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「かーして」「いーいよ」は、子どもの将来に悪影響?

Kodomo Edu International School 代表の上田佳美です。
Kodomo Eduは、レッジョ・アプローチにインスパイアを受けた中目黒拠点のインターナショナル・スクールです。

お子さんが幼稚園に通っていた時、または自身が幼稚園に通っていた幼少期の頃、同じおもちゃを使いたい二人の子どものやりとりで、

「かーしーて(貸して)」

「いーいーよ(いいよ)」

と言っておもちゃを渡す場面を見たことはありますか?

日本の幼稚園に行った事のある方なら、恐らく大多数が聞いた・見たことがあると思います。

これは、きっと子ども達が、先生またはお母さんから「おもちゃを使いたい子がいたら、ちゃんと貸してあげましょうね」と教えられ、その約束をちゃんと守っている「良い子」なのかもしれません。

誤った自制心は、子どもの将来に悪影響を及ぼす

でも果たして、「かーしーて」と言われたら毎回必ず譲るべきなのでしょうか?

実は、私の価値観を大きく覆した出来事がありました。
ディズニー米国本社の社内幼稚園の立ち上げに関わったレッジョ教師を東京に招聘して5日間のサマースクールを行った時のことです。

そのキャンプに参加していた日本人の女の子(確か年中さん。仮にAちゃんとしましょう。)は、とてもおとなしい女の子。先生のお話もよく聞いて、友達とけんかする事もない、いわゆる”手のかからない子”。なので私はその子にあまり意識を向けていませんでした。

しかしそのレッジョ教師は、キャンプ3日目に、私にこう言いました。

「Aちゃんはいつも、他の生徒におもちゃを譲っている。」

それを聞いて私は、「Aちゃんは人に物を譲れる良い子なんですね。」と言いました。

するとレッジョ教師は、

「でも、あんなに毎回人に譲っていたら、彼女は自分のやりたい事をいつも諦めてしまう。さっきだって、自分にようやく順番の回ってきたおもちゃを、友達に「かして」と言われたらすぐ渡していた。これを続けていくと、彼女は、人生で自分のやりたいことを全て諦めてしまうわ。

全く考えもしない視点だったので、とても衝撃的でした。

日本では、「自分の気持ちを抑えて、人に譲る」という行為は、ある意味美学であり、徳を積む行為とよく言われます。「自分を犠牲にして人の為に何かをすること」が良い行いだと、こどもの頃から教えることが多いかと思います。

例えば電車やバスで高齢者などに席を譲ることは重要ですが、お友達に常におもちゃを譲る必要はあるのでしょうか?

自分のやりたい事を諦めるのではなく、対話と調整ができる子に

それでは、「かーしーて」という子に、「やーだーよ」と言えば良いのでしょか?

そういう事ではありません。

「かーしーて」と言われたときに、まだ自分が使い始めたばかりだったり、まさに楽しんでいる真っ最中であれば、

「今使っているから、ちょっと待ってて。終わったら貸してあげるね。」

と、状況をちゃんと説明してあげればよいのです。

驚かれるかもしれませんが、私の園では、比較的すぐに譲ってしまう子が、声の大きいお友達から「かして!」と言われて困っていると、

「まだ使っていて貸せないなら、ちゃんと”まだ貸せない”と言っていいのよ。」

と伝えます。自分の気持ちを抑えて”なかった事”にするのではなく、他者にしっかり言葉で伝えることは非常に重要だからです。そうでないと、「大人になっても、自分のやりたい事を諦める人生になってしまう」から。

その後、「まだ使ってるの」で終わるのではなく、「終わったらかすね。」ともしっかり伝えます。

「かして」

「今使ってたるから、終わったらかすね。」

「あと何分で貸してくれる?」

「じゃあ、5分。時計が1時15分になったらね。」

こうやって子供達に”対話”をさせることで、「時間の感覚」「時計を読むこと」も必要になるので、子どもも生活に必要な知識として自発的にに学んでいきます。

子どもと「対話」を重なることは、色々な意味で重要なんです。

大人は、使いたかったらすぐにかさなくていい事を教えるとともに、時間を決めたら「今何時になったかな?」とリマインドしてあげるなど、サポート役ができるといいですよね。

最後に、サマーキャンプに来たアメリカのレッジョ教師は、あまりにも日本の子ども達みんなが「かーしーて(貸して)」「いーいーよ(いいよ)」と大合唱しているので、「みんな同じ幼稚園に通っているの??」と驚いていました。笑(キャンプは色んな方が参加しているので、幼稚園も居住地もバラバラです。)

日本の幼児教育に根付いている「かーしーて」「いーいーよ」の文化。

見直してみても良いですね。

上田 佳美

#レッジョエミリア #インターナショナルスクール #幼児教育 #多様性 #教育 #育児 #子育て

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