にハッとする。

 ここ数日、変な夢ばかり見るせいか少し寝不足、なのかな……?

 さっきみたいに誰かに呼ばれているような……そんな、夢。

 ここではないどこかで、そこにはママに似た姿もあって……。

「大丈夫? ぼーっとしてたみたいだけど」
「えっ? 何!? 何か言った? フィリア?」
「なんだよ! 見てなかったのかよ!! 9回も跳ねたんだぜぇ!!!」
 
 サロスが、少し怒ったような顔をあたしに向ける。

「ごめん………」
「……ヤチヨ、どこか具合悪いの?」
「ううん、違うよ。ただ……」
「ただ?」
 
 ……これ以上サロスやフィリアに余計な心配はかけたくなかった。それにおかしいとは言っても夢の話だもん。
 
 うん、気のせい……気のせい!!!

「ううん。なんでもないよ!!」
 
 特にサロスには……アカネさんのこともあるし。

フィリアも最近おうちの用事が忙しいみたいで、こうして三人で集まれたのは実は5日ぶりだった。

そんな時間を今は精一杯楽しみたい、そう……思った。

「なぁ、フィリア。お前、家の用事ってまだ終わんねぇの?」
「うん、次、会えるのも数日後、かもしれない……」
「ちぇー。じゃあ! 今日は、思いっきり、遊ぼう、ぜ!! なっ、ヤチヨ」

サロスの笑顔を見るのも久しぶりな気がした。

二人で遊んでいる時の最近のサロスは空元気に見えていた……。
 
 でも、あたしもぼーっとしているしお互い口に出せなくて……なんだか、ぎくしゃくしてしまう……。

だから、こんな風に素直に楽しいと思えるのは本当に、久しぶりな気がする。

「うん! そうだね!! 今日は遊びつくそー!! おー!!」
「おー」
 
 テンションの高いあたしとサロスに、フィリアは付いていくのが精一杯のようで……。

でも、その日は、本当に楽しくて……日が暮れるのも忘れ、遊び続けた……。

……それが、……三人で遊んで楽しかった……子供の頃の最後の、記憶……。


アカネさんは、変わらずベッドで寝ていることがほとんどだった。

 一見すると、どこも悪いようには見えなかった……一体何が、アカネさんを苦しめているのかもあたしにはわからない。
 
 ……アカネさんを訪ねて毎日毎日、見知らぬ大人たちが教会に訪れていた。
 
 でも……誰一人としてアカネさんを心配しているような様子がなくて……いつも何か揉めているような雰囲気の人達が教会へと来る日も来る日もやってきていた。
 
 あたしはそんな大人たちを見るのがすごく嫌で、泣きそうになっていた。

「ごめんな……君にも辛い想いをさせて」
 
 そう言って、眼鏡をかけた男の人が優しい笑みを浮かべ、あたしの頭に手をのせ、撫でてくれる。
 
 顔を良く見て見るとその人は、ナールさんだった。

すごく、痩せてしまっていて近くに来るまで気づくことができなかった……。

「アカネさん、どうなっちゃうの?」
 
 泣きそうな声で尋ねたあたしに、ナールさんは困ったような笑みを浮かべた。

「大丈夫。アカネは、僕が必ず助ける」
「本当?」
「あぁ、本当さ」
 
 そう言って、ナールさんが私に優しく笑いかける。
 
 でも、あたしは知っている……この笑顔は嘘を、誤魔化す時に使うものだって……そう、あの日のパパも……。

「それと、ヤチヨちゃん。君のお父さんが見つかったんだ」
「えっ!?」
 
 そんなことを考えていたらパパが見つかったという情報を聞かされた。でも、それは今のあたしにとって、素直に喜べることではなかった。

「君は、父親のところへ戻ったほうがいい。シスターもいい年だし、これから先、今のままのアカネが君たちの面倒を見れるかどうか――」
「帰れよ!!!」
 
 サロスが、ナールさんをすごい怖い顔で睨んでいた。

「……考えておいて欲しい。君が、どうしたいのか」
 
 ナールさんはそう言って、あたしたちの前から去っていった。
 その日の夕飯はいつも以上に空気が重かったのを覚えている。

 サロスは何も言わず、少しだけ食べると食卓の場から逃げるように出て行った。

「ヤチヨ」
 
 シスターが、あたしに優しく声をかける。でも、きっと、これから言われることは、優しくない、ということはなんとなくわかっていた。

「あなたがどうして今のお家を出ていったのか、私にはわかりません。でも、きっと、あなたは戻るべき。その時が来たのだと思います」
 
 優しくも冷たい言葉だった。でも、仕方のないことなんだわかっていた。

シスターがあたしのためにわざとそんな言葉をかけているのも……。

「シスターは、あたしがいると邪魔?」
 
 子供だからこそ言えた、残酷な一言。
 
 シスターは、何も言わず、あたしを強く抱きしめてくれた……それだけで充分だった。

 あたしは、近々この家を出ることを決めた。
 
 決めたのなら、行動は早い方がいい。もたもたしていればサロスに気づかれちゃうから。

 荷物の整理をしようと部屋に戻る途中、アカネさんの部屋の扉が開いていることに気づき、あたしは、導かれるようにアカネさんの部屋へと入る。
 
 部屋に入ると、アカネさんが窓際に向けて立っていた。

 窓からの月明かりに照らされたアカネさんは、とても神秘的に見えてまるで女神様か何かなのかと錯覚してしまうほどだった。
 
 アカネさんは、あたしに気づくとゆっくりと手招きをする。

 あたしは、魔法みたいにその手に吸い寄せられた。


続く

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