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【感想】予想どおりに不合理

予想どおりに不合理(ダン・アリエリー著) を読んでみての感想

人間は常に合理的な判断を下す――

人は自らが理性的であり、合理的であることを信じているだろうし、自らの意識は自分以外の何かに翻弄されているなどということは、思いもよらないだろう。(というより、”思いたくない”の方が適切かもしれない)

それが大いなる勘違いであることを思い知ったのが、本書である。実際のところ、人間は自分以外のものに翻弄され、無意識的に非合理的な行動をとってしまうのである。

この本で語られるのは「行動経済学」という。経済学と心理学の両面から、人間の判断と行動を説明する学問である。

私は経済学にも心理学にも明るくないため、冒頭の行動経済学の説明に身構えたものだが、読んでみればなんということはない。知識ゼロの私でも、とても引き込まれる内容であった。

その読みやすさの理由は、本書の構成にある。本の中では、まず私たち人間の消費行動や日常生活の至る所に行動経済学は溢れていることが、筆者の経験をベースとして語られる。そうした日常生活の一部を切り取って、その時に下される人間の判断や行動が人間のどのような傾向によるものか、実験で得られたデータを論拠に説明されている。


この本から得られるのは、日常への備えと充足である。自らが無意識的に選びがちな行動を自覚して、非合理的な判断を下してしまう状況に備えること。また自分を誘導する認識外の情報を、反対にうまく利用してより良い日常生活を送ることだ。

特に印象に残った内容の一例が以下である。


【無料の力】

人は”無料”という言葉に物凄く弱い。半額割引の高級チョコA(15セント)と安いチョコB(1セント)があるとして、この両者が1セント引きになったときどのような購買行動の変化が起こるか。つまり、14セントの高級チョコAと無料のチョコBでは、人はどちらを選ぶのかという実験が例示される。

高級チョコAは定価から見れば16セントもお得であり、チョコBと比較すれば断然お得なのである。金額だけの得を考えるなら、高級チョコAを選ぶことが合理的である。

しかし、この実験の結果ではチョコBを選ぶ人の割合は、過半数を超える。1セント値引き前には、高級チョコAが人気だったのに、無料になったとたんに、チョコBが大人気となるのだ。


【人の知覚の曖昧さ(情報に操られる人間)】

一つは偽薬効果(プラセボ効果)。新薬の効能を判断する際に、この偽薬効果によるものではないか比較治験がなされ、その結果をもって有効であるかが判明する。

本書の中では、この偽薬効果の一例が取り上げられており、どれほど偽薬効果が人体に及ぼす影響が大きいかを思い知ることになった。過去、適切な処置として施されてきた治療法が、偽薬効果により患者の容体が好転したものであって、実は何の効果もない治療法であったことが説明される。

人は良いと思えば良くなるのである。病は気から、とはよく言ったものだと思う。


一つはプライミング効果。これは、何気なく見たり聞いたりして印象付けられてしまった内容が、そのまま当人の行動に、意識せず反映されてしまう効果である。例えば、『老人』にかかわる言葉を目にした実験の被験者の歩行速度が、無意識のうちに遅くなる、といった具合にだ。

自分の行動は自分が意識している通りに行われている、と考えがちであるが、実際には人間が無意識にとる行動は日常の至る所にある。このプライミング効果の話を読んで、環境が性格を形成し行動に至ることを肌身に感じることとなった。


総括

上記はほんの一例ではあったが、本書では、人間の判断と行動を読み解こうとする数多くの試みが示されている。

本書を通じて、己の判断と行動がどのように行われがちであるか、その傾向を学ぶことにより、無意識の非合理的な行動をある程度、意識的に変えられると考える。

そしてそれは同時に、他人の判断と行動をある程度コントロールすることも可能にするもの、であるように思う。行動経済学とは完全無欠のツールではないが、仕事でも私生活でも、この人間行動の特性を認識し活かしていくことで、よりよい生活の形成につながるのではないだろうか。


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