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オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル『恋の隠し味』(2021年5月11日オンエア分ラジオドラマ原稿)

L.L.Beanのトートバッグから彼女はサンドイッチとサングリアを出した。

「サンドイッチとサングリアって太陽の下でいただくものだと思うの」
「どうして?」
「だって、どっちもサンがついてるから」


彼女はレジャーシートにちょこんと正座して無邪気に笑いながらそう答える。


サングリアの語源は赤い血を意味するスペイン語のサングレからきていることは、彼女には黙っておくことにした。

5月の太陽と風の機嫌が良かったので、室見川のそばの公園で僕らはピクニックをした。

この時期は人も光合成をしているのかってくらいに、みんな外で陽の光を浴びて、心地よい風に髪をなびかせる。


「タマゴサンドとハムサンドね」


彼女の作るサンドイッチはタマゴとパン、ハムとパンだけのシンプルなものだ。

「キュウリが嫌いなわけじゃないの。でもサンドイッチにキュウリは必要ないと思っている。だってマヨネーズにつくとキュウリの水分が出てべちゃべちゃになっちゃうのがやなの」

それが彼女の言い分だった。
そこまで言ったあとキュウリに申し訳ないと思ったのか。


「はい、キュウリのピクルス。サングリアとも合うと思う」

と言ってタッパを開けた。

「おいしそうだ。あれこっちのタッパには何が入ってるの?」
「これはね、カットしたりんごとオレンジとイチゴ」

赤ワインに浮かぶ果物たちだった。


「君たちのおかげで美味しいサングリアになりました」

と言って彼女はサングリアをグイッと飲んだ。

サングリアはワインに果物やスパイスを加えて一晩ほどつけ置いて作るフレーバードワインだ。
慌てて僕も乾杯と言って、グイッと口に含んだ。
果物の甘さと赤ワインの酸味の中にほのかなシナモンの香りが広がった。


「どう、おいしい?」
「うん、おいしい」

彼女は満足そうに微笑んだ。

5月には太陽の下でサングリアとサンドイッチのサンサンセットを食べる。
それが僕らの決まりになった。



ところが4月に僕が90%悪い喧嘩をしてしてまった。


週末は僕の部屋で過ごす彼女は、それからぱったり来なくなった。


もう5月も半ばに差し掛かっている。
僕は彼女にLINEを送って、和解の提案をした。


「今週末、一緒にピクニックをしないかい?」


LINEはすぐに既読になったが返事は帰ってこない。


「サンドイッチもサングリアも僕が作って持っていく」


またすぐ既読になるが返事はない。


「りんごとオレンジとイチゴ、それにシナモンも買ってあるんだ」


彼女がいつも作るサングリアのレシピだ。
冷戦は長引くのかと思われたそのとき。


彼女からLINEには「はちみつも」と書かれてあった。


おしまい

※こちらの小説は2021年5月11日放送(21:00~21:30)
LOVE FM こちヨロ(こちらヨーロッパ企画福岡支部)でラジオドラマとしてオンエア

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