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Fourth memory 18

「ヤチヨ……私、待ってるから」
「うん」
 
 本当に短い、そんな別れの言葉をかわす。

 でも、これでいいんだ。

 今のあたしたちには充分過ぎる時間だ。

「ヤチヨがちゃんと帰って来れるように、私は、ずっと、ここで待ってるから!!」

 去ろうとした、背中越しにヒナタのそんな力強い言葉が聞こえる。

 今のあたしにこれほど、支えになる言葉はない。

「うん!!」

「ちゃんと! 私に、お帰りなさいって言わせなさいよ!! もう……失うのは二度とイヤだからね!!!」
 
 振り向かなくてもわかるほど、ヒナタの声は震えていた。

「……ねぇ、ヒナタ」
「なに?」
「あたしが呼んだら、どこであっても、必ず、来てくれる?」
 
 答えは聞かなくてもわかってる。だって、今のあたしたちにとっては当たり前のことだから。

 でも今はあえて、その当たり前のその言葉をヒナタの口から欲しい。

「もちろんよ! だって、ヤチヨは私の親友だもの!! ううん、フィリアとサロスの言葉を借りるならあなたの相棒だもの!!!」
「あい、ぼう、か……」
 
 期待以上のヒナタの言葉に、あたしはうれしくて涙を零した。

 子供の頃からずっと羨ましかったもの。

 欲しいと思っていたもの。

 心の底から望んでいたもの。

 今のあたしにはそれがある。

「あたしとヒナタがいれば不可能なんてない……そう、信じていいんだよね?」
「当たり前よ! ヤチヨと私、二人がいれば無敵なんだから」
 
 ヒナタの言葉がどんどんあたしに力をくれる。

 やる気が満ち溢れ、勇気が湧いてくる。

「うん!! そうだよね! ……じゃあヒナタ、いってきます!!」
「いってらっしゃい! ヤチヨ!」

 だから、あたしはもう、振り向かなかった。


 あたしは涙が出そうになるのをヒナタに悟られないように、天蓋に向けて全速力で走った。

「さて……」
 
 今回はすぐには星の見える丘にはいかず、この天蓋の中を改めて少し見て回ってから行こうと思った。

 いつもと同じようで、今回は違う。

 あたしの耳にはアカネさんからもらったサロスのピアス、首にはフィリアからもらったお守り。

 そしてなにより……あたしはもう、一人じゃない。

 遠く離れていたとしてもあたしにも親友、そして相棒と呼べる存在が……ヒナタがあたしにはいる!!!

 怖いことなんてもうない! 今度こそ上手くいく!!

 ヒナタの悲しい顔はもうこりごりだし……いい加減に……もうそろそろ


 過去じゃない……未来のサロスに会いたい。


 だから、その未来のために、今は少し冷静になろう……。

 どうして、サロスはあの力……さいわいをよぶものの力を手に入れられたのか?

 まず、それを知る必要がある。

 きっと、このサロスのピアスとフィリアからもらったこのお守りが関係している。

 根拠はない。

 でも、あたしはそんな気がしている。

 きっとこれは良い未来を迎えるために必要なこと、そう、自分に言い聞かせ、前に進むのすら決して楽ではない崩壊した天蓋の中へとあたしは突き進む。

 天蓋は、時間が経って一度調べに行ったあの頃よりも崩壊している。にも関わらず、不思議とこれ以上は倒壊する様子もなく、あたしはただただ、天蓋の奥へ奥へと進んでいく事が出来た。

 不思議と不安はなかった。

 そして、しばらく進んだ先、あたしはあの二体の巨像の前へと再びたどり着いた。

「……やっぱり、あたしを呼んでたのはあなたたち、なの?」
 
 返事はもちろんない。

 だって、これはただの巨像だもの。

 ただ、巨像の前に来てからというもの、サロスのピアスとフィリアのお守りが激しく何かに反応しているような気がする。心なしか熱を帯びているような。そんな感覚。

 以前ここに来た時にあった意識を失うほど眩暈をするような事態も今は起きていない。

 あたしは、二体の巨像の方へと一歩また一歩と足を進める。

 すると、二体の巨像の胸元に太陽と星の小さな窪みがあることに気づく。

「この窪みの形……もしかして!?」

 あたしは、ピアスと星の飾りをその窪みに重ね合わせてみる。

 実際にはめ込んだわけではないけど、ぴったりハマるような気がする。

 「また、一つ見つけた……今度こそ……皆で笑い合える未来への手がかり、今度こそ、絶対……掴んでみせる」

 そのあたしの決意の言葉に答えるように8度目の白い光があたしを包む。

 いつもと変わらないように見えて、少し違う。それは、今回は星の見える丘ではなく、天蓋から始まったということ。

「これ以上のことは、戻った先で調べるしかないわね……」
 
 繰り返すことを最後にする覚悟を決め、目を閉じる。

 ゆっくりゆっくりと白くて暖かい光が目の前に広がり、あたしを包み込むように飲み込んでいく。

 包み込む時間が、これまでよりも長く感じる。

 白く暖かい光があたしを完全に包み込む瞬間、赤い光と青い光が突然にあたしに降り注いだ。

 何かが変わる、そんな確信をあたしはしていた。

「待ってて、サロス、フィリア……必ず、皆で一緒に帰るからねヒナタ」

 そして、あたしにとって9度目の繰り返しが始まった。

 
 今までの出来事が走馬灯のようにあたしの目の前を駆け巡る。

 天蓋に消えて行く、サロスをただ泣き叫んでみていることしかできなくて……。

 アカネさんにサロスのことを頼まれて、どうしたら良いかわからなくて……。

 ……思えば、最初は、ソフィを傷つけて自警団の未来を奪ってしまったんだっけ……あの時は焦ったなぁ。

 また、戻れた時は本当にほっとした。

 ヒナタを傷つけてしまったとき、取り返しのつかないことをしたって……やりなおせなかったらどうしようかって怖くて不安だった……。

 サロスは、最初あたしがピスティとして出会った時は弱くて頼りなくて……その不甲斐なさに思わず怒鳴ったこともあったっけ。

 でも、へこたれず不貞腐れもせず、ただ、まっすぐにあたしを信じて付いてきてくれた。

 あたしもその真っすぐに強いサロスの姿を見てここまで頑張ってこれた。

 今度こそ、絶対__


 __その時、サロスのピアスがピシリと音を立てた。

 その音は光に包まれていくあたしには、聞こえていなかった。



続く

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