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地域に豊かさをもたらす "ゆらぎ" とは——共創プロジェクト「豊かな町のはじめかた」(1)

こんにちは、KOEL 田中友美子です。
地域創生の事例を目にした時、「その結果どういうふうに地域が活性するのだろう?」と違和感を感じることがあります。「商業施設を作って県外の人の消費活動を呼び寄せたい」「移住者を呼んで人口を増やしたい」「関係人口を増やして資金の流れを作りたい」など、外の人々に希望を託すことに目が向きすぎていることが常々気になっていました。

移住者を呼び込むにも、地域と関係を持ちたいと思われるにも、外に解決を求める前にまずは地域が魅力的に見えるべきなのではないのではないか。地域の人々が「楽しそう」「幸せそう」であることや、ちょっとした「羨ましさ」を感じる暮らしが、どんな制度よりも外の人を惹きつけるのではないだろうか、と思えます。

そして現在、日本の人口が減少の一途をたどっていることを考えれば、「外の人」も同時に減少していくことは明らかであり、中の人で持続していけるような仕組みづくりも必要そうです。地域内で助け合う仕組みや楽しむ仕組みがあったり、生活に安全性を感じられることが、一番大切なことのように思います。

そこから改めて「町の豊かさ」って何だろう?という疑問が湧きました。そこで、地域のイノベーションについて実績がある株式会社 リ・パブリックさんと一緒に、2021年から毎年行っている、KOELのビジョンデザインの取り組みとして「町の豊かさ」を考えるリサーチを企画しました。
今回からこのKOEL公式noteで、リサーチの経緯や発見、そのプロセス、実体験を5回にわたって連載します。初回となる今回はフィールドワークで発見した豊かな町の特徴や、豊かさが生まれる仕組みについてお話ししたいと思います。

リサーチのテーマは「町の豊かさ」

「町の豊かさ」って何だろう?という疑問を解決するため今回のリサーチは
「生きるキャピタル」
〜人やまちの豊かさとは何か 地域で共有される知識や資源から読み解き、構想する〜

というテーマを立てました。移住者が増え新しい外の空気と地域の土着性が寄り合い始めている長崎県雲仙市小浜町と、「土着ベンチャー(ドチャベン)」と呼ばれる地域に根ざしたベンチャー起業家を支援している秋田県南秋田郡五城目町の2箇所でフィールドワークを実施し、理想の暮らしを実践されている12人の方々のお話を伺いました。(フィールドワークのお話は、別の記事でご紹介します!)

長崎県雲仙市 小浜町(面積:50.84 km2 人口:8,948人 高齢化率:約35%)
秋田県南秋田郡 五城目町(面積:214.9 km2 人口:9,463人 高齢化率:約42%)

実際に地域の方々のお話を聞いてみると、高齢化と縮小の中で新しい「豊かさ」を醸成している地域には、8つの特徴があるように見えました。

  1.  移住者によって起こった“ゆらぎ”がある

  2.  地域の外に目を向けて、内と外をつなぐ人がいる

  3.  外からやってきた人を受け入れる

  4.  生活が重なって、多様な出会いが生まれる

  5.  お金の資本から一線引いた、別の経済圏が存在する

  6.  ちょっとひと手間かけて、自分の思う「ちょっといい暮らし」を作る

  7. 「べき」よりも、「楽しそう・あった方が良さそう」を選ぶマインドがある

  8. 「やってみなよ、やろうよ」という自然な後押しがある

中でも、一番興味深いなと思ったのは、移住者によって起こる“ゆらぎ”です。

移住者が地域にもたらす “ゆらぎ”

私たちがお話を伺った移住者の方は、もともと自分が住んでいた/暮らしていた土地の価値観を移住先に持ち込むのではなく、移住先の地域社会に新しい暮らしの楽しみ方を見つけられている印象がありました。
逆に地域出身の方々は、移住者が楽しんでいるところを見て、改めて地元の魅力に気付かされたり、移住者がやり始めるコトがやがて刺激となって、地域住民に影響を与えていく。今回フィールドワークを実施した小浜町・五城目町の2拠点で共通した流れが見えました。

移住者が地域住民に影響を与えて次の動きを生む働きかけ= “ゆらぎ” を作り出し、波紋のように地域全体に伝播し連鎖して、地域の多様な活動や挑戦につながっていきます。それが「新しいことを始めてもいいんだ!」という町の空気に変わって、最終的にその活力が地域での暮らしの楽しさにつながっているように見えました。地域に根付いた住民だけでは、なかなか起こらない変化です。

また、“ゆらぎ” を広げるには、地域と外の世界とをつなぐ人たちの存在が重要であることもわかりました。移住者やUターンの方々が、既存の外との接点を活かして発信したり、外の情報を翻訳して持ち込んだりすることで、トレンドや都会の感度を保ちながらも、内側からは見えにくい地域の俯瞰的な良さにも気付くという相互作用も多く見られました。

「豊かな暮らし」が起こっている地域では、そうした移住者からの“ゆらぎ”が地域の暮らしに浸透していくことで、人が広く繋がり、みんなのやりたいことが活性化しているように見えました。

「地域の豊かさ」を生み出す仕掛け

こうした「地域の豊かさ」を生み出す素地となる、東京在住の私たちの日常にはない「豊かさ資源」をフィールドワークを通じて2つ見つけました。

1つめは、自然資源です。湧き上がる温泉、簡単にできる釣り、収穫量の多い家庭菜園、お裾分け文化、土地が余っているが故の安い家賃など、お金を追い求めなくても、自然資源が与えてくれる、生活のセーフティーネット。

2つめは、日常的に関わりを持ち、大きな家族のような繋がりを持っているようにも見える、強いコミュニティー。地域の子供の面倒をみんなで見る、収穫物を分ける、それぞれの得意分野を活かし協力するなど、カジュアルに支え合う関係性を持ち、自分たちの手で自分たちの場所を良くしていけることに実感を持てる環境。その中で、何かをやりたい時に仲間を探し出せる自信が、またそうした人を支える意志があることが大きな要素であると思いました。

こうした「豊かさ資源」は、特定の場所にしかないという種類のものでもなく、日本全国の多くの場所でも見つけられるもののはずです。地域にずっとそこにある「豊かさ」に気が付くためには、そこに向き合うマインドセット、雰囲気や環境が必要なのではないでしょうか。つまりは「地域の豊かさ」は「豊かさを感じやすくなる仕掛け」があれば、得ることができるのではないかと考えました。

フィールドワークで発見した仕掛けは、人々の手で意図的に仕掛けられたものもあれば、自然に/偶然的に形成されたものもあり、その成り立ちは様々ですが、他の地域に作ってみることはできそうなものも多く、それを、仕掛けていくことによって、他の地域で「豊かな町」を始めることができる可能性を秘めていると思いました。

そんな「豊かな町のはじめかた」には5個の仕掛けがあるのではないかと考えました。

仕掛け1: 会話が生まれる場所をつくる
仕掛け2: “企み”の場所をつくる
仕掛け3: 地域のみんなが使える共有物をつくる
仕掛け4: 歴史から引き継ぐものをつくる
仕掛け5: 都会人の憧れをつくる

仕掛けを活用すれば、他の地域を「豊か」に近づけることができるかもしれない。そんな想いを馳せつつ、次のエピソードで仕掛けの内容について、じっくり解説できればと思います!


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