22 現生徒会メンバー
程なく着いた建物内にある一室は他の教室の入り口とは少しばかり違っており、ドアが大きく両開きになっている。
ガレオンはその扉を押し開けるように中に入っていく。ゼアとシュレイドもその後ろに続いて室内へと入った。
「ようこそ。生徒会室へ」
エナリアは部屋の最も奥、長いテーブルを挟んで入り口と反対側の窓際の席からシュレイドへと声をかけた。ガレオンは腰掛けている数人の生徒の後ろをのっしのっしと進み、座っているエナリアの右隣に立ち振り返る。
「二人とも、ありがとう」
「ああ。このくらいお安い御用だ」
ガレオンはエナリアにニッと笑みを向ける。
「会長のお役に立てて何よりです。では俺はこれから自身の鍛錬をしたいので、これで失礼します」
「ええ、本当にありがとうゼア」
ゼアはエナリアへと軽く会釈をするとシュレイドの脇を通り
「それじゃあまた」
一言そういって生徒会室を去っていった。
扉が閉まるとエナリアは姿勢を正し
「まずは、来てくれてありがとう」
とにっこり笑った。
「いえ、まぁその、えーと。確か約束? だったようなので」
シュレイドはぎこちなくそう答える。
「今日呼び出したのは、貴方にお願いがありますの。でも、その前に」
エナリアは椅子から立ち上がり、シュレイドへ向けて綺麗なお辞儀を行う
「東部学園都市コスモシュトリカ、現生徒会長エナリア・ミルキーノよ」
そのあまりの動作の丁寧さに思わずシュレイドもついお辞儀をしてしまう。
「あ、シュレイド・テラフォールです」
エナリアはお辞儀の後、周りにいる面々へと目配せをしていく。
「それでは東部生徒会の現メンバーをご紹介いたしますわ。とはいえここにいるのは全員ではないのですけれど」
エナリアがそういうと席についていた全員一斉に立ち上がった。生徒会室の異様な空気感にまだ慣れないシュレイドがその様子に面食らっているとエナリアの右隣にいたガレオンが口を開く。
「風紀委員長のガレオン・ラウドだ。主に学園内のトラブル対処をしている。よろしくな」
するとガレオンの右隣の赤髪のスラリとした背の高い女子生徒がシュレイドを値踏みするような目線を向けたまま口を開く。
「副会長、スカーレット・ルビーネだ。お前が会長を、、、な。ふむ、にわかには信じがたい事だが」
どうやら食堂での一件を信じ切れていない様子で怪訝な表情を浮かべる。
スカーレットの手前に立ち、へらへらと柔和に笑う男が割って入る声が聞こえた。
背は低めで、ややふくよかな体躯の男子生徒がそんな空気を変えるようにシュレイドに挨拶をしてくる。
「カレッツ・ロイマンだよーん。食堂では凄かったねぇ、見てたよぉ。あ、僕は会計長、よろしくぅ。商人の家系だから会計っていう感じの安直さで生きてるデブだ!」
(自分で言うのに抵抗がないのか?? それとも何か思惑が?)
シュレイドは時として身体的な特徴への侮蔑となりかねないような言葉を自分に向けて使う目の前の男を不思議に見つめる。
どうやらこの男は食堂にいたエナリアの取り巻きの一人であの場にいたのだろう。
自分の事を卑下する呼称を初対面の相手に躊躇なく使って自己紹介をする彼の胆力は人並みではないのかもしれないとシュレイドは思った。
次の人物へと視線を向ける。カレッツの手前、シュレイドから見て長机を挟んだ左側の席の一番近い位置へと。
だが途端にシュレイドは無意識に視線を逸らしてしまった。あまりにも豊満な胸を持つ女性が目に入ってしまって思わず逸らす。
今の視線は失礼じゃないかと瞬時に思ったシュレイドはあからさまに視線を投げだしてしまい、逆に不自然極まりない行動になってしまった。
クスクスとその当人から笑い声が聞こえてくる。視線をゆっくりとその笑う相手の目線へと戻してようやくその顔が目に入る。
「あらあら、別にもっとみててもいいのよ~、かわいいキミなら大歓迎~、書記のエル・サキュリス、皆にはエル姉って呼ばれてるの。うふふ、ほらほら、ねぇ、みてみて~やわらかそうでしょぉ?」
エナリアの隣に立ちシュレイドを直視しつつ微動だにしないガレオンを除き、シュレイドとカレッツの視線を釘付けにしてしまうような破壊力のある胸を見せつける。たゆんたゆんとしたその重力に逆らうように弾む動きを前面にアピールし、ふくよかでかつバランスのいい肢体を艶めかしくくねらせている。
(心なしか背後から視線を感じるのは気のせいだろうか)
シュレイドが妙な気配を感じていると、その彼女のシャツの胸元のボタンがパツパツな様子を隣のカレッツが横から鼻の下を伸ばして覗き込むようにしている醜悪な姿が直後に視界に入る。
(なんかあいつ、ノリがフェレーロ、みたいだな、、、いや、違うな。、、、なんか一緒にして悪い、、、ごめんなフェレーロ)
と、カレッツのおかげ?で冷静さを取り戻すことができた。
コホン。
とエナリアのあからさまな咳が部屋に響く
「アヒィィイ!!!! おっぱい覗いて、すいませぇ~ん!!!!」
カレッツはエナリアとスカーレットからの視線にビシッと姿勢を正して指先までピンと伸ばし、とても美しい立ち姿で冷汗を流しながら固まった。しかし、腹は突き出ている。
「あら、会長。ごめんなさぁい。彼、思ったよりタイプだったから、エヘ」
エルは舌をペロッと可愛く出しながら謝っている。
だが、このやり取りで少しシュレイドのここまでの緊張感が取れていたのも事実だ。カレッツという男はそれを見越して先ほどのような行動を、、、
「カレッツ君はまた後で見に来てもいいんだからねぇ?」
「えええっ!? マジですか!? はいっ! 凝視しにまいります!!絶対行きます!」
、、、した訳ではないようだった。ただ欲望に素直な男なのだろう。
エナリアに促され、シュレイドは自分から見て右手前にいる生徒に視線を移す。と次の瞬間に凄い目でシュレイドを睨んでくるちびっ子が目に入ってきた。
沢山の三つ編みが施されている髪型が特徴的な可愛らしい容姿の少女だ。しかし、あからさまに下から煽って除くような形で首が不自然に捻られながらメンチを切られている。
「ああああ、コイツ今、エルと胸元を比較しやがりましたですねぇええええ! コンチクショウが!!!!」
長机を挟んだ彼女の正面のエルがふふふと笑っている。笑い事ではないんだけど。とシュレイドは思ったが、更にややこしくなりそうなので押し黙る。
「男ってのは、どうしてそういう所ばっっっかりみるんですかねぇええええ!! なぁああああ??? カレッツ~ゥ!!!!」
「アヒィッ!!! 男性のほ、本能なのかなぁなんて、、、ヒィエア!!! アアア、イエェエエなんでもありませぇん」
とんでもなく目つきの悪い彼女の視線がカレッツを襲ったかと思えば途端にこちらへぐるりと首ごと振り向く、その動作も相まって暗がりの廊下でこんな顔に遭遇したら大声で叫んでしまいそうな表情である。
「英雄の孫ォ!!! テメェもだぞ!!!!!!!! 貧相な胸だな、エルと比べて何でこいつは育っていないんだろう。栄養足りてないのかなァ? とか思ってんだろオラァ!!!」
いや、みてません。断じてみてません。そして思ってません。どんな被害妄想だよ。と思ったシュレイドだが、ややこしくなりそうな気がして口には出せなかった。
シュレイドは見た目と言動が一致しないちっちゃい女子生徒と、なぜか先ほどのエルとのやり取り付近でも感じていたのだが、再び背後の扉の外からの刺すような視線が飛んでくるのを感じていた。これは悪寒というやつなのかもしれない。
「アイギス」
エナリアがたしなめるように声をかけると途端に沈静化した。流石に生徒会長には逆らえないようで、不満げながら一言
「ふん、議長のアイギス・フェリオン。お前キラーイ、だいっきらーい」
とプイっとそっぽを向かれた。いきなり嫌われたシュレイドは天井を見上げて嘆く。
なぜ他の生徒会の人達は全くフォローをしないのだろうかと不思議に思うが僅かな逡巡の後、視線を落とすとガレオンと目が合った。
ゆっくりと大きく頷いたガレオンの目が語る様子に対して、あ、コレやっぱりめんどくさい事になるやつなんだな、と自分の直感が正しい事に安心し、一人納得した。
続く
作 新野創
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