First memory(Hinata)09
ヤチヨちゃんが選人(せんじん)となり、あんなに仲が良かった二人が喧嘩してしまった。だから、私は、あの二人のためにもヤチヨちゃんの代わりになる決意をした。まず、手始めに形からと思い。二人の呼び方を同じにした。
でも、やっぱり私は、ヤチヨちゃんにはなれるはずがなかった。その日から私達四人の関係は変わってしまった。
あの日から、一週間が経っていた。サロスは勿論、フィリアも未だに学院に顔を出していなかった。
三人が姿を見せなくなってから8日目の朝。フィリアは担任の先生と共に姿を見せた。
そこで、彼がこの夏休み明けには自警団に入団するということ。この学院を去るということ。そんな悲しいお知らせを私に運んできた。私はすごく驚いた。でも、当のフィリアはすごく落ち着いた様子に見えた。
昼休み。夏休みを告げる1学期の修了式を明日に控え、昨日までは夏休みの予定で盛り上がっていた教室内は一転し、フィリアの周りには男女問わず人だかりができていた。数名の女子たちが輪から外れ、彼と仲が良かった私の周りにも集まってきた。私自身も初耳だと答えると、再びフィリアの方へと戻っていった。
放課後。未だに人だかりができているフィリアに声をかけることはできそうにないなと悟った私は一人、静かに教室を後にした。
何故かはわからないけれど、ヤチヨちゃん達と過ごすようになってからは足を運ばなくなっていた資料室へと私は歩いていた。資料室の扉を開けると、そこは相変わらず人気のない静かな空間。その場所は、あの日と何も変わってはいなかった。ただ、そこには誰もいない。私は、ヤチヨちゃんが座っていた椅子を優しく撫でた。今でも聞こえてくる、元気な声。くるくると子供のように変わる表情。
時に見せる誰よりも大人な一面。この場所には私の知ってるヤチヨちゃんとの初めの一ページが刻みこまれている。
『ヒナタちゃん!!!』
声が聞こえた気がして、思わず、後ろを振り向く。でも、そこには誰もいない。幻聴だった……思わず泣きそうになる。私の人生で一番楽しかった時間には必ずヤチヨちゃんがいた。一人でいた私を救ってくれたのは私よりも小さくてかわいらしい天使みたいな子だった。
「ヤチヨちゃん……」
思わず、口から言葉が零れた。もうだめだ、泣いてしまう。こんな姿、ヤチヨちゃんが見たらどう思うだろうか?きっと悲しんでる私以上に泣いてしまうだろう。こんな私じゃダメだ。ヤチヨちゃんが戻ってきたときに彼女を笑って迎えてあげるって決めたはずなのに……
涙が止まらない
ふと、私の後ろに暖かい温もりを感じた。ヤチヨちゃんはいないはずなのにその温もりはとても暖かくて、思わず振り返りそうになる。
「こっちをみないでくれ……」
振り返ろうとした時、聞き覚えのある声に驚き、そのまま動きを止める。
「フィリア……なの?」
「あぁ」
彼の声は、小さく震えていた。
「どうして、ここにいるってわかったの?」
「わからない、ただ、なんとなくここにいる気がしたんだ。あの日、僕たちが初めて出会ったこの場所に………」
そうだった。この場所でヤチヨちゃんに声をかけられ、サロスやフィリアに出会ったんだ。言うなれば、ここから始まったんだ私達は……。そうか……私は、ここに来れば戻れると思ったんだ。あの頃に………我ながらなんて馬鹿馬鹿しい考えなんだろう………。
でも、今の私にはこれが精一杯だった。だって、こういう時に一緒に悩んで答えをくれたヤチヨちゃんはもういないから……。
――続く――
作:小泉太良
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