『助手席の恋人』(オトナの恋愛ラジオドラマ・イシダカクテル_2021年11月23日(再放送:11月27日)オンエア分ラジオドラマ原稿)
♪ビートルズ「サージェントペパーズロンリーハーツクラブバンド」
着心地のいいシャツの袖をまくって、僕はハンドルを10時10分に持つ。
カーステレオからビートルズの「サージェントペパーズロンリーハーツクラブバンド」が流れていて、助手席にはもちろん彼女がいて、寝息を立てている。
僕は少し前からアクセルをほぼ踏まなくなっていて、
つまりは渋滞だ。
(カーステレオの音を小さくする)
こういうときは不思議なもので、
音を小さくすると目を覚ましてしまう。
女「(起きた感じで)あれ寝てた?私」
男「少しね。大丈夫だよ寝てて」
女「ううん、寝ない」
(車はゆっくりと動き始める)
女「チョコ食べる?」
男「うん」
助手席の彼女はゴソゴソとバッグに手を突っ込んで森永ダースを取り出した。
女「はい、あーん」
男「ありがと」
女「高速乗る前にコーヒー買っとくべきだったね」
男「ほんとに」
女「判断ミス」
男「だな」
女「私も運転したいなあ」
男「こんな渋滞で運転したいって思う?」
女「だって運転変わってあげることできないし」
男「運転割と好きだから」
女「こんな渋滞は楽しくないでしょ?」
男「でも話してたらあっという間だよ」
女「私寝ちゃってたし」
男「助手席に座った人が寝るって、運転してる側からしたら、よっしゃって感じなんだよ」
女「なんで?」
男「だって、安心しきってるってことでしょ」
女「えーそういうもんなの?」
男「そういうもんだよ。命を預かってるんだからドライバーは」
女「私は助手席失格だなって思ったよ。寝ちゃうし、コーヒー買っとく判断もミスっちゃうし」
男「ふふふ、そんなことないさ。BGMは完璧だよ」
♪音がゆっくりと上がり、ビートルズの「ゲッティングベター」が流れている。
女「あ、進み出しだね」
男「もうこれで抜けるんじゃないかな」
(バーのざわめき。そこはバーになっていて、BGMでビートルズが流れている)
男「(ビールを飲んで)ぷはーうまい」
女「ねえ、運転の後のビールって、やっぱりおいしい?」
男「うん、間違いないね」
女「いいなあ、やっぱり私も運転したいな」
男「免許取ろって思ったことは?」
女「子供の頃にね、スイミングスクールに行きなさいって母親に言われたの。でも私、泳げないから嫌だって言ったの。それと同じ理由」
男「え?」
女「運転できないから教習所行きたくないって」
男「ふはは。なるほど」
女「よし、私免許取る」
(車の走る音。そこは高速道路に変わっていて、そこは高速道路に変わっていて、カーステレオから♪ビートルズの「ホエン・アイム・シックスティ・フォー」が流れている)
仕立てのいいシャツを着て、彼女はハンドルを10時10分に持っている。
カーステレオからビートルズが流れていて、
運転席の彼女は助手席に座る僕をちらっと横目で見た。
男「あれ、俺、寝ちゃってた」
女「うん」
男「あーごめん」
女「いいよ寝てて」
彼女の運転する車は静かに加速をしていく。
おしまい
※こちらの小説は2021年11月23日放送(21:00~21:30)
LOVE FM こちヨロ(こちらヨーロッパ企画福岡支部)でラジオドラマとしてオンエア https://radiko.jp/share/?sid=LOVEFM&t=20211123210000
※こちヨロは土曜日13:30~14:00でも火曜日の放送を再放送でお届けしています。
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