著者からの『アンサー・メッセージ』その2
続いては
NHK「きょうの健康」ひきこもり総力特集をご覧になった
読者「みんなではなく私」さんの
メッセージに、著者の精神科医、加藤隆弘先生より
アンサー・メッセージが届きました
「みんなではなく私」さんからのメッセージはこちら
コメントありがとうございます。
ひきこもり支援が遅れる背景として、「恥」の影響はとても大きいですね。「恥」は自らが支援を求める行動を抑圧してしまうのです。つまり、「恥」の世界の住人は、「支援を受ける」こと自体を「恥ずべきこと」と無意識的に感じさせられてしまうのです。【みんなではなく私】さんのコメントから、こうした心性はひきこもりに限らず孤独死に至ってしまう方々の心性とも関連しているのであろうと思いました。
私は、拙著のエピローグで、「恥」の世界で苦悩する架空の症例O君を描きました。「恥」という感覚は、当事者だけでなく家族も強く持っていることが多いのです。O君の母親のように、同居するひきこもり状態にある息子や娘になんと声をかけてよいかわからずに思い悩み、世間体や近所の目を気にしてどこにも相談できず、「もしかして、うちの子はうつ病?いやいや、まさかうちの子がそんなはずないわ」と自問自答し「見て見ぬふり」をして、1年、5年、10年と歳月だけが経ってしまったというひきこもりケースが稀ではありません。こうした事態を打開するために私たちは地域のひきこもり支援機関と連携し、家族(特に親)向けのひきこもり教育支援プログラムを開発中です。
このプログラムにおいて、肝になるのが、オーストラリアで開発されたメンタルヘルス・ファーストエイド(Mental Health First Aid:MHFA)です。MHFAは、身近な人(家族、同僚、友人など)の心の不調に際して、一般住民自らが初期支援(応急処置)を提供し専門家へつなぐことができる知識とスキルを身に付けるための教育支援プログラムです。12時間のプログラムの中には、講義ばかりでなくロールプレイなど実践的な演習が含まれており、具体的なスキルを習得できます。
オーストラリアではMHFAが一般市民に広く普及しており、うつ病予防や自殺予防といった国民全体の精神健康に貢献しています。職場でのうつ病予防や学校教育にも積極的に取り入れられており、2019年に訪問したシドニー大学では薬学部の学生全員が12時間のMHFAの受講していました。
私たちは、このMHFAを2008年に日本に導入しました。MHFAによって、ひきこもり状態にある息子や娘のこころの状態を家族(特に親)が把握できるようになり、支援の手を無理なく差し伸べることができる技術を伝達したいと願い、そのプログラム開発に取り組んでいます。
「きょうの健康」ひきこもり総力特集「第3回・家族ができること」では、MHFAの5原則(り・は・あ・さ・る)の中で『決めつけず、批判せずに話を聞きましょう(は)』と『安心につながる支援と情報を提供しましょう(あ)』を紹介しました。MHFAの詳細は、拙著第13章151-155ページをご覧ください。日本でも広くMHFAが普及すれば、心の病に対する恥意識・偏見・スティグマが軽減し、病的なひきこもり状態に陥る人の数が大幅に軽減するのではないかと期待しています。
私たち人間にとって「恥」を感じる心を避けて生きていくことは
難しいのだと感じます
時に人を成長へと導く大事な持ちものでもあります
「恥じる心」を持ちながらも
支え合える環境が「恥」の受け止め方を変えるかもしれません
そんなことを思う年の瀬です。。。
良いお年をお迎えください
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