154 巨大すぎる剣
【キュミン編ボイスドラマリマスター版2024/04/14配信開始】
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小説×ボイスドラマによる全力全開の群像劇
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【小説続きは以下から本文】
とある放課後、手のひらにある指輪を見つめマキシマムは溜息を吐いた。
「さて、ここからどうしたものか」
彼の手に収まっている指輪は知らない人物から預かったものだ。
これが誰のものかも分からない。
あの日から、もう随分と時間が経ってしまっている。
自分が出来る事だけはずっと準備し続けてはいる。
ガンドリュー、そしてグラノ。二人とも自分と関わったが為に居なくなってしまった。
国の異変にいち早く気づいていながら何も出来なかった自分。
戦う事しか出来ない自分を見つめ直し、今日まで生きてきた。
全盛期の自分を越えるべく衰えていた身体を鍛え直していく日々の中で、これからどうすべきなのか、という答えだけがどうしても見えてこない。
だからこそ、プーラートンやクーリャにこれまでの話をすることを決断した訳だが、それを話したからと言ってすぐに状況に変化が起きるわけでもない。
寧ろ、これまでよりも注意して行動しなくてはならないのは確かだ。
物思いに耽っているとノックの音がして室内に二人の生徒が入ってくる。
「先生、そろそろ行こうぜ」
ドラゴが瞳を輝かせてやってくる。少し遅れてゼフィンもスタスタと歩いてやってくる。
「おお、お前らか。お、今日は随分早いな」
腕まくりをして力こぶを作ってみせるドラゴ。まだまだ鍛え方が足りないと思いつつもその表情に安堵を覚える。
この国にはまだこのような若者が大勢いる。今の問題さえ片付けてしまえば未来に憂いはない。
後は、自分があとどれだけ生きながらえる事が出来るのか。そうした考えもあって結局はプーラトンの口車に乗り、2人に昔学んでいた剣術の流派を教える事となっていた。
「身体がうずうずしてんだ先生」
「まったく、君は単純でいいね」
ゼフィンもそうは言いつつ満更でもない表情なのがマキシマムには分かる。年の功とでもいうのだろうか。
「ゼフィン、何かあったのか?」
この二人がここまで高揚しているというのに興味が湧く。リオルグ事変からその後、西部学園都市内は鬱蒼とした雰囲気が包み込んでいて、今は少しでも前向きな気持ちに触れていたかった。
そういう意味ではこの二人の存在はマキシマムにとっても光明だったのだろう。
「ええ、生徒会の座を奪取する。なんて目標を掲げる人に手を貸すことになりまして」
ゼフィンからその目標を聞いて唇の端がつり上がる。昔の西部学園都市を思い出す。昨今の西部生徒会は一度収まると長期化する傾向があった。
ティルスが入学する前の生徒会は上級生となった者がそのまま座して6年が経っていた。
丁度、東部学園都市にも貴族の娘が初めて入学している。エナリア・ミルキーノだ。
彼女とティルスの学園入学は当時は秘密裏にはされていたが、マキシマムは何かしらの変化が起きる兆しを感じ取っていた。
簡単に座する事が出来ないはずの生徒会長の地位をティルス、エナリア共に入学の一年生時に力づくで成し遂げている。
これは学園の歴史上でも初めての事だった。
ティルスに至っては6年もの長きに渡り盤石だった生徒会から今のメンバー達とその座を奪い取っている。
当初は貴族である事で贔屓があったのではないか噂されていたが、ティルスはひたすらその事実を入学から隠していた為に知っている者が限られており、彼女が実力で勝ち取ったことで結果的にここまでの信頼を得る生徒会になっている。
「ほぅ、今のティルス達からか、面白いじゃないか。あいつらが生徒会を奪取した後だ。なかなか同世代で野心を持つ者はおらんかもしれんという気がしていたが」
髭をさすりながらそう評するくらいには生徒全員、今の生徒会に付いていくものと思っていた。
「双爵家の令嬢である事は僕らは早くに気付いてはいました。今回のリオルグ事変で知れ渡った今の彼女からその地位を奪うということの意味は大きいです。その道でしか騎士への道が繋がらない人もいるという事ですよ。先生」
「貴族である事……知っておったのか」
「ええ、最初に見かけた時に。ドラゴは、まぁ知らなかったでしょうけど、いや、知っていても何も変わらないか君は」
クスクスと笑いながらドラゴに目配せすると彼は実に不満げな表情でゼフィンを睨んだ。
「おい、いまちょっとバカにしてるだろゼフィン」
「ははは、してないさ」
そんな二人はお互いにいつものように小気味のいいやり取りをしている姿に昔の自分がリフレインする。
『マキシマム、俺達で生徒会の座を奪取する。お前も手を貸してくれ!』
『はい、先輩!!』
年を取ると感傷的になってしまうものだ。特にクーリャから箝口令が敷かれている情報、彼の訃報を受けてしまったからだろう。
アレクサンドロ。
かつて自分が背を追い続けた騎士、当時は生徒だった時代。
そして、騎士になってからも良くしてくれたかつての先輩騎士。
妻と子を亡くしてしまったあの日、彼は涙も零さずそう言った。
『俺達でこの大陸を統一し、この国を争いのない平和へと導くぞ、マキシマム』
『はい、アレクサンドロ殿』
静かに閉じていた瞳を見開いてドラゴとゼフィンを視界に留める。
「で、その為に早く力を付けたいとそういうことか」
「ってことだぜ先生、理解が早くて助かるぜ」
マキシマムはニッと笑いつつ立ち上がり、歩き出した。
「そう言う事なら、いこうか。時間がもったいない」
腐っている時間などない、自分に出来る事をただ、粛々と。
元騎士の老教師。その瞳は若い意思に引っ張られ、その曇りを晴らしていく。
三人はそのまま外へと向かいいつもの場所へと到着する。
マキシマムが師となり、ドラゴ、ゼフィンの二人にとある流派の剣を教えている。
国内では既に使い手がほぼ居なくなったとされる廃れた剣術、その名はアダマイト流。
マキシマムは昔、学園に入る前の若き頃にその剣術の手ほどきを受けた過去があった。
実戦で使う事はほとんどなかったものの、習慣として訓練は続けてきていた。
しかし、今では使い手も、なり手もほぼ存在しないと言われる廃れた剣術。その剣術がアダマイト流であるという事は実は後々になってグラノ・テラフォールと出会って指摘されたことで知った経緯がある。
筋力を鍛える訓練の合間にゼフィンがふとマキシマムに問う。
「先生、そういえばアダマイト流ってのはどうして国内にほとんど使い手がいないんですか? というより存在も初めて聞きました」
ゼフィンも昔から自分に合う剣を探していたことがあり、ある程度国内での流派分布に関しては把握しているつもりだった。
「神話にも名前は出てこんからな。発祥や起源は儂も知らん」
思い出されるのは顔も思い出せない人物。マキシマムが一人で騎士ごっこをするくらいにまだ幼い頃に出会った謎のお兄さん。
当時のマキシマムが引きずるほどに大きな箱と共に大きな剣をもらったことが印象に残っている。
「この流派、実は武器の問題があってな」
「武器? 剣に?」
「うむ、主に大きな剣でもって力で相手を制するのがアダマイト流な訳だが。それゆえに普通の武器の耐久ではな、持たんのだ」
「壊れてしまうってことですか?」
「ああ、その剣術と同様に、それを支えられる武器があまりにも少ないのだ。子供の頃に学んだときは普通のサイズの剣でも問題なかったが、成長してから使ったらほとんどの場合、剣は折れてしまった」
グッと手を握りこんで剣を握りこむ仕草と共に感触を思い出す。
「儂が使わなくなった理由も大まかにはそこだ。巨大で頑丈な剣を用いる使い手のほぼ居なくなったアダマイト流だが、そもそも剣を作れる者すらも限られる」
そう聞いてもドラゴやゼフィンにはピンときていないようだった。
「……難しいんですか?」
「単純な話だ、剣を作るのに普通のサイズでもかなりの力仕事になるのは知っているな?」
「はい」
「そもそも腕のいい一人の鍛冶師が居たと所で作れんのだ」
「なら手伝って数人で作れば」
「持ってみい」
そういって自分が持ってきていた巨大な剣を投げ渡すとドラゴとゼフィンの腕はその重みに逆らえず取りこぼす。
地面にめり込むようにその剣は音を立てて落ちた。
「それが簡単にはいかんのだ、素人が手伝うのは無理なのは今ので分かろう。鍛冶師の世界もまた、騎士とは道は違えど、苛烈な世界である」
「……これを鍛造するということですね。確かに一人ではとてもじゃないけど打てない」
「ああ、普通の武器を打つことすらも難しいのだ。冗談ではなく騎士になるよりも、難しい事だぞ」
ゼフィンが絶句する隣でドラゴは落とした剣を持ち上げようと踏ん張っている。
「ぐ、ぐぎぎ、んなろぉおお」
「鍛冶師はほとんど後天的な才能と努力ではどうにもならんと言われとる仕事。幼いころからの環境、設備、そして生まれもったセンス、それらが噛み合って尚且つひたすらに作り続けた者しかなれんと言われておってな、その人数を聞けば一目瞭然だろう」
「人数?」
「現在国内の鍛冶師は今やそのほとんどが世襲制となっておる」
「鍛冶師の工房は国内に全部合わせて20もない」
「え、そんなに少ないんですか?」
「ああ、鍛冶師の人数で言うなら50人もおらんだろうな。昔はもっと多かったようだが、そもそも目指す者も今の時代は少ないと聞いておる。これもある意味では争いが減りこの国が平和になったということなのかもしれんが……」
神妙な顔でそう語るマキシマムの言葉に重みを感じ二人は真剣な眼差しが更に鋭く凛々しくなっていく。
「後天的な行う努力ではどうにもならない。という事で更に鍛冶師を目指す人が少なくなってしまっているということですか?」
「その通りだゼフィン」
「では50人ほどの鍛冶師でこの国の騎士達の使う武器をまかなっているということですね」
先ほどの話からドラゴは地面に埋まった剣と格闘しながら聞いているが目が泳いでいる。彼にとっては少々難しい話であるのかもしれない。
「そういうことだ。そして、厄介な事にアダマイト流で使われる大きな剣というのはそんな鍛冶師の中でも腕のいい者達が3人が息を合わせて作らねば質の良い武器にならんらしい。詳しい事は儂も知らんがな」
使える武器がそもそもないのでは廃れていったのも当然と言える。武器がないのであれば通常の剣でスライズ流やテラフォール流を学んだ方が手ごろなのは確かだ。
「儂が若い頃にはまだ専門の工房があったんだがのう。見せてもらったこともあるが、その光景は今でも脳裏に焼き付いておる。まぁつまるところ、今はもう現在現存している本数しかアダマイト流の武器はないということよ」
そういって地面にめり込んだままの武器を引き上げる様子にドラゴは心底悔しそうな顔をしている。
「先生は何本持っているんですか?」
「この1本だけだ」
そう言いつつ前に掲げる。この剣もだいぶ年季が入っているのが見て取れる。
「ええっ」
「これしかねぇのか」
「ああ、だからまずは基礎的なトレーニングしか出来ないのはそのせいだ。すまんな。ある程度力が付いたら一人ずつ順番にこの剣で訓練をするつもりだ」
ドラゴが眉間に皺を寄せながら疑問を口にする。
「でもよ、昔はもっと持ってる奴はいたんだろ?」
「そうだ、だがどのくらい現存しているものがあるかまではわからん」
そこでポンと手を打ってゼフィンへと向き直り、不敵な笑みを浮かべる。
「俺達の親父も騎士だし、何かしらねぇか手紙出して聞いてみようぜゼフィン」
「ああ、そうだね。もしかしたら僕らの家の武器庫に残っているものがあるかもしれないし、あったら何とか届けてもらえれば」
「ふむ、儂もまた知り合いづてで探してはみるとしよう。さ、休憩がてらの話はここまでだ。剣はなくとも稽古は出来る。続きを始めるぞ」
「はい!」
「うす!」
二人は背筋を伸ばして大きく返事をした。
つづく
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