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『夏の夜空』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2022年4月26日オンエア分ラジオドラマ原稿)

同僚に誘われて海辺のバーベキューパーティーにやってきた。

西の空では、夏の太陽が、本日の仕事を終え
東の空では、夜空がスタンバイしている。
     
何人いるんだろう?
ざっと100人くらいだろうか?

その場に参加している人は、みなが知り合いというわけでもなさそうだがどこかで誰かが知り合いのようだ。

社交的な同僚は、いつものようにグループの中心にいる。
人見知りの僕には、彼のような真似はできない。真似をしようとも思わない。

ただ、ノリが悪い奴になるのはごめんだ。
この場を適当に楽しんで帰れれば、それでいい。

女:「こんばんは。いらっしゃっていたのですね」

振り返ると、サングラスを頭に乗せ、エスニック柄のロングワンピースを着た女性が立っていた。ドキッとしたのと同時に、彼女がお得意先の女性であることに気付いた。そんな僕のリアクションを彼女は見逃さなかった。

女:「あれ~、こいつ誰だろ?って感じでした?

男:「い、いや、そんなことないさ。」

女:「それはよかった(笑顔)」

彼女のちょっと意地悪な笑顔に夕日があたる僕はその無邪気な眩しさのなかに小さな安堵を感じた。

女:「ビールをとってきますね」

男:「レディーにそんなことをさせていいのか?」

僕は先ほどのお返しとばかりに、優しく彼女を困らせてみた。

女:「それじゃ、取ってきてもらおうかしら?」

男:「喜んで」

女:「ふふ、わたしも一緒に行きます。いいでしょ?」

僕らはビールがある方へと歩き出した。

これまで話す機会がなかったわけではないが、こうやって何も気にせず話をするのは初めてのことのようにおもえた。

それから、どれくらいったのだろう。

いつの間にか、夜空には夏の大三角が輝き、僕らを照らす。

いつもは見上げることのない夜空。
僕は夏休みに星座の研究をしたことを思い出し、彼女に話した。

すると彼女はある星に指をさした。

女:「あの輝いている星は?」

男:「あれはベガっていうんだ。すごく綺麗に輝く星だよ」

女:「きれいだなぁ、星空がこんなに綺麗だなんて、いつもは気付かなかった」

僕は頷きながら、もう1つの気付かなかった星に、今夜初めて気付く。

それは、織姫星を指さした、僕のすぐとなりに座る星に。


おしまい



※こちらの小説は2022年4月26日放送(21:00~21:30)
LOVE FM こちヨロ(こちらヨーロッパ企画福岡支部)でラジオドラマとしてオンエア



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挿絵:Gota Ishida / 作:番組D

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