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私を形作る、名刺代わりの本10冊。

人生に影響を与えた本を聞けば、その人の本質がわかる、
と常々思っている私である。
先日、「名刺代わりの小説10冊」という、とても興味深いハッシュタグと出会ったので、早速やってみた。
小説に限らず、どうしても本全般で選びたかったので、以下のような選定に。
ただTwitterで紹介したものの、文字数の関係で10冊の名前のみの紹介になってしまったのがどうにも気になってしまう・・・。
そこで、このnoteで名刺代わりの小説10冊について、簡潔ながらもより深く語ってみようと思う。
それこそ、私とはどういう人間か、良く言い得ている自己紹介と思えるからだ。

【私の人生の本トップ3】

🌟「夜と霧」 著:ヴィクトール・フランクル

20世紀最高の名著との呼び声も高い、ヴィクトール・フランクル著「夜と霧」。
予備校時代に出会い、これは一生ものの本との出会いだと思った。
この「夜と霧」は、ユダヤ系精神科医のフランクル自身が、ナチスの強制収容所で経験したことを綴ったものである。名前を奪われ、単なる労働力として酷使させられ、食事は粗末な物のみ、不衛生な環境での生活は常に死と隣り合わせ・・・。
そのような人間としての尊厳を否定されるような限界状況の中で、それでも、生きることの意味を見出す。まるで、闇に光を見出すが如く。

たったひとつ、あたえられた環境でいかにふるまうかという、人間としての最後の自由だけは奪えない」(「夜と霧」本文より)

強制収容所という壮絶な経験の最中でもなお、人は生きる意味を見出せるのだ。
それならば、今を生きる私たちが持てないはずがない。

「夜と霧」の中のこの言葉は、自分の今いる場所で懸命に生きることの勇気を静かに、でも力強く与えてくれる。私が最も大切にしている言葉の一つだ。

🌟「生きがいについて」 著:神谷美恵子

こちらは日本の精神科医・神谷美恵子の著作。ハンセン病療養施設で患者に寄り添った経験から生まれた、「生きがいとは何か」についての書。
フランクルの「夜と霧」にも通ずるものがあるが、人は人生に生きる意味や、生きがいを渇望する生き物だと思う。
個々人にとって生きがいとは何か、いざ言語化するとなると難しいものだが、それが一度失われた時にはかなり大きなダメージを人は負う。それこそ、「もう生きていくなんて無理!」と思ってしまうほどに。
でも、そこから自分で新たな生きがいを得られたら、それはまた一歩、人間として大きく成長できたということなんじゃないだろうか。それこそ、「成長痛」のように。

ひとは自己の精神の最も大きなよりどころとなるものを、自ら苦悩の中から作り出し得るのである。」(「生きがいについて」本文より)

後から振り返って、「あの経験があったから今の自分がある」と思える人生を日々歩んでいきたいと思っている。

🌟「嫌われる勇気」 著:岸見一郎、古賀史健

私の価値観形成に非常に重要な役割を果たした1冊・「嫌われる勇気」。
自己啓発の源流とも言われるアドラー心理学について、人生に悩む青年と哲人との対話形式でわかりやすく書かれている。
世間からのブームから少し落ち着いた時に初めて読んで、「ああ、そうだったのか」と衝撃を受けた。私が文章を書くときに好んで用いる、「いま、ここ」という言葉は、この「嫌われる勇気」に負っている。

わたしが『いま、ここ』を真剣に生きていたとしたなら、その刹那はつねに完結したものである」(「嫌われる勇気」本文より)

過去に意味を与えるということ、
人生に意味を与えるということ、
「いま、ここ」だけを真剣に生き、充実させるということ…。
「他者から嫌われることを厭わない」というイメージが真っ先に浮かびがちな本書だが、この本もやはり「生きる意味とは」が根底のテーマなのだと思う。


私の人生の本トップ3「夜と霧」「生きがいについて」「嫌われる勇気」が、どれも「生きるとはどういうことか」について語っているというのは、決して偶然ではないのだろう。
以上3冊による私の人生観形成への影響は計り知れない。


【医師として生きるとは、について深く考える】

○「平静の心」 著:ウィリアム・オスラー

ウィリアム・オスラーは近代医学の父であり、医学生を教室から解放し、ベッドサイドでの教育を導入した医学教育界の偉人である。
その著書「平静の心」は、アメリカの医師や医学生の必読の書となっているほど、医師として重要な資質を後世まで伝えている。
ただこの1冊は非常に分厚く、そして文章もやや難解である・・・。

この本を読んで一番に思ったのは、医師として良く生きるということは、人として良く生きることと同じものだということだ。
それは、医師は最も人の人生を左右する仕事だからではないだろうか。

現在を、今日を誠実に、真剣に、先を考えずに生きることが、未来への唯一の保障となる。」(「平静の心」本文より)
この言葉は、医師かどうかに関わらず、人生訓として心に刻まれている。

○「医師の感情」 著:ダニエル・オーフリ

こちらは米国で好評を博した、医師の内面とその影響を探るルポタージュ。米国最古の公立病院に勤務する内科医が、自身の体験を赤裸々に綴ったものである。
一見すると、前述の「平静の心」に対するアンチテーゼ。しかしそんなに安直な物ではない。

医師になって間もない自分にも、もちろん生じる命への責任。
恐れ、不安、そしていつか出会うであろう悲しみ。
医師になった今だからこそ、「医師の感情」を読んでそのリアルが迫ってくる。
それこそ、恐ろしいまでに。

この本を読んで思ったのは、
恐れや不安、悲しみとともに生きていく中で、心のバランスをとり次へと進むレジリエンスが平静の心ではないか」ということだ。
それらの感情を拒絶すれば共感力を失い、呑み込まれれば自分を壊す…。
バランスを取る力こそ求められ、それは次なる患者さんのためへの揺るぎない原動力になるのではないだろうか。

上記2冊は、一緒に読んでこそ意味があると思っている。


【人生観や医師としての価値観を形成した小説5冊】

さて、ここからようやく純粋な小説の紹介となる。

○「解夏(げげ)」 著:さだまさし

私が高校生の初めの頃に出会った、歌手・さだまさし原作の小説。
失明する病にかかった青年が、故郷である長崎に戻り、失明までの日々をどう生きていくかに焦点を当てた作品。
「失明した瞬間に、失明するという恐怖からは解放される」。
「解夏(げげ)」とは、仏教用語で「行が終わる時」のことである・・・。

この作品で、「病とともに生きていくとはどういうことか」ということを初めて考えさせられた。
「私が医師になるなら、その人生に目を向ける医師でありたい」
思えば、これが私の目指す医師像の原点だったかもしれない。

○「ガンに生かされて」 著:飯島夏樹

こちらも高校生の時に出会った1冊。末期癌を宣告された世界的プロウィンドサーファーの命の記録である。
たとえ病を持っていても、あるいは、持っていなくても、こんなふうに心を充実させて最期まで過ごせたらいいだろうなと、そう思えた。
至って健康と信じている私自身が、この末期癌の患者さんから「生きるとはどういうことか」を学んだ。私にとって、作者にような患者さんはまさしく「人生の先生」だった。
そしてこの本こそが、私が終末期ケアやホスピスに興味を持つようになった原点である。

○「赤ひげ診療譚」 著:山本周五郎

赤ひげ先生と言えば、良医を示す文句と名高い。しかし、最近では知らない人も多く、同世代以下での認知率がかなり低くて衝撃を受けた・・・。
赤ひげ先生の言動は一見乱暴であるし、その点で賛否両論があるかもしれない。
それでも、病の背景には社会的な要因(貧困、認知不足など)があるということをいち早く見抜いていたのも赤ひげ先生だ。
そして、医術の限界と生命への畏敬を忘れることなく、貧困と認知不足から来る病と闘っていた。それはまさに現代にも通ずる考え方だと思う。

ちなみに、私のペンネームの新出孤蝶(にいでこちょう)は、赤ひげ先生こと新出去定(にいできょじょう)から想起したものである。

○「風に立つライオン」 著:さだまさし

さだまさしの名曲「風に立つライオン」。
1988年、若き医師は恋人を長崎に残し、アフリカでの地域医療を志す・・・。
この曲で国際医療を志した偉大な先輩方は少なからずいる。
それが時を経て小説となり、2011年の東北にバトンをつなぐストーリー。

「僕は現在(いま)を生きることに思い上がりたくないのです
 空を切り裂いて落下する滝のように
 僕はよどみない生命(いのち)を生きたい」(「風に立つライオン」歌詞)

今を一所懸命生きることが、未来につながっていく。
その強い思いは次の世代へと命に乗って、リレーのように受け継がれる。

○「賢者の書」 著:喜多川泰

非常に尊敬する人から勧められた一冊。パウロ・コエーリョの「アルケミスト」のようなファンタジーストーリーと、前述の「嫌われる勇気」を合わせたような本である。少年サイードは世界を旅して、9人の賢者から必要な教えを学び、「最高の賢者」を目指す物語・・・。

「手にしたピースがたとえ期待していたものと違ったり、今の自分には耐えられそうにもないほど辛いものに思えたとしても、それは人生における失敗ではない。かけがえのないパズルのひとピースを手に入れるという、大事な経験だったのだ。完成した絵を見れば、そのことに気がつくはずだ。
どうしてもそれが必要だったということに。」(「賢者の書」本文より)

それは一言で言うなれば、今まで自分が出会ってきた大切な言葉たちが、一堂に会したような本だった。


以上が、私の名刺代わりの本10冊である。

私は、私が今まで出会ったすべてのものの一部である
(ウィリアム・オスラー)

私はこの本たちをはじめとした、今まで出会ったすべてのもので、できている。


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