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Second memory(Sarosu)15

「ねぇ……サロス。一つ、質問してもいい?」
「んっ? なんだ?」
「サロスは、ヤチヨが幸せなら自分以外の誰かと一緒にいても辛くない?」
「なんだそれどういうーー?」
「答えて、どうなの?」
 
 ピスティの表情は真剣そのものだし、目もマジだった。どうやら、いつものように、茶化すのは難しそうだ。
  
   ……ヤチヨが他の誰かと一緒にいる。
 
 例えば、フィリアと一緒にいるとか? 別に仲良いんだし、、仮にヒナタでも別に……辛くなんてことは……。

「サロス、今、あんたが考えていることに一つ付け足して、、その相手といればヤチヨは幸せになれるけど、あんたはほとんど会えなくなるとしても……それでも辛くない?」
        

 ……え? ……それは…………嫌だな。

 ……でも…………あれ?……なんでなんだ?

「サロス、あんたが言った父親が娘を大切に思う気持ちっていうのはね、、きっと、今の問いに迷うことなく良いって言えることなんじゃないかな。すぐに答えられないのなら、あなたがヤチヨを思う気持ちは父親のものとは違うものなんじゃないの」
「じゃあ、この気持ちはなんな―—!!!」
「それは、誰かに教えてもらうものじゃない。あなた自身が気づかないといけないと思うわ」
「俺自身が気付く?」
 
 ヤチヨが幸せになる。

 そうなることが1番だと思ってた。でも、そこに俺はいない。幸せなヤチヨを一番近くで見ていたい……ピスティに言われてそんな気持ちがあることに気づいた。


「……父親には、良い印象はないって言ったけど。一つだけあったわ」
「なんだ?」
「ヤチヨが昔、父親と2人でご飯を食べていた時、唐突に一言だけこう言ったそうよ「ヤチヨ、幸せになりなさい」って……」
「幸せに……」
「あたしも聞いた時は意味がわからなかった。でも、今思い返せばわかっていたのかもね……ヤチヨが幸せになれる相手を見つけたことを。近い将来、自分のそばから離れていくかも知れないってことを……」
「幸せになれる相手……」
「サロス、あたしは父親っていう存在のことはわからないし、今どこで何をしているのか、、生きてるのか死んでるのかもわかんないけど……きっと、親っていうのは何よりも子供の幸せを願えるような存在なんじゃない? ねぇ、、それを踏まえてヤチヨのことそういう風に思える?」

「……俺は……思えない」

「サロス」
「お前に言われて気づいたよ。ヤチヨが他の誰かと幸せになる未来なんか考えたくねぇなって……誰よりも一番傍にいたいって。なぁ、これがその、、もしかして、好きって、ことなのか?」
「……どうかしら? ほーら、ちょうど真下に天蓋があるんだし、思いっきり今のその想いを叫んでみたら? 案外、本人に届くかも知れないわよ」
「なっ!?」
「ヤチヨも、あんたと同じ位のにぶちんだからね。ちゃんと伝えてあげないと届かないわよ」
「でもよーー!!」
「他の誰かに隣を取られてちゃってもいいの?」

 ヤチヨが他のやつと一緒になる……?

 ヤチヨの一番傍にいるのが俺じゃなくなる……?

 ヤチヨの笑顔を傍で見ていられなくなる……?

 そんなのは……絶対に……
 
 そう考えたら、俺はいつの間にか丘の端まで駆け出して大声で叫んでいた。

「ヤチヨ!! 俺、お前が好きだ!! 必ず助けるから! そしたら、、ずっと、ずっと俺の隣にいてくれぇぇぇぇ!!!」
 
 俺の精一杯の叫びは、闇に吸われたみたいに響くこともなく、夜空に空しく消えた。

「ぷ、はっ、ハハハ。あっはっは」
 
 そんな俺を見てピスティが、顔を抑えて大笑いしていた。

「なっ、何がおかしいんだよ!!」
「いや、まさかほんとうにやるなんてねぇ。こーんなに恥ずかしいこと躊躇もなくやれるのはサロスくらいしかいないって」
「なっ!?」
「ハハハ。あー、おっかしい。ほーら、帰ろ。夜も更けてきたし。」
 
 そう言った、ピスティが背を向けて。歩き出した。

「おいっ、待てよ!! ピスティ!! ピスティ!!!」
 
 俺も、その背中を慌てて追う。

 気のせいだろうか、ピスティの背中がなぜか泣いているように見えたのは……。

 いや、きっとピスティのことだ。笑い過ぎて涙がでただけなんだろう。
  
 星の見える丘から帰った俺は、早々にベッドに潜り込んだ。
 
 なんだか、今日は墓穴を掘りすぎてる気がする……。こんな日は、早く寝るに限る。

「ねぇ、サロス。起きてる?」

 唐突に背中からピスティの声が聞こえてきた。

「……寝てる」
「起きてんじゃん」
 
 ピスティが悪戯っぽく笑う。こいつ、寝れないからってまた俺をからかうつもりなのだろうか。

「ねぇ、サロス。あんた、さっき父親について聞いてきたじゃない?」
「んっ? あぁ」
「ねぇ、ヤチヨともそういう話したことあるの?」
「なんだよ、いきなり」
「……したことないなら、してあげて。あの子、きっと、喜ぶよ。あんたの知らない一面を知れたって」
「あぁ。ヤチヨを救い出したら、話してみるよ」
 
 そのためには、とにかくヤチヨを救わなければならない。だからこそ明日に備えて――。

「サロスは、どんな父親になるんだろうね」
「ばっ、馬鹿!! 俺は、ヤチヨとまだ結婚するなんて言って——!!」
「あれれー。あたしは一言もヤチヨとも結婚とも言ってないわよ~」
 
 ピスティにしてやられた。俺は、これ以上余計なことを言わないために布団を深く被る。

「ねぇ、サロス」
 
 無視だ。無視。俺は、もうねむ――



続く

作:小泉太良
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