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Third memory 17(Yachiyo)

「……る丘」
「んっ? ピスティ? お前、今なんてーー」
「星の、見える丘」

 涙と共に、零れた言葉をあたしは止めることができなかった。

「えっ!?」
「二人で……アカネさんに怒られるの覚悟で、見に、行った、よね?」
「ピスティ?」
「途中で、あたし、泣きだして、サロス、すごく、困って……」

 言葉は、涙と同じでまったく止まってはくれなかった。

 あたしは、一度溢れ出してしまった想いを押さえつけることが出来なかった。

「あの時、サロス、文句も言わずに、ずっと、慰めてくれて……頭、撫でてくれて……真っ暗で、何も見えなくて、サロスだって、不安なはずなのに……でも、慰めてくれて、励ましてくれて、優しい言葉、かけてくれた」

 サロスは、何も言わずただあたしの言葉をただ聞いていた。

 矢継ぎ早に口から出てくるのは、昔の……ヤチヨだった頃の記憶。思い出。

 星の見える丘に行ったこと、きのこを食べたサロスがアレルギー反応を起こして大変な事態になったこと。

 アカネさんの誕生日に、二人で協力して、サプライズパーティーをしたこと。

 シスターと、三人で色んな歌を歌ったこと。

 思い出は、数えきれないほど多くて……。

 いくら話しても足りなくて……。
 
 ちょっと前までは、一緒にいるのが当たり前で……。

 なのに、ずっと、ずっと会えなくて……。

 失っていた時間を取り戻すようにあたしは、サロスとの思いでを次々に話しーーふと、我に帰った。


 何してんの……あたし……これじゃあーーこれじゃあまた、、、。
 
 サロスの方をゆっくりと見ると、何も言わずにあたしを見つめていた。

 ……失敗だ。

 また、失敗だ……明日にでも、やり直さないと……。
 
 こんな形での失敗したのは初めてだった。

 まさか、あの日になる前に、やり直すことになるなんて……。
 
 しかも今回は、今後に影響するかも知れないほどの、取り返しのつかない失敗だ。

 後、何回やり直せるかも、わかりもしないのに……こんな、自分の感情を垂れ流してつまらない失敗を……これで最後の可能性だってあるのに……慎重に進めてきたはずなのに……こんな……
 

 ふと、背中に暖かい温もりを感じる。


「サロス?」
「……また、どっか行っちまうのか?」
「えっ?」

 あたしを抱きしめていたサロスの腕に力が入り、少しだけ痛い。

「なっ、何言ってるの? サロス、痛いわ、離しーー」
「行っちまうんだな……」
「……離して、離してよ!!!」
 
 サロスの腕の中で暴れる。

 どうしてそんな優しい顔をするの? あたしは、もうここにいちゃダメなのに……離れなきゃ、いけないのに……。

「ピスティ……いや、そう呼ぶのはおかしいか……」
 
 サロス、止めて……それ以上は、言わないで。

 だって、だって………今、その名で呼ばれたら……あたしーー。


「お帰り……ヤチヨ」


 堪えていた涙があふれ出る。
 
 これはきっと夢だ。

 疲れ切ったあたしが見ている幸せな夢なんだ。

 そうだ、きっとそうに違いない。

 


……サロスに会いたかった。

 昔みたいに泣いたら、慰めて欲しかった。
 
 フィリアやヒナタたちと一緒にもっと遊びたかった、話したかった……色んな思い出を作りたかった。
 
 サロスとたくさんたくさん、色んなことをしたかった。
 
 あの日、あたしは全てを諦めたはずなのに……。

 その日が来るまでは我慢しようって、耐えなきゃいけないんだって……。
 
 あたしは、大声で泣いた。

 サロスの胸に顔を埋めて、今は、サロスのが年下のはずなのに……あたしのがお姉さんのはずなのに……。
 
 子供みたいに大声をあげて、たくさんの想いが涙になって次々にあふれ出る。
 とめどなく涙が溢れてきて、しばらく止める事は出来なかった。

「なぁ、ヤチヨ」
「ねぇ、サロス」
 
 たくさん泣いて、たくさん吐き出して、だからこそあたしはまだ、踏ん張る事が出来そうな気がしていた。
 
 これは、きっと神様がくれたんだろう。

 頑張り続けてきたあたしにご褒美をくれたのかもしれない。

 あたしはゆっくりとサロスを見つめた。

「あたしは、ヤチヨじゃないよ」
 
 そう言って、サロスに笑いかける。

 サロスは、その言葉に戸惑いの表情を浮かべていた。

「でも、ピスティって名前でもないんだ」
 
 ただ、このサロスには、、、覚えていて欲しい。

 あたしの……この世界のあたしのことを。

「あたしは、ヤヨ。ヤチヨの腹違いの姉よ」

 ヤチヨに限りなく近いけど、でも、ヤチヨでない存在。

「ヤヨ……ヤチヨじゃない……」
「えぇ。そうよ」

 サロスは、きっとこれがあたしの嘘だって気づいていると思う。

 でも、そこは嘘を押し通すしかない。

 でなければ、きっともう、これ以上は歩くことも出来なくなる。

「じゃあ、なんでヤチヨと俺しか知らない思い出をお前が知ってるんだ?」
「あたしとヤチヨは昔から、不思議な繋がりがあってね。夜、夢の中でお互いの体験したこと経験したことを共有できるの?」
「姉妹は、そんなことができるのか?」
「姉妹だからじゃないよ。あたしとヤチヨだからできるの。昔から、どうしてそんなことができるのか不思議だったけど。でも、そういうことがあたしとヤチヨならできるの」
 
 サロスは、複雑な表情を浮かべていた。

 正直、すごく馬鹿らしい話だ。

 フィリアやヒナタにならこんな話はしない。

 でも、サロスになら大丈夫だという確信があった。

 だって……。

「信じられない?サロス?」
 
 唇をかまないようにとだけ意識して、サロスをもう一度、真っすぐに見つめた。



続く

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