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Eighth memory 03 (Conis)

SC-06エスシーシックスは甘えん坊なのですね」

 そう言って、マザーがぽかぽかしたその手でワタシの頭をよしよししてくれます。
 マザーの体は普段はとてもちくちくちくとしていたりします。

 でもそのちくちくする身体ではない日もあって、今日はたまたまマザーの足がもちもちもちもちしてそうだったので気が付いたらワタシはその脚の根元へと飛び込んでしまいました。

 でも、他の人たちはワタシのように飛び込むことはなくマザーの近くに近寄ったとしても足先まででマザーの足指を枕のようにしてすやすやと眠っていました。

 きっと彼ら、彼女らは明日、目覚めることはないでしょう。
 上から見下ろす他の子たちはワタシやオービーとは違って体の大半がキラキラピカピカしていました。

 うるうるめそめそした後の子も見えます。近々暴走することを悟り、こうしてマザーの近くで最期の時を過ごすのです。

 そんな当たり前の光景よりも、先ほどマザーが言ったワタシが初めて聞く『甘えん坊』という言葉にマザーの足のもちもちへの関心はワタシの中で消えてしまいました。

「甘えん坊? ですか?」
「可愛いということです」

 可愛い、それはシーエイチにもよく言われていた言葉です。
 ワタシはマザーの脚の根元に両手を置いてうーんとマザーのお顔をまっすぐ見つめました。

「可愛いと甘えん坊はおんなじ、なんですか?」
「マザー……そいつとまともに話していては、時間を無駄に浪費しますよ」
 
 ワタシの言葉を遮るようにオービーが口を開きます。
 オービーの発言が気になったのかマザーはワタシの頭をなでなでと撫でつつ、顔だけをオービーの方へと向けます。

「? どういうことですか? OB-13オービーサーティーン?」

 ワタシも首を少しだけうにゅりとオービーの方へ向けて、疑問を口にします。
 オービーは目でワタシに合図を送りました。

    それが始まりのきっかけだからです。

「……エスシー。いや、SC-06エスシーシックス、お前は何もわからなくていい。ったく、なんでこんなやつに上位ナンバーを与えられているんだ……」

 オービーがわざと周りに聞こえる……ヌルさんに聞こえるような大きな声でとげとげした言葉を吐き捨てました。

 それを聞いて今まで見物していたヌルさんが再びオービーの前に現れ自身の剣を抜きました。

 周りの空気もざらざらしていたものから、またぴりぴりとげとげしたものへと変わりオービーとヌルさんの視線がぶつかっていました。

OB-13オービーサーティーン。今の発言はマザーへの冒涜だ。それがどういう意味を持つことかーー」
「冒涜したからどうなるって言うんですか? だいちゅきなマザーを悪く言われておこったんでちゅか~?」
「きっさまっ!!!」

 ヌルさんがそのまま剣を抜き放ちオービーを斬ろうとしました。
 しかし、再びその一部始終を見ていたマザーが少しだけ体を乗り出し、声を上げました。

「その剣を納めなさい。NO-00ナンバーヌル

 声は荒げているのに、相変わらずマザーはふわふわした雰囲気は消えていませんし、お顔もいつものようににこにこ優しいお顔をしてました。

「っつ! しかしーー」

「聞こえませんでしたか? NO-00ナンバーヌル、剣を納めなさい」

 ヌルさんが再び、そのマザーの言葉によって抜きかけていた剣から手を離しオービーをギラギラした目でじっと見つめていました。
 
OB-13オービーサーティーン、ヌルへの過度な挑発はお控えなさい」
「マザー、それはNO-00ナンバーヌルが上位ナンバーだからですか? それとも側に置くほどあなたのお気に入りだからですか?」
OB-13オービーサーティーン。あなたの問いにはどちらも違いますとしか答えられません。なぜなら、私は皆を愛しています。そうナンバーでの優劣など関係ありません」
「……マザーお言葉ですが、あんたが思っているほどこの世界の仕組みは優しくない……」

 ヌルさんは目を閉じながら、オービーのお話に耳を傾けているようでした。
 マザーにこらってされたからなのか、お話だけは聞いてくれているようだとワタシは感じました

OB-13オービーサーティーン、それはどういう意味でしょうか?」
「あんたはナンバーによる優劣はないと言った。が、そのナンバーという定められた存在によって、惨めな想いをしているやつらもいるということだ! 特に下位ナンバーを与えられたやつはな……」
 
オービーはそう言ってとてもにがにがした表情を浮かべていました。
マザーがワタシたちにつけたナンバー……その真意はわかりませんが、本能的にそのナンバーによって区別がされているのはワタシにもわかることでした。
 
「……OB-13オービーサーティーン。今朝、CH-649シーエイチシックスフォーナイン が遂に暴走したそうですね……」

「……あぁ。あいつは最期までおしゃべりでお節介焼きで……バカ野郎だった……」

OB-13オービーサーティーンCH-649シーエイチシックスフォーナインとの親交がとても深かったと聞いています。辛い気持ちだとは思います。私も、CH-649シーエイチシックスフォーナインの暴走と喪失には酷く心をーー」

「嘘つくんじゃねぇ!! CH-649シーエイチシックスフォーナインーーあいつは、あいつはあんたのナンバーの意味するところのいわゆる失敗作だ!! あんたが日に数百体生み出すうちの一体。暴走したとしても歯牙にもかけない。価値などないと思っている一体にすぎない!!!」

「それ以上の暴言は、俺がなにをしでかすかわからないほどのマザーへの冒涜だ!!! 今すぐそのふざけた口を閉じろ!! OB-13オービーサーティーン!!」

 オービーは、マザーに自分の真意? というものを伝えるためにわざとヌルさんを怒らせてマザーが無視できない問題にするのが目的と言っていました。

 確かに、いつものマザーであるならば目の前のワタシたち一人一人に対してこれだけ長い時間を使ってくれるとは思えません。
 きっと、今オービーが言っていることはマザーにとっても大きな、もんだいなのだと思います。 
でも、ワタシには、オービーとヌルさんが何故ここまでイライラしているのかがわかりませんでした。
 
「あの、オービー、いえ、OB-13オービーサーティーンNO-00ナンバーヌル、質問があるのですがよろしいでしょうか?」
「あぁ!? お前は、黙ってろ! SC-06エスシーシックス!!」
 
 オービーのワタシへのイライラムカムカは作られたものではなく、本意のものであると感じました。彼はきっと当初の目的の範囲外で言葉をぶつけるほどにぷんぷんがみがみしているのでしょう。 

「まず、何故、OB-13オービーサーティーンはそこまでマザーに対してむかむかを抱いているのですか?」
「何故……だと?」

 ワタシの問いで少しだけオービーの表情が和らぎました。彼はとてもかちかちひえひえしてます。ここまであちちになることは珍しいのです。
 そんなオービーがようやくいつものツンツンを取り戻したのだと思います。 

「はい、日々CH-649シーエイチシックスフォーナインのように激しい暴走によって、もしくはここで穏やかに眠る他の子達のように、ワタシたちは喪失した後、廃棄されてゆきます」

 ふと、マザーの近くで眠る子たちの姿が目に入りました。今までは当たり前の光景だったはずなのに……ワタシは何故か、その光景に大きな違和感を感じ、胸がぞわぞわ、ぐわぐわしました。

「その事象をワタシも少なくとも数百単位で確認しています。ワタシよりも長い間生きているOB-13オービーサーティーンはそれ以上の事象を確認しているはずです。でも、今回のようにイライラはしていませんでした……それが何故、CH-649シーエイチシックスフォーナインに対してはこんなにむかむかしているのですか?」
「お前……」
「同じく、NO-00ナンバーヌルへも質問です……」
「……なんだ?」

 ワタシの問いの矛先が自分に向くとは思っていなかったのでしょう。ヌルさんにはめずらしいわわわの表情を浮かべました。

 いえ、もしかしたらヌルさんは本当はわわわだったり、わたわたしていることが少なくはなかったのかも知れないとワタシは思いました。

「どうして、NO-00ナンバーヌルはマザーに対する先ほどのOB-13オービーサーティーンの発言にそこまでイライラしているのですか?」
「何!?」

 ワタシの問いはまたもきっとヌルさんの予想外なこと、だったのでしょう。今まで見たことがないくらいおめめをぎょろぎょろさせながら、視点が合っていないようでした。

「おそらく、ワタシや他の皆が聞いたとしても、OB-13オービーサーティーンの言ったことは事実です。確かに、ワタシたちは等しく、マザーによって生み出され、マザーにこうして愛でられ、そして最後の瞬間まではマザーのために生きます。」

 ワタシの発言をオービーも、ヌルさんも静かに言葉も発さずにただ聞いているようでした。ただ2人ともワタシの言葉におめめを大きくしたまま、その場に固まっていました。

 気のせいでしょうか? マザーの口もとが僅かに歪んだ気もしました。

「でも、マザーが何を基準にワタシたちにナンバーを与えているのかはよくわかりません。それに確かにナンバーが20よりも多い人たちがワタシたちよりも辛い日々を送っているということも事実です。NO-00ナンバーヌル、あなたもその現状はーー」

「黙れ!!」
 
 ヌルさんが、ワタシに対してすさまじいイライライラをぶつけてきました。
 でもワタシは今までよりもぶるぶるがくがくするようなお顔をしたヌルさんを見ても不思議といつも通りのワタシでヌルさんのお顔を見ていました。



つづく

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