宇宙兄弟プ譜11

『宇宙兄弟』の「ヒビト・ダミアン救出プロジェクト」をプ譜化する

先日、プロジェクトの状況・構造を可視化するプロジェクト譜(略して「プ譜」)について、このようなツイートをしてくださった方がいました。

実際、マンガやアニメ、小説などの作品に出てくるエピソードをプ譜化するのは楽しく、プロジェクトの勉強にもなるので、超オススメです。

ちょうど昨年(2018年)の7月3日に、当時出版されていた『宇宙兄弟 「完璧なリーダー」は、もういらない。 』を上梓されていた長尾彰さんを迎え、宇宙兄弟に出てくる様々なエピソードをプロジェクトと捉え、それをプ譜化し、リーダーシップについて学ぶという勉強会を開催しました。

『宇宙兄弟』を題材に、チームをテーマにした新著も2019年7月30日に出版されます。

そこで今日は、サンプルとして、株式会社コルクで『宇宙兄弟』の編集をしておられた小室元気さんに許可を得てつくった、コミックス第8巻から9巻に登場するヒビト・ダミアン救出プロジェクトのプ譜を紹介したいと思います。

月面で探索活動中のヒビトとダミアンが峡谷に滑落し、様々な想定外に見舞われながら、多くの人々のサポートと運に助けられる、というエピソード。

当時の状況をプ譜で可視化すると下図のようになります。

峡谷に滑落したダミアンの体温調節装置が壊れ、急速に体温を奪われることで、凍死の危険が迫ります。この「ダミアンを凍死の危機から救い出す」ことがヒビトのプロジェクトの目標となり、そのプロジェクトが成功したといえる勝利条件は、「フレディたちが助けに来てくれる月面のポイントまで、ダミアンを運び出す」となります。

そのころヒューストンではヒビトたちと通信ができないため、情報がまったく不足している状況。最初にダミアンが打った照明弾を頼りに、大よそのポイントを絞り込み、ダミアンとヒビトの残酸素量から「10時間以内に救出する」という勝利条件を立てますが、彼らはダミアンの体温調節機能が壊れていることを知りません。10時間ではとても間に合わない。

一方、日本のJAXAでは、衛星かぐやⅡが撮影した月面の地形データから、峡谷の3Dマップをヒューストンに送るなど、ヒビト救出のための手助けをするのですが、マップデータを見たムッタが星加さんに、「ヒビトはたぶんじっとしていないからです」と、バディたちのビートルの行先変更を依頼するように言います。

ヒビトの状況に目を移すと、ヒビトはダミアンをギブソンがいる場所まで引き上げる途中、自分が滑落した衝撃で、酸素のメインパックが破裂。このアクシデントによって、当初4~5時間以内にダミアンを救出ポイントまで引き上げるという勝利条件が、残り80分にまで激減してしまいます。

また、断熱シートの効果もむなしく、寒さで朦朧とするダミアン。ヒビトはダミアンの体を温める他の手立てを考えますが、身の周りに使えそうなものがありません。ひと試案して、ヒビトは照明弾を石にあてることで石を熱し、それをダミアンの断熱シートにくるみます。しかし、この一手は、月面まで出た時に、救助の正しい位置を知らせるために残しておいたもので、これを使ってしまっては救助される可能性が著しく低くなりますが、ヒビトはダミアンの命を救うことを最優先に照明弾を使用します。

話はNASAとJAXAに戻ります。ムッタの進言を聞いた星加さんは、NASAに提案をしますが、責任者であるクラウドはその提案を拒否します。
これはクラウドがヒビトをムッタほどに理解していないことと、ムッタを信用していないことの現れでもあります。プロジェクトにおいてチームメンバーの理解・関係性といったものの重要性を垣間見るシーンです。

その後、ヒビトがダミアンを月面まで連れ出し、通信機能は回復しないものの、宇宙服から出たアラート信号によって、NASAはムッタたちの正確な位置を知ります。

しかしそれは予想していた救出ポイントから20km離れた、ムッタが変更を希望したポイントでした。さらに、NASAはここで初めてヒビトの酸素のメインタンクが破裂したこと。その残量が残り10分しかもたないことを知ります。

絶望的な状況で、最後このプロジェクトがどうなったかは、ぜひ宇宙兄弟のコミックスをご覧ください。

勉強会では、参加者のみなさんが宇宙兄弟のエピソードをそれぞれにプ譜化し、そこからプロジェクトを進める上での教訓を発見するという内容でした。対象は宇宙兄弟でなくても、みなさんの好きな作品・胸が熱くなる作品など、どんなものでもよいので、いつもの本の読み方・味わい方とは異なる、読書感想文ならぬ、読書感想譜方法を、よかったら試してみてください。



未知なる目標に向かっていくプロジェクトを、興して、進めて、振り返っていく力を、子どもと大人に養うべく活動しています。プ譜を使ったワークショップ情報やプロジェクトについてのよもやま話を書いていきます。よろしくお願いします。