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【読書記録】だまされ屋さん(星野智幸)

今回もApple Booksのオススメから。

「リアル書店は予期せぬ出会いがあるから良い」などと言われることがあるけれど、オンライン書店も話題図書はしっかりオススメしてくれる。むしろ、この著書誰だっけ?というときに履歴に飛んで、「忘れていたあの作品」を読みなおせてしまうのは便利だと感じる(もちろん、書店ではカバー裏をめくる楽しみもある)。

著者の「星野智幸」という名前を見て絶対読んだことある気がするけど誰だっけと作品リストを開くと、「呪文」と「夜は終わらない」の二作を読んだことがあると気がつく。とにかく不穏な作風だったような。そういう“ささくれた“作品を続けて読むのはしんどいが、爽やか系を何作か読んだあとにはつい手を出してしまう。

今回もタイトルからして不穏。まずサンプルを読んでみると、見るからに怪しい男が老婦人宅を訪ねてくる。このあと何が起きるのか。気になってそのまま購入してしまった次第。


【以下ネタバレを含みます】


タイトルからは何か詐欺めいた事件や、騙している方が実は騙されていたなんていう筋書きをイメージした。読み終えてみればその予想はまったく外れていて、もっと複雑な、家族のあり方の物語だった。

子どもたちと切れてしまった秋代、妻と深刻に揉めて途方に暮れる優志、両親に期待しなくなった巴、夫に絶望する月美、家族と前向きに関わることを諦めてしまった春好。どれもキツい。

それぞれの立場を想像しながら、自分としてはつい父親として、あるいは夫としての立場から考えてしまう。親と子の距離感ってどうあるべきなのだろう。

巴が秋代とのやりとりを「失望した」と語ったり、自宅を「凪いだ牢獄のような家」と例えて家を出ようとするくだりは親としては目をつむりたくなる。

かたや秋代は「結局は春好を野放しにしただけで、本当には見守ってなどいなかったのだ」と後悔する。ではどこで、何を間違えたのか。正しく見守るってどういうことなのか。育児真っ只中の身として考えさせられてしまう。答えもよくわからずにいる(きっと本には書いていないだろう。秋代は最後まで地雷を踏んで、そのままだったのだし)。

タイトルの「だまされ屋さん」については、終盤の夕海のやり取りが印象に残る。

一番悪いのは、だまされていることを受け入れない、というか。そう、だまされてるのに、だまされてないって思い込むことが、厄介なんです。
(電子版p531)

だまされていることに気づくというのは、多様な価値観を自覚して、少し引いてみるということか。自分が誰かをだましていることを自覚する必要もあるのかもしれない。

この人の小説はやっぱりモヤモヤして引っかかる。引っかかるけれど新鮮。少ししたらまた別の作品も読んでみたい。

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