Eighth memory 10 (Conis)
「!?」
それは一瞬の出来事で視線に驚愕の色が浮かぶ。ヌルの狙いとは異なる想定外の光景に瞳孔が開く。
元々、上位ナンバーであったSC-06は他の上位ナンバーと比べると特質した部分がないというのがヌルの認識であった。
マザーの判断に間違いはない。そう心の底から思っている。が、以前から少しだけ疑問には思っていた。
何故、マザーがSC-06を上位ナンバリングしていたのか……。
ナンバリング自体に意味はない。マザーはいつもそう言っているが何かしらの意味はある、ヌルはそう思っていた。
そして、その理由の一端をヌルは目の前の存在から感じていた。
エルムを所持していないはずのSC-06が確かに武器を持っていた姿。
その武器の一撃によってOB-13から手を離すという判断をしなければ今頃自身の腕は体から離れていたということはすぐに理解出来た。
どさりと地面に座り込むように倒れたOB-13は苦しそうな表情をしながら、ゲホゲホと咳込んだ。
だがSC-06の変化はそれだけではなかった。
「なっ!? 何!!」
「ふフふ」
普段のSC-06であるならば、倒れこんだOB-13の下へと駆け寄っているはずだ。
が、SC-06はその腕に顕出した剣を細やかに動かしながら、ヌルへと切りかかってくる。
「なんだ、何が起きた?……だがっ!!」
ヌルは転がるようにSC-06の攻撃を避けると置いたままの剣を素早く拾いそのまま鞘を投げ捨て、一瞬の内に彼女の懐へと飛び込んで一閃を振り切った。
いつもであれば、この一閃で終わっていた。
ガキィ、ギリギリギリ
「なっ、なんだと!?」
「はハは、いいナ。楽しイ! 楽しイ!」
SC-06は、ヌルのその一撃を腕の剣で受け止め笑っていた。その様子にヌルの動揺は更に大きくなることになった。
受け止められた剣を押すことも引くことも出来ず動かすことができず、剣の剣先がカタカタと震え乱れる。
それはヌルの恐怖によるものだった。目の前のSC-06に彼は恐怖を感じていたのだ。
今まで感じたことのないSC-06への恐怖。それは、生物としての本能に近いものであった。
得体の知れないもの、未知の存在に対する恐怖。まるで化け物と対峙しているようなそのおぞましい感覚がヌルの全身を包み込んでいく。
「エスシー!!」
OB-13が、咳込み気味にSC-06へと叫ぶ。その瞬間、ヌルの目の前にあった圧倒的な恐怖の圧が一瞬で消え去った。
その瞬間、振り下ろした剣を引き戻す。
何かが『チッ』という、舌打ちのようなものをしたと思うとSC-06の腕の剣が消え、その場に倒れこんだ。
「……また、か……」
「また……とは、どういうことだ? OB-13……」
「……まぁ……言うしかねぇか……」
OB-13は、ヌルへ少し前に起こった下位ナンバーの暴走。そして、その際に自分のエルムを失ったこと。そしてSC-06の変貌についてに全てを話した。
「そういうことか……どおりで……」
「あぁ。その言い方だと何かあんたは知っているみたいだな……」
「あぁ。OB-13。俺は先ほど君に意図的に覚醒を促がすような行動をした……」
「覚醒……?」
聞きなれないその言葉に、OB-13は表情を歪ませた。
「暴走……ではない。君たちの体を、侵食から救うことが出来るかも知れない唯一の可能性……それが覚醒……」
「侵食から救う……? そんなバカな……」
「そうだな。君以外の誰かであるならばそのような感想を抱くのは理解できる。だが、君は実際に体験しているはずだ……そうCH-649に起きた変化を……な」
「あぁ。そう、だな」
そう言われてしまえば、OB-13は何も言い返すことはできなかった。
自分とCH-649のものが混ざり合ったそれは今や唯一、オービーとシーエイチの物理的な繋がりであった。
実用性は限りなく失われてしまったが、それはオービーにとって命と同じぐらいに大切なもの。
「はっきりとは言えないが、おそらくその覚醒の鍵となっているものは存在する」
「なんだ? それは?」
「……愛だ……」
「はぁ?」
ヌルの発言にオービーの心からの声が漏れた。そんなオービーにかまうこともなく、ヌルは自身が脱ぎ捨てた鎧を着こみ、投げ捨てた鞘を拾い上げると剣を納めそのまま帯刀した。
「心当たりがあるだろう? 俺は至って真面目な発言をしたつもりだ。今がこんな大変な状況でないならもう少し詳しく話してやれたのだがーー」
ヌルの言葉通り、揺り籠全体を地震のような地響きが頻繁に起きていた。
その頻度は少しずつ短くなり、周りの壁などもパラパラと少しずつ壊れているようだった。
「……OB-13SC-06を起こして付いて来い。ただ、あまり時間はないぞ」
「おいっ! 待てっ!! さっきの言葉はーー」
そう言って先を走り去ろうとしたヌルの背中へとオービーは叫ぶが、ヌルは答えずにどんどん前へと進んでその背中は小さくなっていく。
「ったく……本当、わけわかんねぇな。あの野郎は……」
「うっ……うん?」
ゆっくりと目を開けたワタシの目の前にはオービーがいました。辺りを見回しましたが先ほどまで居たはずのヌルさんの姿はどこにもありませんでした。
「気分はどうだ? エスシー? 起きれるか?」
「オー……ビー……? 大丈夫ですか? それにナンバーヌルはーー」
「言いたいことがあるのはわかるが、答えてやれる時間はねぇ。マザーのところへ急ぐぞ」
ワタシのなぜなぜは解消はされませんでしたが、それよりもオービーの必死の表情の方が今は大事であると思いました。
気を失っている間に何が起きたのかはわかりません。
ただぼんやりと何かの声がまた聞こえていた。それだけは分かりました。
けれど今は、オービーが無事でいた。その事実にワタシは大きな安堵をするのでした。
つづく
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