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研修医の読書感想文・おすすめの医療ミステリ3選

研修医の読書感想文、第2弾です。
前回は研修医向けの医学書をテーマに書きました。

今回は医療ミステリをテーマに書いてみようと思います。
中でも医療ミステリは私の特に好きなジャンルで、中学生くらいの頃からの大好物です。医師になる前と後では、既読ミステリでも読後印象は変わるので、今でも折を見て読み返しています。

今回は医師になる前となった後、読み返して「本当に面白い」と思えたおすすめの医療ミステリを紹介します。
あくまで個人の意見ですので、医療ミステリ選びの参考までに。

”自分の使命とは何なのか” 東野圭吾 「使命と魂のリミット」

○主人公:氷室夕紀・心臓血管外科(研修医)
○テーマ:「使命」「プロフェッショナリズム

○あらすじ
氷室夕紀は心臓血管外科医を志す女性研修医。帝都大学附属病院での研修で、念願の心臓血管外科研修に辿り着きます。そこの権威・西園教授は、夕紀の父の手術に失敗し、死に至らしめた張本人でした。時を同じくして、帝都大学附属病院に、「医療ミスを公表しなければ病院を破壊する」という脅迫文が届きます・・・。

○おすすめポイント
筆者の医療ミステリの原点。安定の東野圭吾であり、中学生当時夢中になって一気読みしました。医療ミステリですが、読みやすく書かれています。後半になるにつれて、脅迫者との闘いは一層スリリングな盛り上がりを見せます。
そして内容の面白さはもちろん、メッセージ性も本作の魅力の一つ。本作のキーワードは「使命」です。夕紀が「自分の使命」を医師という仕事に見出せるのか、そちらにも注目です。
東野圭吾だからこそのワクワクする展開を存分に楽しみながらも、自分が医師としての「使命」を果たせているのか考えさせられる、何度でも読み返したいミステリです。

「人間は生まれながらにして使命を与えられている」

東野圭吾 「使命と魂のリミット」より


”医学版シャーロック・ホームズ”  知念実希人 天久鷹央シリーズ

○主人公:天久鷹央・統括診断科(総合診療科)
○テーマ:「診断学」「現代『医学』版ホームズとワトソン

○あらすじ
天久鷹央(あめくたかお)は天医会総合病院の統括診断部長。空気は読めず、人とのコミュニケーションに難がある彼女は、実は日本最高峰の頭脳を持つ天才女医。外科医を辞めて内科医に転向した年上の部下・小鳥遊優(たかなしゆう)は鷹央に(ハチャメチャに)振り回されながらも懸命にサポートし、2人で難事件の謎について「診断」していきます・・・。

○おすすめポイント
作者の知念実希人自身が現役内科医であり、そのリアルかつ非常にわかりやすい説明や医療描写は流石のもの。おそらく日本で一番読みやすくて面白い医療ミステリを書く作家だと思います。筆者は知念実希人作品が好きで、ほぼ全巻揃えています。一見奇怪な事件(河童、人魂、吸血鬼、陰陽師の呪いなどなど・・・)ばかりですが、中身は全く荒唐無稽ではない診断学で、一般の方から、臨床推論を勉強したい医学生にもお勧めできます(ちなみに筆者は医学生時代の国試模試で、天久鷹央シリーズの知識で秒殺できた問題をいくつか経験しました笑)。鷹央と小鳥遊の関係は、まさに現代医学版ホームズとワトソンの関係そのもの。ライトノベルのようにスッと読めて、謎解きを楽しめて、さらに診断学の知識も身に付く、贅沢なミステリシリーズです。

「人間の生命というのは、それ自体が奇跡的なバランスの上に成り立っているものなんだ。そのバランスは、ちょっとしたことで容易に崩れ去る。
だからこそ、『死』を身近に意識しつつ、奇跡的に保たれている自分の生命に感謝しながら毎日を生きる。
それこそが正しい姿なんだと私は思っている」

知念実希人 天久鷹央シリーズ 「魔弾の射手」より


”緻密な描写に圧倒される” 多島斗志之 「症例A」

○主人公:榊・精神科医
○テーマ:「精神分析」「正常と異常の境界

○あらすじ
精神科医の榊が新しく受け持つことになった17歳の亜沙美。彼女は敏感に周囲の人間関係を察知し、ズタズタに振り回す厄介な患者でした。榊は亜沙美を「境界性パーソナリティー障害」と疑いますが、女性臨床心理士の広瀬は、彼女を「解離性同一性障害(多重人格)」ではないかと指摘します・・・。

○おすすめポイント
精神科ローテ中に一気に読了。精神科医が書いたのではないかと錯覚するほどの、緻密な精神医学領域描写に圧倒されました。そのリアルな描写は、巻末にある膨大な数の参考文献からも、説得力が裏打ちされています。「よくぞここまで調べ上げて書いたなあ」と、思わずにはいられない作品です。精神医学領域は本当に難しい・・・。
物語は榊のいる精神科病院が舞台の章と、国立博物館が舞台の章と交互に進んでいきます。クライマックスに向かうにつれて、2つの舞台それぞれに張り巡らされた伏線が交わり、解けていく味わいは、まさにミステリの醍醐味です。

「われわれ医者にとっての<事実>は、患者が過去の記憶に苦しめられている、という、その一点です。
記憶の内容が正しいかどうかはー何度も言うようにー二の次なんです。そう自分に言い聞かせるべきなんです。
われわれに必要なのは、患者に寄り添って、患者に共感しようとする姿勢、それだけだと思います」

多島斗志之 「症例A」より

以上、オススメの医療ミステリを3つに絞ってご紹介しました。
また様々なジャンルで読書感想文を書けたらと思っています。

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