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BtoB紙業務をリアルに体験〜ユーザー行動の解像度を上げるデザイナー向け社内イベント大公開

マネーフォワード クラウドでは、企業の様々なバックオフィス業務を効率化するためのサービスを提供しています。プロダクトデザイナーはこのバックオフィス業務の課題に寄り添い日々デザインをしています。

そんなプロダクトデザイナーにとって「ユーザーを理解する」ことはもっとも重要な仕事のひとつですが、デザイナー自身が実際に日々のバックオフィス業務をしているわけではありません。BtoBプロダクトは、BtoCとは異なり、気軽に自分ごととしてサービスを体験しにくいため、その他の手段でユーザー理解を深める必要があります。

普段プロダクトデザイナーは以下のような一般的なリサーチ手法で要件の整理やプロダクトの改善活動をしています。

  • 業務理解のための書籍やマニュアルの読み込み

  • エンドユーザーや社内バックオフィス担当へのユーザーインタビュー

  • 営業やCSから得たユーザーの声の分析

  • UIデザイン後のユーザビリティテスト

しかし、これらはすべて伝聞情報にすぎず、実体験すること以上の気づきを得ることは難しいです。そこで、身をもって体験できる場を何か企画したいと考えました。

ユーザーに近いビジネス部門との連携

マネーフォワードで大事にしているVALUEのひとつに「ユーザーフォーカス」があります。デザイナーとしては当然重要とされる価値観ですが、このVALUEは全社共通のものです。そのため、デザイナー以外の職能の社員もこの価値観を大切にしています。

例えば、フィールドセールス部門ではユーザーフォーカスを意識した勉強会の取り組みを行っています。それが「バックオフィスを覚えよう」と題した、紙運用によるアナログ業務を体験するワークショップ勉強会です。フィールドセールスが営業・提案活動をする際に、ユーザー企業様の課題を正しく理解して寄り添うために行っている社内教育の一貫です。

その勉強会の資料をみた時に閃きました。「この勉強会、そのままデザイナーの教育にも活用できるのでは」と。さっそくフィールドセールスに打診して、デザイナー向けの勉強会として開催することが決まりました。

これは、デザイナーもビジネス部門どちらもユーザーフォーカスの価値観を意識しているからこそ実現した勉強会と言えます。

今回この勉強会を企画してくれたのは、ビジネスカンパニー クラウドERP本部 セールス部の山口朋也さんです。

フィールドセールスの山口朋也さん

山口朋也さんは公認会計士を志し、短答式試験は突破したが、論文式試験で辛くも不合格。その後某人材会社にて、バックオフィス人材の派遣業に従事したのち、マネーフォワードにジョイン。ちょっと珍しい会計知識のあるフィールドセールスです。

山口さんの企画で総勢20名のプロダクトデザイナー向けにアナログ業務のバックオフィス体験会が行われることになりました。

なぜアナログ業務の体験会なのか?

通常のプロダクトのリサーチでは、そのプロダクトを使う前提でユーザー行動を見たり体験するようなリサーチをすることが多いです。しかし、日常的に業務でもプロダクトに触っているため、小さなユーザーペインに目が行きがちで課題意識も小さくなってしまいます。

アナログ業務を体験することで、プロダクトではなく業務そのものに目を向け、より大きい課題を意識する狙いがありました。また、そもそもSaaSプロダクトの存在自体がユーザーにもたらす価値を理解し、プロダクトデザイナーとしての責任と誇りを持ってもらういい機会になるのではと考えました。

このような理由で、あえてプロダクトを使わないアナログ業務にこだわり、体験会を開催しました。

バックオフィス体験会の内容

今回の体験会では営業部長と経理部長の承認業務に着目し、その2者になりきって業務シミュレーションをしました。

バックオフィス業務フローと体験の対象

営業担当者は、取引先との契約や出張などの業務で、経費申請やクライアントからの請求書受領の申告を行います。アナログ業務では、レシートや請求書はすべて紙でやりとりされ、申請書も紙印刷して申請した上で、承認者が承認印を紙に押す運用です。

社内システムで承認を行う場合は、経費と請求書の申請や承認は画面がきっちりと分かれていることが多いです。そのため1件1件チェックすることはそこまで負担にはなりません。

しかしアナログ業務の場合はすべてが紙運用です。申請書とレシートがばらばらと渡され、どの申請がどのレシートに紐づくのかがわかりにくく、さらには経費と請求書が混ざって申請されたりと、承認者の業務負担はかなり重くなります。

その上、申請書とレシート、事前申請と事後申告を見比べて内容が正しいかを様々な観点でチェックします。このチェックを短時間で膨大な量こなします。大変です。頭が上がりません。

この承認業務を体験することで、申請者がやりがちなミスにもより意識が働くようになるため、効率的に業務全体を理解することができます。今回はデザイナー2名1組のチームで営業部長役、経理部長役になり、次々にやってくる申請の内容チェックと承認をしてもらいました。

よりリアルな体験とするため、ワークでは以下のような工夫をしました。

  • 5分おきに申請書・レシート・請求書のどれか5枚をランダムに渡す

  • 申請書と関連するレシート・請求書はセットでは渡さずバラバラに渡す

  • 営業部長の承認印後、経理部長にはわかりやすく整理して紙を渡す

  • 申請書にはありがちなミスを混ぜる

申請で混ぜたありがちなミスは以下のような内容です。

  • 事前申請なのに過去日付

  • 事後申告なのに未来日付

  • 支払日の年指定ミス

  • 事前申請と事後申告の申請番号の不一致

  • 事前申請と事後申告の支払日の不一致

  • 事前申請のない経費の事後申告

  • 請求書受領申請の請求書添付忘れ

  • 申請書とレシートの金額不一致

  • 事前申請の金額から事後申告での金額オーバー

  • 重複申請

紙による申請書でのミスの見え方

ワーク中、同じ見た目の申請書の紙が大量にデスクに溢れ、デザイナーは「あの申請どこにいった?」と皆困惑。社内システム上より紙でミスを探すほうがはるかに難しいことを体感しました。

紙で溢れかえるデスクの上
ミス検知漏れで怒られる営業部長役

普段経理部門の方がこなす時間を目安に制限時間を設定してのワークでしたが、どのチームも時間内に作業を終えることはできませんでした。また、ミスに気づかず承認してしまう申請も多くありました。

改めて、普段バックオフィスを支える営業部門・経理部門のみなさまに感謝と尊敬の気持ちが芽生えました。

体験会の感想:講師

今回のバックオフィス体験会を実施した感想について、改めて山口さんに話を伺いました。

講師の山口朋也さん

”マネーフォワードのプロダクトは、ペーパーレス化を促進する性質上、実際の経理がどういった作業を行なっており、クライアントのどんな課題を解決すべきか、セールスとしては本当の意味で理解する必要がありました。

そのため、プロダクトをあえて使わず、現状よくある紙運用でを体験することで、経理業務のペインを味わってもらう勉強会をセールス向けに企画しました。

勉強会を通じて、「自分達が売っているプロダクトはこんなに素晴らしいものなんだ!」と感じていただく狙いがありました。そんななかデザイナーのみなさんからも声がかかり、セールス以外でもこの取り組みが役に立つことをしりました。

正直、めっちゃ嬉しかったし楽しかったですね。紙業務を体験していただく中で、「VとかUは間違えやすいから、使わないようにしよう」とか「そもそも紙運用でも透かしとか入れたら効率化できるんじゃ?」とか「人間のやる業務じゃない」とか様々な意見がでてきました。

デザイナーの皆さんは、本当に素直に楽しく嫌な気持ちになってくれました。そして、そのなかでもやはり人の感情や目線など、僕の研修の中でもキャッチアップしてくださる姿勢に本当に感動しました。これからも組織を跨いで仲良くしていきたいです。”

ビジネス部門もデザイナーも、根幹にあるのは「ユーザー課題の解決」で共通していることに、改めて気づけるいい機会になりました。

体験会の感想:デザイナー

参加したデザイナーにも以下のようなバックオフィス体験会の感想をもらい、多くの学びがある有意義な時間だったことが伺えます。

実業務に沿った体験をして、自分の手を動かすことで気づくことがたくさんありました。営業部長役をしたのですが、細かに確認していても再度チェックするとミスが見つかることがあり「紙作業の確認ってこんなにヒューマンエラーが起こりやすいのか…」と絶句しました。実際のバックオフィスの方はどういう工夫をして、エラー防止しているのか気になるので改めてインタビューをしてみたいです。

実際にやってて一番辛かったのは書類の管理です。どれがどのステータスの書類なのかがすぐに分からなくなるため、ホッチキスやボックスでの管理が必須になり、この整理がなかったらすぐにカオス状態になるだろうなと思いました。あと、申請番号、金額、日付などの情報を目視でチェックするのには限界があります。トラップがいくつもあるので何重チェックを行ったとしてもミスを減らすのはアナログでは難しそうと感じました。

営業部長の役割として参加しましたが、まったく裁くことができずに書類に埋もれていました。自分の処理能力者の遅さを棚に上げて「これは人間がやることじゃない......」と感じました。こういった作業をプロダクトを通して失くそうとしてると思うと、本当に意味のあることをしてるんだなと実感しました。今後ユーザーの要望を聞いた時には、共感しやすくなったり課題を深掘りしやすくなったりしそうです。

事前申請や事後申告で何を確認するか、どうしたら効率よく捌けるのか、などなど実際にやってみることで、初めて自分ごとに落とし込めてアイデア出しや議論ができるようになるなと思いました。実情を知るって大事です。

あっという間のワークの時間でした。5分ごとに申請が紙で配られて、自分が営業部長だったら「まとめて出して!!」とキレてたと思います。しかも間違いが多い。合っていると思って見ると間違いに気づけない。疑いの目でみると間違いに気づきました。性悪説で対応するのがよいと学びました。

今日はとりあえずやってみようというスタンスでしたが、次回があれば全問正解を目指したいです。紙が散乱して困ったので「差し戻し」「金額足りない」「OK」とステータスごとにボックスがあるといいなと思いました。差し戻しや、金額が足りないステータスから探したい書類をすぐに探し出せるようにするには…なんて考えていると、UIに転用できそうだと思いました。UIで迷ったら、画面を離れてアナログで考えてみるのはいいですよね。

さいごに

バックオフィス体験会では、ユーザーの業務の実態やペインを知るだけではなく、プロダクトを届ける意義そのものを感じることができました。さらに、ユーザーに近いビジネス部門との結束を強め、気軽にリサーチを行える関係性を築けたことも大きな効果でした。

今回の体験会以外でもユーザーの業務を網羅的に理解し、よりユーザーフォーカスのVALUEを体現するために、以下のような様々な体験会を企画することになりました。

  • 申請者のアナログ業務体験

  • プロダクトを使ったBPOの業務体験

  • 士業さんへ訪問しての1日業務体験

  • 社内バックオフィス部門での1日業務体験

これらの体験会を繰り返し、実際にプロダクト価値向上の成果に繋りはじめています。このような取り組みは1度で終わりがちですが、継続して定期的に行うことでよりデザイナーが意識的にユーザー理解をしていくことに繋がります。今後もやっていきたいと考えています。

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